コロナ禍におけるスタートアップの資金調達手法の検討

2020/09/16

著者:司法書士・行政書士(しんせい総合法律事務所所属) 曽根圭竹
企業法務
コロナ禍におけるスタートアップ企業の資金調達手法とは

1.はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月7日に発令された緊急事態宣言も5月25日に解除され、さらに、6月19日からは都道府県を超えて移動することが緩和されるなど、徐々に新型コロナウイルスと共存しながら、経済活動が再開され始めました。

今までの社会生活を一変させた新型コロナウイルスが、スタートアップ(本稿では、ベンチャー企業の中でも、それまでにないビジネスモデルを用いて革新的な事業を展開することを想定している企業群を指し、それらの中でも創業後間もないシードステージ[1]やアーリーステージ[2]に位置する企業を念頭に置いた記載とします)に与えた影響を考察し、その上でスタートアップがWithコロナ時代に採るべき資金調達方法について検討したいと思います。

なお、本稿の構成としては、資金調達方法に関して概要を説明した上で、スタートアップが活用すべき資金調達方法や現在のような有事の際において重視すべき資金調達方法について検討したいと思います。

2.資金調達の概要

資金調達の方法

資金調達の方法として、①新株発行によるものや②借入によるものが主なものであり、その他にも③補助金・助成金によるものや、最近では④クラウドファンディングによるものがあります。

資金調達を行う者にとって、調達した資金について「返還義務が有るか無いか」の点はとても関心のある内容です。返還義務の有無は、資金調達の方法(契約内容)によって異なりますが、後述するようにそれぞれの資金調達方法には特徴があり、一長一短と言えます。したがって、それぞれの特徴を把握した上で、自社にとってどの方法が望ましいか見極めることが必要になります。

①新株発行

新株の発行による資金調達は、一般に「増資」と呼ばれ、提供を受けた資金の対価として株式を交付するため、調達した資金について会社が返還義務を負うことはありません。ただし、資金調達を受けた会社としては、新たな株主となる資金提供者に対し、剰余金の配当を行うなどして、経済的な利益を還元していくことが求められます。また、この方法の場合には、交付する株式の数によって、その会社の支配権に影響を及ぼすことになります。すなわち、資金提供者の新株発行後の株式の保有割合が過半数以上となるような場合に、当該会社の支配権がその資金提供者に移転し、直接支配されるだけでなく、資金提供者の新株発行後の株式の保有割合が3分の1を超過するような場合においても、会社法の特別決議事項(会社法309条2項)の成立を阻止することができるようになりますので、資金提供者としては、特別決議事項のような企業経営にとって重要な場面においても、経営に対し一定の要求をすることができるようになります。以上のことから、新たに発行する株式数については、自社の資本政策と照らし合わせながら決定していくことが必要になります。

資金提供者としては、より多くの剰余金を配当する株式会社に資金を提供した方が、合理的な投資となりますが、投資先の企業が上場企業以外の場合には、会社の定款に「株式の譲渡に際して会社(=株主総会や取締役会)の承認を必要とする」旨の規定を設けていることが一般的ですので、株式を売買しようとする場合には、会社の承認を受けなければなりません。このように非上場株式の取引市場は閉鎖的であり、また非上場企業は情報公開の仕組みが整備されていないことから、一般の非上場企業に投資をするケースは多くありません。結果として、新株発行により一般の非上場企業に資金提供をしようとする者は、自然とその会社の経営者や経営者の関係者などに限定されることになっていきます。

これに対し、将来株式公開を目指している非上場企業に対しては、株式公開時の株式売却益を得ることを目的として第三者から投資がされることがあります。特にシードステージからアーリーステージにいるスタートアップ(以下、本稿では「設立当初のスタートアップ」とします。)は、設立後間もなく商品製作の前提となる研究・開発などを行っていることが多いため、常に運転資金を必要としているケースが多くあり、投資のニーズがあります。

ただし、設立当初のスタートアップは、企業価値が低くなることが多く、投資額に比して、思いのほか多くの株式を交付しなければ必要な資金調達をすることができない場合があり、交付する株式の数が多くなればなるほど創業者の株式の保有割合が低下してしまい、スタートアップが成長していく過程で経営に支障を来す事例やその時点の経営権は確保できたとしてもその後の資金調達によって、創業者が経営権を失ってしまい結果として株式公開まで至らない事例などもありますので、創業者としては安易に投資を受けることには注意をすべきです。資本政策は一度失敗すると、後からそれを是正することがどのスタートアップでも行えるものではない[3]と言われており、設立当初のスタートアップが行う新株発行による資金調達には、十分な注意が必要です。

その観点からも、設立当初のスタートアップが新株発行による資金調達を検討する場合には、可能な限り創業者またはその関係者(親族等)が追加の資金提供者になることが望ましいと言えますが、エンジェル投資家[4]やインキュベーター[5]/アクセラレーター[6]から資金だけではなくノウハウや人脈などの提供を受けることでスタートアップの成長速度が加速することもありますので、スタートアップにとって資金調達は単に資金を集めるだけではなく、その企業の存続をも決める重要な意味を持つものとなります。

②借入

前述のとおりスタートアップを除く非上場企業においては、外部の投資家から資金調達をして新株発行をすることは多くはありません。他方、経営者としてもわざわざ自らの財産を切り崩して会社に対し資金提供しても、会社の支配について何か変更が生じるわけではありませんので、よほどの必要性が無い限り新株発行による資金調達は行わず、借入により資金調達をするのが一般化しています。借入による資金調達の方法には、主に金融機関との金銭消費貸借による方法や会社法で定める社債(会社法676条以下)を発行するような方法があります(なお、本稿の対象としているスタートアップが新株予約権付社債を除く社債を発行するケースはあまり考えられませんので、記載は省略します)。金融機関と言っても(ア)銀行、(イ)信用金庫、(ウ)信用組合などの民間の金融機関と、(エ)日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関に大別でき、それぞれの金融機関が想定している融資先は異なります。

その中でも特に創業時に利用しやすいのが、創業融資制度であって、これらを扱うのは(エ)政府系金融機関の中でも主に日本政策金融公庫になります(詳細は日本政策金融公庫のホームページをご参照ください)。

借入の場合、経営への規律付けや信用補完を目的として経営者(代表者)が連帯保証人として、借り入れた債務を保証することが未だに多く、経営者としては、借り入れた金銭を返済しなければ、自己の財産を失ってしまうというプレッシャーを受けながら返済を続けていくことになります。他方、借入金を返済しさえすれば、債権者から介入されることはありません。したがって、小売業のように日々売上としての現金等が流入する事業体であれば、借入による資金調達は比較的受け入れやすい方法になります。ただし、返済が滞った場合には、債権者は、貸し付けている金銭の返済を受けるために、株主以上に会社経営に対して口出しをするなど、非常に強い影響力を持つことになります。株主が有する剰余金の配当請求権は配当に対する期待権でしかありませんが、債権者が有する貸付金の返還請求権は、金銭消費貸借契約から生じる請求権であることからもその違いは明らかです。以上のことからも、借入による資金調達は、安定して返済することができるような収益構造であれば利用しやすい方法と言えますが、それに該当しない場合には利用すべき方法ではありません。その点を考慮すると、通常、設立当初のスタートアップは、安定して売上を上げる時期ではないことが多く、借入による資金調達には向かないと言えます。

③補助金・助成金

補助金・助成金は、国や地方法公共団体が企業の創業・雇用創出に対して、交付する金銭となりますので、返還義務はありません。ただし、いずれの制度も(補助金や助成金を交付する)一定の目的に沿うような形で活用されているかどうか定期的に報告等を求められ、監視される場合があります。

補助金は、予算が決まっており、支給までに抽選や審査を受けることがありますが、助成金は、一定の要件を満たせば誰でも支給を受けることが可能です。それぞれ、その時期によって利用できる制度が異なりますので、利用可能な制度については、早めに情報収集していく必要があります。

もちろん、設立当初のスタートアップにとっても活用できる補助金や助成金があれば、利用すべきですが、制度の変更や募集時期の制約もありますので、人材に乏しい設立当初のスタートアップとしては、専門家を利用するなどして対応する方が望ましいでしょう。

④クラウドファンディング

また最近では、インターネット上で自らのアイディアや商品等を宣伝して資金を募り、それに対して賛同する不特定多数の者からの資金調達を行うクラウドファンディングの方法があります。この方法は、インターネット上のクラウドファンディングプラットフォーム(資金需要者が必要な情報を掲示して資金提供者から資金提供を募るためのウェブサイト)で行われ、従来に比べて低コストかつ容易に情報の提供、資金提供者と資金需要やのマッチングを行うことができるとされています[7]

クラウドファンディングは、資金提供者が資金提供の対価を取得するか否か、また取得するとしてもどのような対価を取得するかによって、以下のように分類されます。

(1)寄附型クラウドファンディング
まず、資金提供者が資金提供の対価を取得しない場合には、「寄附型」となり、調達した資金の返還義務や株主への配当などの直接的な利益還元義務は生じません。主に、災害等からの復興支援や発展途上国への支援等の目的で活用されることが多いとされています[8]
(2)購入型クラウドファンディング
次に、資金提供の対価として、資金需要者の商品やサービスが提供される「購入型」については、調達した資金を元に、商品やサービスの開発・製造を行い、それらを資金提供者に対して提供することが多く、調達した資金は、商品やサービスの代金の前払いの性質を有し、商品やサービスの提供義務を除き、返済義務や配当などの利益還元義務はありません。なお、商品やグッズの提供のほかに、当該商品に資金提供をした者の氏名を掲載する場合もあり、宣伝手段としての役割を担うことがあるとされています[9]
(3)貸付型クラウドファンディング
これらに対し、クラウドファンディングによる資金調達の規模として最も大きな市場である「貸付型」があります。この貸付型クラウドファンディングは「ソーシャルレンディング」と呼ばれており、購入型の市場の7倍近い規模となっています[10]
貸付型クラウドファンディングは、借入による資金調達の一種となりますので、資金需要者としては、返済義務を行うことになります。資金提供者側は、銀行預金と異なり、提供した資金について元本保証はありませんが、従来の銀行預金よりもはるかに大きな利回りを期待できるメリットがあります[11]。なお、資金提供者としては一般の個人のみでは貸金業の免許取得などで困難なことから、通常の場合、クラウドファンディングプラットフォーム運営者が貸金業登録を行い、一般の個人からは貸付けのための資金を匿名組合出資のかたちで募ることになり、一般個人は、貸金債権に対する匿名組合出資者として、元本や利息を回収できないリスクを負担することになります。
(4)投資型クラウドファンディング
最後に、「投資型」クラウドファンディングがあり、新株発行による資金調達と同様、資金需要者には返済義務は生じません。なお、投資型の場合、資金提供者が直接株主になる株式投資型クラウドファンディングと資金提供者が資金拠出した匿名組合の出資持分を取得するファンド型クラウドファンディングに分けられることになります。
資金調達としては購入型クラウドファンディングが利用できるのであれば是非検討をお勧めします。資金提供者(ユーザー)からのフィードバックを受けることもでき、更なる商品の改良や商品開発のヒントを受けることができるかもしれません。ただし、クラウドファンディングの設定上、目標金額に達しない場合には、プロジェクトを不成立として、1円も受領できないこともありますので、留意する必要があります。

3.スタートアップにおける資金調達

以上のような資金調達方法の中からスタートアップは、「①新株発行」を選択すべきです。その理由としては、スタートアップが行う事業は、今までに存在していなかったような事業を展開していくことから、事業として展開することについて不確実性が高く、その反面、事業展開がうまくいけば大きな収益を上げるような事業であることが多いため、定期的に返済が求められる「②借入」には向かないことや、経済活動がグローバル化している今日において、世界の各地のライバル企業と競争して行くには、多額の資金が必要な場合が多く、設立後間もなく信用力に乏しいスタートアップが多額の借入を行うことは現実的に難しい場合が多いためです。スタートアップとしても、借入金の返済に気をとられず、事業に全力を注ぐことができれば、それだけ成長速度を上げる結果につながることも想定されます。

ただし、新株を発行して資金調達を行う場合の問題点として、設立当初のスタートアップの表面上の企業価値が小さいことから調達する資金額によっては、投資家の株式保有割合が起業家のそれを超えてしまうことがあります。この考え方では、スタートアップの産みの親である起業家は、経営コントロール権を失ってしまうことになり、起業家は事業を発展させようとするインセンティブを奪われてしまいます。

そこで、スタートアップが新株を発行して資金調達を行う場合には、会社法108条以下の種類株式を活用し、その設計の仕方を工夫することでスタートアップに主に資金を提供するベンチャーキャピタル(VC)・コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)に対し割り当てる株式1株あたりのバリエーションを高く設定することができますので、多額の資金調達を行ったとしても、起業家(=オーナー株主)の持株割合の大幅な低下を防ぐことが可能となります。また、資金提供をするVCやCVCなどの投資家としても投資契約や株主間契約と種類株式を併用することで、スタートアップの経営の一部に対してより明示的に関与することが可能となり、また、種類株式の設計の仕方によっては、優先的に投資額の回収を図ることができますので、当事者のいずれからしても、借入による資金調達以上に新株発行による資金調達の方法がスタートアップには向いていると言えます。

4.コロナ禍の時代における資金調達

ただし、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、経済活動の縮小を余儀なくされたことで、スタートアップへの投資に対しても影響が生じています[12]。そのような中でスタートアップが考えなければならないのは、他の企業と同様、企業を存続させることです。設立当初のスタートアップにとって新株発行での資金調達が困難となれば、成長スピードが遅くなるだけでなく、場合によっては、運転資金が欠乏し、倒産が現実的になってきます。

前述したとおり借入による資金調達はスタートアップに向いておらず、返済の存在自体が成長の障害になることも考えられます。しかし、借入であっても定期的な返済を求められない内容の借入であれば、話は異なります。つまり、融資内容として、返済義務が猶予され(または返済義務の負担が小さく)、かつ、事業展開に必要な資金調達が可能になるのであれば、借入による資金調達もスタートアップにとって利用しやすい資金調達の方法になります。

日本政策金融公庫や商工組合中央金庫においては、「資本性ローン」や「資本的劣後ローン」の名称で提供されている融資制度があり、それらの特徴として会計上は負債として扱われますが、金融機関の債務区分の判定の際は、純資産(自己資本)とみなすことができることにあります。したがって、(追加で融資を受けるかどうか別として)融資審査では、きれいな決算書として判断されることになるため、追加借入に際しても影響が少ないと考えられています。また資本性ローンのもう一つの特徴として、日本政策金融公庫が提供する挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)では、返済が借入から最短でも5年1か月後(最長15年後)に一括返済となり(原則として期限前の返済は認められていません)、それまでは利息のみの支払いとなりますので、借入をするスタートアップとしても、ひとまずは月々の返済に気をとられることなく、企業の成長に注力することができます。

ただし、業績に応じた金利設定となるため、業績が好調なときは、業績が低調なときに比べて、金利負担が大きくなる[13]ことに留意する必要があります。

なお、現在の新型コロナウイルスの影響を受け、本年8月上旬以降資本性劣後ローンとして、貸付限度額が以下のように増額されることも7月5日現在決まっていますので、貸付対象に該当するような場合には、積極的に利用を検討しても良いと思います。

事業区分 通常の融資限度額 コロナ禍の融資限度額
国民生活事業 4000万円 7200万円
中小企業事業 3億円 7億2000万円

5.おわりに

新型コロナウイルスを完全終息させるためには、ワクチンや特効薬の開発などが不可欠となりますが、現時点ではそれがいつになるかは定かではありません。1日でも早い終息が望まれますが、この状況が数年続く可能性もゼロではありません。スタートアップは成長過程にあるからこそ、柔軟な対応が可能な企業体です。この新型コロナウイルスが各企業に与えたインパクトは計り知れませんが、こんな状況だからこそ新たな発想・着眼点で対処することが求められているのではないでしょうか。

以上

脚注

1. 小川周哉=竹内信紀編「スタートアップ投資ガイドブック」11頁(日経BP、2019年)によれば、必要最小限のリソースを使いつつ、必要最小限の投資を受けてアイディアを形あるものに昇華させる段階とされています。

2. 同掲1_11頁によれば、自身のプロダクトを基に徐々に実績(トラクション)を積み上げ、少しずつ収益を獲得していく段階とされています。

3. 磯崎哲也「起業のエクイティ・ファイナンス-経済革命のための株式と契約」199頁(ダイヤモンド社、2014年)

4. 同掲1_27頁によれば、他人から預かった資金ではなく、個人の資産を使って初期のスタートアップに対して資金を提供してくれる投資家(個人)とされています。

5. 同掲1_24頁によれば、起業家が手に持っているビジネスアイディアを成熟させ、ビジネスとなり得る状態にして「孵化」させる役割を担うとされています。

6. 同掲1_25頁によれば、すでに形となっているビジネスアイディアを基に、実際にビジネスを構築し、プロダクトとして世に出すプロセスを加速させる役割を担っているとされています。

7. 桃尾・松尾・難波法律事務所編「ベンチャー企業による資金調達の法務」220頁(商事法務、2019年)

8. 同掲7_222頁

9. 同掲7_224頁

10. 一般社団法人日本クラウドファンディング協会「クラウドファンディング市場調査報告書」2,3頁(2020年6月19日)

11. 長谷川清『ソーシャルレンディング(日本版P2Pレンディング)の現状と課題』21,22頁(成城大学経済研究所、2019年)によれば、期待利回りは年率4%から10%の間に収まるとされ、総平均は6.55%としています。

12. 「国内VC投資3割減」日経電子版2020年6月22日(2020年7月6日最終閲覧)

13. 通常の金利設定として高い利率の場合、4%が最も低い利率となります。

  • 著者プロフィール

曽根圭竹

司法書士・行政書士(しんせい総合法律事務所所属)

一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻修士課程修了。
不動産に関する法務を中心に業務を展開しながらも、自身の研究テーマであるスタートアップ企業の法務支援や医療機関の法務支援も行うマルチプレイヤー。
著書に、『医院開業から法人化,経営・継承まで弁護士,税理士,司法書士,行政書士,社労士が答えました!(共著)』『実務が変わる!令和 改正会社法のまるごと解説(共著)』がある。