[契約書の書き方]
第5回:取引基本契約書⑤

2021/01/20

著者:弁護士 林 康弘
企業法務
取引基本契約書の条項を解説

今回は、取引基本契約書の解説の最終回です。前回の続きの条項から、最後までを解説します。

取引基本契約書ひな型

取引基本契約書ひな型

秘密保持義務

第14条(秘密保持)

甲及び乙は、相手方より秘密である旨の指定を受けて提供された情報を営業秘密として取り扱い、相手方の事前の書面による承諾を得ない限り、第三者に開示してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

  • (1) 提供を受けた時に、既に自己が了知していたもの。
  • (2) 提供を受けた時に、既に公知であったもの。
  • (3) 提供を受けた後に、自己の責めに帰すべき事由によらずに公知となったもの。
  • (4) 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に取得したもの。
  • (5) 相手方から提供を受けた情報とは関係なく、独自に開発したもの。

本条は、当事者が、取引を通じて開示を受けた相手方の営業秘密を、外部に流出させないようにするための、秘密保持義務について定めるものです。
営業秘密とは、不正競争防止法2条6項において定義されているとおり、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます。要するに、秘密管理性、有用性、非公知性という3つの要件をみたすものが、法的に営業秘密として取り扱われます。このうち秘密管理性については、情報が記載・記録された紙媒体・電子記録媒体に「マル秘㊙」表示をすることなど、秘密であることが客観的に認識し得る措置をとっておくことが重要です。

経済産業省は、不正競争防止法による保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示すものとして「営業秘密管理指針(最終改訂:平成31年1月23日)」を公表しています。

※ 秘密保持に関しては、別途秘密保持契約を締結することにより、営業秘密の取扱い等について詳細な約定を交わすことも実務上多くみられます。本コラムの次回以降のシリーズでは、秘密保持契約書の規定について解説する予定です。

反社会的勢力の排除条項

第15条(反社会的勢力の排除)

1 甲及び乙は、相手方に対し、次の各号に掲げる事項を確約する。

  • (1) 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下、これらを総称して「反社会的勢力」という。)ではないこと。
  • (2) 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう。)が反社会的勢力ではないこと。
  • (3) 反社会的勢力が経営を支配していると認められる関係を有しないこと。
  • (4) 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、本契約を締結するものでないこと。
  • (5) 甲及び乙は、自ら又は第三者を利用して、本契約に関して次の行為をしないこと。
    • ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為。
    • イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為。

2 甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告を要することなく、直ちに本契約を解除することができる。

  • (1) 前項(1) 、(2)又は(3)の確約に反することが判明したとき。
  • (2) 前項(4)の確約に反して本契約を締結したことが判明したとき。
  • (3) 前項(5)の確約に反する行為をしたとき。

3 甲又は乙は、相手方から前項の契約解除の通知を受けたときは、相手方に対し負担する一切の債務について期限の利益を喪失し、直ちに債務全額を弁済しなければならない。

本条は、各当事者が、反社会的勢力に該当せず、また、反社会的勢力と関わりがないことを確約し、これに反した場合に無催告で契約を解除できる旨を規定するものです。
政府は、平成19年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を取りまとめ、同指針に基づき、平成22年12月には「企業活動からの暴力団排除の取組について」を取りまとめています。企業が社会的信用を維持し、持続・発展していくためには、法令その他の社会的規範を守ること(コンプライアンス)が重要であり、本条のような反社会的勢力の排除条項を設けることは必須です。

契約解除

第16条(契約の解除)

甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当するときは、何らの催告を要することなく、直ちに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。

  • (1) 本契約又は個別契約に違反し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず、当該期間内に是正しないとき。
  • (2) 差押え、仮差押え、仮処分、その他強制執行の申立てを受けたとき。
  • (3) 公租公課の滞納処分を受けたとき。
  • (4) 自ら振り出し又は引き受けた手形、小切手若しくは電子記録債権が不渡りとなったとき、又は支払停止となったとき。
  • (5) 破産、民事再生、会社更生のいずれかの手続開始の申立てがあったとき。
  • (6) 資産、信用又は事業に重大な変化が生じ、本契約又は個別契約に基づく債務の履行が困難となるおそれがあると客観的に認められるとき。

本条は、当事者の一方に契約違反(債務不履行)があった場合の解除権、及び、重大な信用不安等の事由が生じた場合の解除権について、当事者間の合意によって定めた約定解除権に関する規定です。
契約が解除された場合、民法上の原則に従えば、遡及効(契約成立時に遡って権利義務が消滅)が生じ、各当事者が原状回復義務を負うこととなりますが(民法545条1項)、取引基本契約で想定されているような継続的契約においては、解除時以降の将来に向かってのみ解除の効力が生じると解されています(賃貸借契約に関する民法620条等)。

軽微な債務不履行による解除

令和2年4月1日より施行された改正民法の541条ただし書は、催告による解除について、判例(大判昭和13年9月30日民集17巻1775頁、最判昭和36年11月21日民集13巻10号2507頁など)を踏まえ、催告期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、契約を解除することができない旨を明文化しました。

取引基本契約における本条(1)の場合においても、民法541条ただし書の存在を前提に、軽微な債務不履行の場合には解除権が否定される可能性があることを考慮に入れて対応すべきです。

契約の余後効

第17条(残存条項)

本契約の終了後においても、第11条(連帯保証人)、第12条(知的財産権)、第13条(譲渡等の制限)及び第14条(秘密保持)の各規定は効力を有する。

本条は、取引基本契約が次条の期間満了又は解除等によって終了した後も効力を持ち続ける残存条項について定めるものです。
どの条項を残存させるべきかについては、当事者間の取引に関わる具体的な事情を考慮して決めることとなりますが、本コラムで紹介する規定例では、第11条から第14条までの各条項が考えられます。

契約の存続期間

第18条(有効期間)

本契約の有効期間は、本契約の締結日から1年間とする。ただし、期間満了の2か月前までに、甲又は乙から解約の申し出がない限り、本契約と同一の条件でさらに1年間延長されるものとし、以後も同様とする。

本条は、取引基本契約の存続期間について定めた規定です。取引基本契約は、企業間の継続的取引関係を前提として締結されるものですので、取引継続の予定期間を考慮して定めることとなります。
ただし、契約の存続期間中は、当事者間で新たな合意をしない限り、一方当事者に契約違反その他の解除事由がなければ、他方当事者が契約関係から解放されることはありません。また、そのような解除事由があるとまではいえない場合であっても、一定期間が経過した時点で、諸事情を考慮して契約関係を存続させるか解消するかを判断できる機会を設けることには、企業経営上の意義があると思われます。そこで、かなり長期の取引継続が見込まれる場合であっても、1年や2年程度の期間を契約の存続期間として定め、その後は、当事者の一方から解約の意思表示がされない限り自動更新を繰り返すという本規定例のような定め方をするのが一般的です。

協議事項

第19条(協議)

本契約若しくは個別契約に定めのない事項又は本契約若しくは個別契約の解釈に疑義が生じたときは、甲及び乙が協議して解決する。

本条は、契約書に規定のない事項や契約条項の解釈をめぐって問題が生じた場合、当事者間の協議により解決することを定めたものです。
このような規定は、一般に努力条項(紳士条項)あるいは当然のことを定めたものと理解されています。しかし、こうした協議事項に関する規定が存在することにより、仮に相手方が他方当事者と協議をすることなくいきなり法的手段に出たような場合、その他方当事者は、相手方が同規定に違反した事実を主張することができ、裁判所等において最初から法律上の任意規定の解釈・適用が問題とされることなく、当事者間の紛争を解決し得る場合が出てくると考えられます。したがって、単なる努力条項として軽視すべきものではありません。

後文

本契約の締結を証するため、本書2通を作成し、甲及び乙が記名押印の上、それぞれ1通を保有する

全ての契約条項を記載した後、最後に上記のような後文を設けるのが一般的です。原本にはそれぞれ、本コラムの第1回の「契約書に貼付すべき収入印紙」で述べた金額の収入印紙を貼付する必要があります。

また、契約書末尾に設けられる当事者の表示に関しては、本コラムの第1回の「会社の誰が契約締結を行うか」において解説しましたので、そちらをご参照ください。

以上で取引基本契約書の解説を終了します。次回からは、秘密保持契約書をテーマとして解説する予定です。

(第5回・以上)

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  • 著者プロフィール

林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、中島弘雅・松嶋隆弘編著『金融・民事・家事のここが変わる!実務からみる改正民事執行法』(ぎょうせい、2020年、分担執筆)、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘編『会社法トラブル解決Q&A⁺e』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。

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