[契約書作成]
第1回:業務委託契約書作成の留意点

2020/09/16

著者:柏木総合法律事務所 弁護士 金子朝彦
企業法務
業務委託契約書作成の際の注意点

1.はじめに(業務委託契約の契約類型)

今回は、通常の業務において、多々締結する場面があるのではないかと思われる業務委託契約書の作成の際の留意点等について、書いてみたいと思います。

「業務委託契約」と一口にいっても、その態様は多種多様です。ご存知の方も多いかと思いますが、民法の定める典型契約には業務委託契約というものはありません。それゆえ、契約書の題名が、同じ「業務委託契約」であったとしても、民法の契約類型としては、異なる場合があるのです。

業務委託契約の類型で多いのは、請負契約と委任契約です。請負契約とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」契約です(民法632条)。仕事の結果に対し、報酬が支払われることに特徴があります。典型例には、建物の建設契約等があります。他方で、委任契約とは、委託者が受託者に対し、法律行為あるいはそれ以外の行為を委託し、相手方がこれを承諾することによって成立します(民法643条、656条)。不動産の売却などの法律行為を委任する類型と、医師との診療契約のように、法律行為以外の事実行為を委任する準委任という類型があります。受託者は、委任契約により、善管注意義務に基づいて自身の任務を遂行することになります(民法644条)。

このように、「業務委託契約」といっても、その背後にある民法の契約類型は異なる場合がありますので(請負でも委任でもない場合もあります。)、業務委託契約書を作成する際には、自身の委託または受託される業務が、民法でいうところのどの契約類型に属するのか(仕事の完成が重視されているのか、それとも専門的知識・技術を背景とした事務の遂行が重視されているのか等)を検討うえ、仮に契約書において、民法の任意規定に優先する条項を設けなかった場合には、どのような内容の民法の条項が適用されるのかを念頭に置きながら契約書を作成する必要があります。

2.業務委託契約書作成の際の具体的留意点

それでは、業務委託契約書を作成する際に、具体的に留意しておくべき事項について検討しましょう(上記の通り、本来であれば、民法の典型契約のどれに属するかにより、各条項の詳細はかなり異なってくるのですが、今回については、どの類型の「業務委託契約書」においても注意すべき点として、解説したいと思います。)。なお、本Webサイトに掲載されている「業務委託契約書」のひな形を参考として末尾に掲載いたします。

①委託業務の内容の設定(関連条文:「第1条 本件業務の内容」)

まず、業務委託契約書作成の際の最重要条項は、何といっても「委託業務」の内容を定める条項です。受託者がどのような業務を受託するかを定める条項ですので、両当事者にとって明確になるように定める必要があります。この部分が曖昧なままの契約書にすると、受託の範囲について、当事者間で争いになる可能性が高いため、できる限り明確かつ具体的に記載すべきです。ただし、あまりに詳細化しすぎると、漏れがある場合に、受託者からそれは受託の範囲ではないとのクレームをされる可能性がありますので、こちらも留意する必要があります。

②委託料(関連条文:「第4条 委託料等」)

委託料を定める条項も重要です。報酬額のみならず、報酬の支払いタイミング(途中でも支払いがあるのか、月締めなのか、仕事完了後の支払いなのか等)、支払方法、及び、報酬の支払いが発生するための条件があるのか等、当事者間の関心が高い契約条項です。この点も、争いが生じやすい条項ですので、詳細に定めることが必要です。
また、業務委託契約が何らかの事情により、途中で終了となった場合の報酬をどうするかについても規定しておくべきでしょう。

③報告(関連条文:「第5条 本件業務の実施」)

業務委託契約とは、委託者の業務の一部を外部にアウトソーシングするわけですから、委託者としては、受託者がどのようにその作業を行っているかについて、関心があって当たり前です。それゆえ、受託者が委託者に対し、受託した業務の内容をどの程度報告するかについても、当事者にとって重要な規定になります。委託者としては、詳細かつ頻繁に報告して欲しいと思うはずですし、受託者は、委託者に縛られず大きな裁量の中で業務をしたいと考えるでしょう。

④再委託(関連条文:「第7条 再委託」)

委託者にとって、業務委託の内容を受託者が直接行うのかについては、大きな関心事です。委託者が、受託者固有の能力や技術に重きを置いているのであれば、受託者が受託業務の一部を再委託することには消極的なはずです。それゆえ、委託者としては、委託した業務の性質により、受託者からの再委託を禁止するのか、許可制とするのか、自由とするのか検討する必要があります。

⑤知的財産(関連条文:「第11条 著作権」)

委託者が受託者に対し、委託する業務内容によっては、受託者側において、特許、著作権あるいはノウハウ等の知的財産権が発生する可能性があります。これが、委託者側から提供した営業秘密や情報に基づく場合には、委託者としても、当該知的財産権について、権利を主張したい場合があります。そのような場合を想定し、受託者側において、業務委託契約に派生して何らかの知的財産権が発生した場合の当該知的財産権の帰属(共有等)について、事前に契約書に定める場合があります。

⑥秘密保持(関連条文:「第13条 秘密保持」)

業務委託契約とは、委託者の業務の一部を外部にアウトソーシングするわけですから、業務委託契約の内容によっては、委託者の営業秘密等の秘密情報や個人情報を受託者に開示する必要が出てきます。それゆえ、契約書において、事前に受託者に守秘義務を負わせておくことが必要になります。秘密保持の条項を作成する際には、秘密情報の定義を明確に定める必要があります。また、極めて重要な情報を開示する場合には、違反した場合のペナルティーとして違約金等が発生する条項にし、受託者の違反があった場合の制裁を重く設定する等の措置を講ずる場合もあります。

⑦契約解除(関連条文:「第14条 契約解除」)

委託者にも受託者にも、特定の事象が発生した場合には、業務委託契約を継続したくないとの意向があるかと存じます。一方当事者の信用不安等がその典型例だと思いますが、契約解除事由については、民法の任意規定に任せず、事由を個別に列挙しておくことが、何かが発生した際に、不本意な契約を継続しないで済むことにつながります。

⑧契約期間(関連条文:「第15条 有効期間」)

契約期間の条項も設けるべき条項の一つです。当事者が継続的な関係を望んでいるのであれば、当初の契約期間が1年や2年であるとしても、問題がなければ自動的に契約が更新される自動更新条項を入れるべきでしょう。他方で、試しに委託してみる業務等の場合には、最初の契約期間を短めに設定することも考えられます。

⑨裁判管轄条項(関連条文:「第18条 裁判管轄」)

これは、業務委託契約に限ったものではありませんが、契約書作成の一つの大きな目的として、万が一当事者間で争いとなった際の解釈基準を定めるという点があります。紛争が発生した場合を想定し、裁判管轄についても、自身に有利に設定するに越したことはありません。相手方当事者が遠方に所在する場合、裁判管轄の合意を事前にしていないと、相手方の所在地にて裁判を行わなければならない場合があります。この場合、裁判期日の際の自身や弁護士の移動費等、自身の所在地で行う裁判手続よりも費用が余計に掛かる可能性がありますので、自身に有利な場所で裁判手続を行えるように管轄の合意をしておく方が良いです。

以上が、業務委託契約書を作成する際の一般的に留意すべき条項になります。
冒頭に述べたとおり、業務委託契約は守備範囲が非常に広い契約ですので、その類型によっては、上記以外にもさらに留意すべき条項があります。

業務委託契約書

業務委託契約書

  • 著者プロフィール

金子朝彦

2010年弁護士登録(第一東京弁護士会)、公益財団法人日本動物愛護協会監事(2016~)
長谷川俊明法律事務所を経て、現在、柏木総合法律事務所。主な担当事件は、国内民商事訴訟、国内及び国際商取引、国内外企業法務、人事・労務法務等。
著書に、『最新 債権法の実務』(共著・新日本法規出版株式会社)、『最新モデル 会社契約 作成マニュアルCD付』(共著・新日本法規出版株式会社)等がある。