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[ベンチャー・スタートアップ] 第5回:ベンチャー企業が創業から上場までに採用する会社の機関設計

著者:しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士  曽根 圭竹

[ベンチャー・スタートアップ] 第5回:ベンチャー企業が創業から上場までに採用する会社の機関設計

平成18年5月(2006年)に施行された会社法は、それ以前の法律と異なり、多種多様な機関設計を認めています。

ただし、会社の規模が大きくなるにつれて、その会社に関係する者も多くなることが想定されることから、会社法が定める一定の規律が適用されることになります。

本稿では、ベンチャー企業が上場までに辿る一般的な成長過程に則って、採用が想定される機関設計について、解説を試みたいと思います。


1.会社法が定める機関設計

会社法は、「株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない」と定めています(会326条1項)。そして、取締役以外の機関については、定款に定めることで、それぞれ設置することができるとしています(会326条2項)。

これに対し、①株式の譲渡が自由な場合や②一定の資本金等を超える場合には、会社法で設置が強制される機関もあります(会327条、328条)。

まず、①株式の譲渡の自由な場合とは、会社法上の「公開会社」であることを指します。ここでいう公開会社とは、「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」をいいます(会2条5号)。すなわち、1株でも株式の譲渡について制限がない株式会社については、公開会社に該当することになります[1]

具体的に、公開会社においては、株式の譲渡が(実際にできるかどうかは別として)しやすい環境にあり、株主による監督が機能しにくい状況にあることから、取締役だけでなく、取締役会を設置する必要があります(会327条1項)。そして、取締役会を設置した会社は、監査役(または監査等委員会もしくは指名委員会等)も設置しなければなりません(327条2項)。なお、これらの点に関し、非公開会社においては、株主による監督機能も想定されることから、取締役会の設置は必須とはされておらず、また取締役会を置いた場合でも、会計参与を置く場合には、監査役を置く必要はありません。

次に、②一定の資本金等を超える場合とは、「大会社」であることを指します。ここでいう大会社とは、(1)最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上である株式会社か(2)最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会2条6号)が、これらの規模が大きな会社は、債権者等の利害関係者も多く存在するであろうという発想のもと、会計監査人の設置が義務付けられています[2]。そして、大会社であり、かつ、公開会社である会社については、設置が義務付けられる取締役会とのバランスから会計監査人のほかに監査役会(または監査等委員会もしくは指名委員会等)を設置する必要があります(会328条1項)。これに対し、非公開会社である大会社については、会計監査人は設置が義務付けられます(会328条2項)が、監査役会の設置までは求められず、監査役を設置することで足ります。

2.創業から上場までにベンチャー企業が置かれる状況

ベンチャー企業が、創業から上場(申請)までの過程をグループ化した場合、大きく①創業期(=創業からエンジェル投資家までの出資を受ける状態)を経て、②アーリーステージ(=ベンチャーキャピタル等から初めての出資(いわゆるシリーズA)を受ける状態)に移行し、その後③レイターステージ(=複数回の出資を経て、大会社になっている状態)に突入し、最終的に④上場申請直前時(=株式の譲渡制限に関する規定が廃止され、公開会社となっている状態)に至るケースが多いと考えられます。

①創業期

我が国における中小企業を含む非上場企業は、ほとんどの会社が非公開会社になることを選択しますが、創業期は、起業家のもつアイデアを事業にするために活動していく時期となりますので、起業家を中心に少ない人員で事業を始めるケースが多くなります。そのため、起業家=業務執行者=株主の関係であることが多く、株主が業務執行機関である取締役を監督するために、わざわざ別の機関を設ける必要性は少ないことから、会社法が定める最小の機関である「株主総会と取締役のみ」とする機関設計が最も適していると考えます。また、迅速な意思決定をするためにも、取締役の人数は必要最低限とするべきであるといえます。これに対し、ジョイントベンチャーのように当初から別々の第三者の関与が想定される場合には、出資者自身が相互牽制する観点からも設立当初から取締役会設置会社として活動していくこともあります。

②アーリーステージ

その後、事業が少しずつ軌道に乗った場合には、更なる成長のため、ベンチャーキャピタル等(以下、単に「VC」といいます。)から出資を受けたりしていきますが、その時点では、VCからの役員の派遣要請などもあることから、会社として取締役会設置会社に移行する事例が多いように感じています。取締役会設置会社においては、取締役は三人以上でなければなりませんので、経営担当取締役・事業担当取締役・財務担当取締役のように分けることも会社として適した規模になっていることが想定されます。先にも述べたとおり、非公開会社で取締役会を置く場合には、会計参与を置くことで監査役を置く必要はなくなりますが、実務上、会計参与を設置することは稀であり、多くのベンチャー企業は監査役を設置する取締役会設置会社になることを選択しています。ただし、この時点では、企業の成熟度はまだ低く、取締役の職務執行を監査することに重点が置くよりも、法的に必要であるから、仕方なく監査役を置いているようなケースもあり、数は少ないかも知れませんが、本来監査役に求められている取締役の業務執行を監査するという役割が果たせていない事例も、存在しているように感じます。

③レイターステージ

近時のベンチャー企業が扱う事業内容は、日本国内のみならず全世界を市場として想定している場合が多く、事業を展開するためには多額の資金が必要となります。そのため、出資を受ける回数やその金額も高額となるケースが多く、結果として、会社法上の大会社に該当するケースも存在します。その場合においては会計監査人の設置が必要となりますが、やはり非公開会社であることから監査役会を設置するか否かについては、検討の余地があります。監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければなりません(会335条3項)ので、この時点から、社外役員の人選に関する問題に直面することになります。なお、上場準備の観点からはこの時点から監査役会の体制を整備していく方が無難ということができるでしょう。

④上場申請直前

これらの過程を経て、上場申請直前には、株式の譲渡制限に関する規定を廃止することになりますが、上場準備の直前年度では、上場後と同様の運用がなされていることが求められますので、会社の機関として大きく変更することはないことが多いと考えられます。なお、会社の機関に直接影響はしませんが、東京証券取引所は、一般株主を保護する観点から、上場会社に対して、独立役員(=一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役をいいます。)を一人以上確保することを求めており、また、公開会社のうち大会社である監査役会設置会社にあっては、社外取締役を置くことを前提としていることにも注意を要します。

3.まとめ

令和3年3月1日から令和元年改正会社法が施行されており、改正内容の一つとして、上場会社等については、社外取締役を置くことが義務づけています(改正327条の2)ので、株式上場を視野に入れたベンチャー企業にとっても機関設計を検討する際に関係してきます。株式上場を視野に入れた際には、どのような機関設計が株主の利益を最大化するのかといった観点から、最も適した機関設計を選択する必要があり、その会社のIR活動にとっても大きな意味をもちますので、事前にそれぞれの機関設計の違いを把握し、準備していくことがベンチャー企業にとってもは有意義といえます。

以上

脚注

1.これに対し、公開会社以外の会社(本稿では、「非公開会社」として記載します)においては、すべての株式が譲渡の際に一定の制限を受けることになるため、結果として株主の構成に変化が生じにくい会社となることから、機関設計についても、会社法は、各社の判断に任されているといえます。

2.なお、会計監査人の選任が必要となる会社については、監査役(または監査等委員会もしくは指名委員会等)の設置が義務付けられています(会327条3項、5項)。

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著者プロフィール

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曽根 圭竹

しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士

一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻修士課程修了。
不動産に関する法務を中心に業務を展開しながらも、自身の研究テーマであるスタートアップ企業の法務支援や医療機関の法務支援も行うマルチプレイヤー。
著書に、『医院開業から法人化,経営・継承まで弁護士,税理士,司法書士,行政書士,社労士が答えました!(共著)』『実務が変わる!令和 改正会社法のまるごと解説(共著)』がある。

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