[契約書の書き方]
第2回:取引基本契約書②

2020/10/08

著者:弁護士 林 康弘
企業法務
取引基本契約書の書き方を学ぶ

今回は、前回に続き、取引基本契約書の具体的な条項について解説します(本ページに掲載の「取引基本契約書(民法改正対応)」の書式と本コラムで紹介する規定例とは、必ずしも一致しませんので、ご了承ください)。

取引基本契約書(民法改正対応)

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基本契約と個別契約の関係

第2条(基本契約と個別契約)
本契約に定める事項は、前条の商品について甲乙間で締結されるすべての売買契約(以下「個別契約」という。)に適用される。ただし、個別契約の内容が本契約と異なるときは、個別契約の定めが適用される。

本条は、取引基本契約(以下「基本契約」といいます。)の適用範囲と、基本契約と個別契約との関係を規定したものです。前回のコラムで解説したとおり、第1条において対象商品を規定しましたので、第2条の本文では、基本契約がこれを目的物とするすべての個別契約に適用されることを確認しています。

ただし書は、基本契約と個別契約との適用関係を規定したものです。取引開始後に何らかの問題が生じた場合に備え、基本契約と個別契約のどちらに定められた条項が適用されるのかを明確にしておくことが重要です。上記の規定例では、個別契約の定めが優先することとしています。基本契約にどの程度詳細な条項を設けておくか、個々の取引に応じて取り決める必要のある事項がどの程度生じると予想されるかなどの事情を考慮し、どちらが優先するのかを定めるべきです。

法律と契約との優劣、契約相互の優劣

本題からは逸れますが、筆者が弁護士業務を行う中で、基本的なことですが一般の方々に(場合によっては弁護士でも)よく理解されていないと感じる問題の一つに、法律と契約との適用関係の問題があります。私人間に適用される民事法については、強行規定や公序良俗に違反する場合(民法90条)を除き、当事者間の契約で法律の規定と異なる合意をすれば、その合意内容(特約)が優先適用されます(民法521条2項※)。契約で定めなかった事項については、一般的に法律の規定が適用されることになります。

また、基本契約と個別契約が存在する場合には、上記の基本契約2条ただし書のように優先関係を定めなかったときでも、個々の取引の実情に応じて規定された個別契約が優先すると解釈される場合が多いと思われます。さらに、個別契約の内容をさらに修正するような特約(覚書など)が交わされた場合には、その特約が優先適用されることになります。

※民法521条2項
契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

個別契約の成立と内容

  • 第3条(個別契約の成立及び内容)

    1. 個別契約は、乙が甲に対し、発注年月日、商品の品名、品番、数量、単価、納期、納品場所等を記載した注文書を交付することにより申込みを行い、甲が乙に対し注文請書を提出することにより承諾した時に成立する。
    2. 甲が前項の注文書を受領した後、5営業日以内に乙に対し諾否を通知しないときは、甲が当該注文を承諾したものとみなし、当該注文書に記載のとおり個別契約が成立する。

契約は、当事者の申込みと承諾によって成立します(民法522条1項※)。
基本契約の本条1項では、個別契約の申込みと承諾の方法を規定しています。売買取引において、個別契約が成立しているかどうかという根本的な点で問題が生じないよう、申込みと承諾の方法は明確に規定しておくべきです。

※民法522条1項
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

基本契約3条2項は、売主の承諾期間を定める規定です。これは、売買取引を円滑に進めるため、例えば上記の規定例のように5営業日以内と定めるなどして、その期間(当該取引の性質に照らして合理的な期間)内に申込みを拒絶する通知がされなかった場合には契約が成立すると定めておくものです。契約書にこのような規定を設けた場合、承諾期間内に承諾の通知がなかった場合に申込みが失効するという民法523条2項※及び諾否通知義務に関する商法509条※※の規定に対する特約を定めたものと考えられます。

※民法523条2項
申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

  • ※※商法509条

    1. 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
    2. 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。

商品の納入

  • 第4条(納入)

    1. 甲は、乙に対し、個別契約に基づき商品を納入する。
    2. 甲は、納期に商品の全部若しくは一部を納入することができない事由が生じたとき又はそのおそれがあるときは、直ちに乙に通知し、甲及び乙は、商品の納入時期等について協議する。
    3. 甲は、その責めに帰すべき事由により商品の納入を遅延したときは、乙に対し、これによって乙が被った損害を賠償しなければならない。

本条は、納品の遅延に関し生じる問題について規定するものです。売主から買主に納期までに商品が納入されないと、買主の製品(基本契約1条の××)の製造及び販売に重大な支障をきたす可能性があります。この場合、買主側としては、自社の指示に従って売主に対応してもらいたいと考えるでしょうし、一方、売主側としては、買主の一方的な指示に従わなければならないとすると、その指示に従った対応ができなかった場合、納品に関する債務不履行責任のリスクを負うことになります。そこで、上記の規定例(4条2項)では、甲乙間で納入時期等について協議することとしています。

本条3項は、納品が遅延した場合の損害賠償責任について定めています。上記の規定例では、売主の帰責事由により遅延した場合に、これと因果関係のある買主の損害を賠償するという一般的な規定としていますが、特に損害賠償の範囲や金額をどのように定めるかについては、様々なバリエーションが考えられるところです。例えば、遅延損害金として、売主が買主に対し、1日あたり契約金額のうち履行遅滞部分の○○%に相当する金額を支払う、というように規定しておくことも考えられます。

違約金、違約罰、損害賠償額の予定

上記のような遅延損害金は、当事者が予め債務不履行の場合の損害賠償の額又は算定方法を取り決めておくものであり、通常、損害賠償額の予定(民法420条1項※)に当たります。この取決めがあれば、現実に債務不履行が発生したときに、債務不履行の事実があることだけ証明すれば、損害の発生及びその額を証明することなく、損害賠償請求をすることが可能となります。

「損害賠償額の予定」と区別して理解しておかなければならない概念として、「違約金」と「違約罰」がありますので、ここで説明しておきます。

まず、「違約罰」は、現実の損害とは別に制裁として支払う金額を定めるものです。一方当事者が現実に被った損害については、その当事者が別途立証して相手方当事者に賠償請求することができます。上記の遅延損害金の取決めを、違約罰として規定することも可能です。

次に、「違約金」は、文字どおり、契約に違反したときに支払われる金銭です。これには、「損害賠償額の予定」の場合と「違約罰」の場合とがあります。契約書などから当事者の意思が明らかでない場合、違約金は損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項※)。

  • ※民法420条

    1. 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
    2. 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
    3. 違約金は、賠償額の予定と推定する。

次回は、納入された商品の検収(第5条)と、所有権の移転に関わる問題等を中心に解説します。

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  • 著者プロフィール

林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘ほか編『実務解説 会社法Q&A』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。