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[会社法改正] 第2回:令和元年会社法改正による社債法制の改正②

著者:日本大学商学部 教授  鬼頭 俊泰

[会社法改正] 第2回:令和元年会社法改正による社債法制の改正②

今回は、社債管理補助者制度新設の契機となった、最判平成28年6月2日民集70巻5号1157頁(以下「平成28年最判」という)を解説します。

平成28年最判では、管理委託契約に基づき債券を管理していた会社(銀行)らは、任意的訴訟担当の要件を満たすものとして、原告適格を有するのか否かが争われました。


1.平成28年最判の事案の概要

1 Y(アルゼンチン共和国)は、平成8年から12年にかけて、4回にわたり、円建債券(以下、「本件債券」という)を発行した。本件債券の発行に際し、Yは債券の内容等をそれぞれ債券の要項(以下、「本件要項」という)で定めたうえ、Xら(日本の銀行)との間で、Xらを債券の管理会社として、Yが、本件債券の債権者であるZらのために、弁済の受領、債権の保全その他の本件債券の管理を行うことをXらに委託する旨の管理委託契約(以下、「本件管理委託契約」という)が締結された。

2 本件管理委託契約は、日本法を準拠法とし、平成17年改正前の商法309条1項(現行会社法705条1項)の規定の文言に倣い、「債券の管理会社は、本件債権者のために本件債券に基づく弁済を受け、又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上または裁判外の行為をする権限及び義務を有するものとする」という授権条項(以下、「本件授権条項」という)を定めていた。さらに、本件管理委託契約では、Xらが本件債権者のために公平誠実義務および善管注意義務を負うことが定められていた。

3 Yが、平成14年3月以降、本件債券につき、順次到来した各利息支払日に利息を支払わず、あるいは償還日に元金の支払をしなかったため、Xらは債券の管理会社として期限の利益を喪失させた。

4 その後Xらは平成21年6月、Yに対し、ZらのためにX自らを原告としYを被告として、債券の償還ならびに約定利息および遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。

まず、平成28年最判の事案においてXらは本件要項に基づきYを訴えています。
これは、上記のとおり、Xらが本件管理委託契約によるとZらに対して公平誠実義務および善管注意義務を負っているところ、本件訴訟を提起せずにZらのYに対する請求権が消滅時効にかかった場合、逆にZらによって債券管理会社であるXらが責任を追及される事態に発展する可能性が生じるからです。

そこでXらはYに対して、任意的訴訟担当として原告適格を有していると主張し、本件訴訟を提起しました。

任意的訴訟担当の許否を検討するにあたっては、まずその前提として、ZらからXらに訴訟追行権の授与が存在したのか否かが問題となります。原判決(東京高判平成26年1月30日民集70巻5号1244頁)及び原々判決(東京地判平成25年1月28日民集70巻5号1203頁)はXらを任意的訴訟担当であるとは認めませんでした。

2.平成28年最判判旨

  • 発行体であるYを委託者、Xらを管理者として、本件債券につき本件管理委託契約が締結されており、当該契約はYを要約者、Xらを諾約者、Zらを第三者とする第三者のためにする契約である。
  • 本件要項記載内容などに明示の意思表示は存在しないが、ZらからXらに対して、黙示の意思表示に基づく授権がなされていた。
  • 多数の公衆に販売されるという本件債券と会社法上の社債の類似性に着目し、Zらの合理的意思を推認したうえ、本件授権条項の記載が目論見書等にも記載されていることから、Zらが本件債券を購入した際にこれを受け入れたものと認めることが相当であるとして黙示の受益の意思表示を認めた。
  • 任意的訴訟担当については、本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として(前提要件)、弁護士代理の原則を回避し、または訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがなく(第1要件)、かつ、これを認める合理的必要性がある(第2要件)場合には許容することができる。
  • 本件債券が多数の一般公衆に対して発行されるものであるから、発行体が元利金の支払いを怠った場合にZらが自ら適切に権利行使することは合理的に期待できないこと、ソブリン債には社債に関する法令の規定が適用されないが、本件債券は多数の一般公衆に対して発行される点で社債に類似し、社債では社債権者を保護する目的で社債権者のために弁済を受け、または債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する社債管理者の設置が原則として強制されていること、本件要項に社債管理者の規定に倣った本件授権条項を設けるなどしてXらに訴訟追行権を認める仕組みが構築されていたこと、Xらはいずれも銀行であって銀行法に基づく規制や監督に服するとともに、本件管理委託契約上、Zらに対して公平誠実義務や善管注意義務を負うものとされていることなどを理由に、任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある。

3.平成28年最判の妥当性

平成28年最判の事案についてみてみると、確かに、XらとZらとの間で利益相反の可能性は存在するものの、それを回避するための仕組みが設けられておらず、また、XらとZらとの間に両者一体といえるほどの実体的利益は存在しません。

したがって、裁判例などによって任意的訴訟担当を認めることに慎重であったこれまでの判断基準からすると、Xらを任意的訴訟担当として訴訟の追行を認める合理的必要性を肯定できないとする原々判決・原判決も形式論としては理解できます。

また、発行されている債券が社債(社債管理者不設置債:FA債)に類似しているからといって無条件に任意的訴訟担当を認める合理的必要性が認められるわけではありません。

しかし、まず一般論として、(原々判決・原判決では否定しているが)金融商品を購入した一般投資家が自らデフォルトを起こした発行体に対して訴訟を提起することは、訴訟コストや時間的コストから極めて高いハードルが存在します。

また、本件債券は会社法上の社債と類似しているものの、社債に該当しないとの理由から保護すべき債権者の水準(各額面金額)を社債権者よりも引き下げてよいとする原々判決・原判決の結論に合理性は乏しいものと思われます。

原々判決・原判決が指摘する債権管理会社の利益相反性についても、そもそもZらは本件要項に基づきXらに授権していることに加え、銀行法に基づく規制・監督の存在や本件要項に基づく公平誠実義務・善管注意義務の設定などからすると、Xらによる適切な訴訟追行権を適切に行使することを期待することができます。

本件債券の制度運用状況と本件要項に基づく本件管理委託契約からすると、平成28年最判の結論は妥当なものと評価できます。

4.FA債における管理の在り方

社債管理者を設置せずに社債を発行した会社が倒産した場合、債券を管理する会社にどのような法的義務が課されるのかについては、結局、当該債券管理会社がどのような債券管理委託契約を締結したのかによることになります。

すなわち、債券管理委託契約の内容次第で、本件のように、債券管理会社は会社法上の社債管理者と同等の権利を有し、義務が課される場合もあれば、原々判決・原判決がいうように、社債権者が自らの利益を自ら守らなければならない場合も発生する可能性があります。

そこで会社法改正において、社債管理者が設置されていない社債(FA債)についても第三者による最低限の社債管理が必要であるとして、新たに社債管理補助者制度が創設されることとなりました。

次回は、いよいよ会社法改正の内容(社債管理補助者制度の新設、社債権者集会制度の効率化)を解説します。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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