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[会社法改正] 第4回:令和元年会社法改正による社債法制の改正④・完

著者:日本大学商学部 教授  鬼頭 俊泰

[会社法改正] 第4回:令和元年会社法改正による社債法制の改正④・完

(改正のポイント)

  • 社債権者において自ら社債を管理することを期待することができる社債を念頭に、社債の管理が円滑に行われるように補助する制度である社債管理補助者制度が新設される。(前回
  • 社債権者集会への元利金減免権限の付与、社債契約の内容変更につき社債権者全員の同意がある場合の社債権者集会決議省略規定が新設される。(今回)

社債権者集会

1 令和元年改正前会社法における運用と改正経緯

令和元年改正前会社法(以下、「改正前会社法」という。)上、社債権者集会の決議による社債の元本および利息の全部または一部の免除については、会社法706条1項1号の「和解」として、社債権者集会の特別決議(同法724条2項)によりすることができるという解釈[1]が有力でしたが、法的安定性の観点から、明文の規定を設けた方が良いという指摘がされていました[2]

また、改正前会社法上、社債権者の全員の同意がある場合には、社債権者集会の決議によらずに、社債契約の内容を変更することができると一般に解釈されていました[3]が、会社法706条など、一定の事項について社債権者集会の決議によらなければならないものと規定する会社法の規定の多くは強行法規であり、強行法規として要求されている社債権者集会の決議については、社債権者の全員の同意をもってこれに代えることはできないという解釈[4]も存在していました。

さらに、改正前会社法上、社債権者集会の決議は支払の猶予および債権の一部放棄など、社債権者に譲歩を強いる内容であることが多いため、裁判所の強い後見的機能により社債権者を保護することが期待され、社債権者集会の決議は裁判所の認可によってその効力を生ずることとされています(会社法734条)が、社債権者の全員が社債権者集会の目的である事項に同意している場合には、社債権者の保護に欠けることはないので、裁判所による認可を不要としてもよいと考えられていました[5]

そこで、会社法では上記各点を明確にすべく、社債権者集会への元利金減免権限の付与、社債権者集会決議省略に関する規定を新設しました。

2 社債権者集会に関する規定の解説

①元利金減免権限の付与

会社法706条1項1号に、当該社債の全部についてするその債務の免除が追加されました。

また、当該社債の全部についてするその債務の全部または一部の免除を加えることにより、社債権者集会が、当該社債の全部についてするその債務の全部または一部の免除について決議をすることができるものとするとともに(会社法724条2項1号)、社債管理者が、社債権者集会の決議によって、当該社債の全部についてするその債務の全部または一部の免除をすることができるものとされました(同項2号)。

なお、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会においては、常に社債権者集会の決議という集団的な意思決定により、反対する社債権者の社債についても、その元本および利息の全部または一部の免除をすることができるものとすることは相当でないという理由から、社債発行契約に定めた場合にのみ、社債権者集会の特別決議により、社債の元本および利息の全部または一部の免除をすることができるものとすべきであるという指摘もされていました[6]

しかし、今回の改正のような見直しをするものとする場合であっても、社債権者集会の決議は裁判所の認可を受けなければその効力が生じないこととされており(会社法734条1項)、裁判所は、決議が著しく不公正であるときや、社債権者の一般の利益に反するときなどについては、社債権者集会の決議の認可をすることができないこととされています(同法733条)。

したがって、今回のような見直しをする場合であっても、社債権者集会の決議が著しく不公正であるときや社債権者の一般の利益に反するときは、社債権者集会の決議により社債の元本および利息の全部または一部の免除をすることができないと考えられます[7]

②社債権者集会決議省略規定の新設

社債発行会社、社債管理者、社債管理補助者または社債権者が社債権者集会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき議決権者(会社法724条1項参照)の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなされます(同法735条の2第1項)。また、上記決議があったものとみなされる場合には、同法732条から735条まで(同法734条2項を除く。)の規定は、適用されません(同法735条の2第4項)。

これは、社債権者の全員が書面により同意をした場合には、当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなし、かつ、同法734条1項を適用せず、裁判所の認可を受けることも要しないものとすることにより、仮に、強行法規として要求されている社債権者集会の決議については社債権者の全員の同意をもってこれに代えることはできないという解釈を採るとしても、社債権者の全員の同意をもって社債権者集会の決議に代えることができるものとする見直しです。

また、同法734条2項を適用するものとしている理由は、議決権を行使することができない社債権者(同法723条2項参照)がいる場合であっても、全ての社債権者に対してみなし決議の効力を有するものとするからです。

なお、社債権者の同意等に瑕疵がある場合には、社債権者集会の決議があったものとはみなされず、訴えの利益を有する者は、いつでもそのことを主張することができるものと解されます[8]

おわりに

以上4回にわたって社債制度に関する改正内容を解説してきました。

社債については、社債管理補助者制度の新設と社債権者集会への元利金減免権限の付与・社債権者集会決議省略規定の新設の2つが改正されました。

社債に関する改正のうち、社債権者集会制度の効率化(元利金減免権限の付与・社債権者集会決議省略規定の新設)については、解釈によって既に実務対応がなされているものであるため、明文化によって現行実務に支障をきたさないように留意する必要があります。

一方、社債管理補助者制度の新設については、社債管理者不設置債(FA債)における社債権者をどのように保護するのかという問題への対応です。ただ、これは本来「私募債」をどのように規律づけるべきかという問題、すなわち会社法上どのような社債を管理の対象とすべきかをまず明らかにしたうえで、かかる社債への規律の必要性につき検討すべき問題であるようにも見えます。いずれにせよ、社債管理補助者制度を新設する場合には同制度の利用状況につき継続的に注視する必要があります。

2005年会社法制定による社債発行主体の拡充と同様に、今回の改正も基本的には社債の利用を促進させるためのものであるといってよいでしょう。

これまでは、信用力のある大企業が資金調達のため、あるいは銀行融資の補完のために発行されることの多かった社債ですが、これからは中小零細企業、とりわけスタートアップをしたばかりの企業が社債を発行し、市場から直接資金を調達しやすくする制度が整ってきたと評価することもできるでしょう。

脚注

1. 江頭憲治郎『株式会社法(第7版)』(有斐閣、2017年)823頁。

2. 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第4回会議議事録25頁〔神作委員発言〕参照。

3. 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第4回会議議事録29頁〔藤田委員発言〕参照。

4. 橋本円『社債法』(商事法務、2015年)330頁。

5. 法務省民事局参事官室「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」(2018年)55頁。

6. 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第4回会議議事録25頁〔神作委員発言〕参照。

7. 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務、2020年)178頁。

8. 法務省民事局参事官室・前掲注(5)56頁。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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