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5.テレワーク時代のマネジメント

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

5.テレワーク時代のマネジメント

テレワークは、上手に利用すれば仕事の生産性は上がり、社員の満足度やエンゲージメント(愛着心)もアップするものになるでしょう。

しかし、オフライン時と比較して、テレワーク時のマネジメントは難しいと言えます。それはズバリ、今が過渡期だからです。


テレワークハラスメント

テレワークが前提となる社会において管理職は離れた場所で働く部下をまとめ、チームの成果を出さなければなりません。流行の言葉を通して、その実態を感じていただきたいと思います。

テレワークが世の中に浸透し始め、新たな言葉が生まれました。ひとつは「テレワーク(リモート)ハラスメント」。略して「テレハラ(リモハラ)」。

WEB会議中に映し出される背景から、参加者のプライベートな事情が透けてみえてきます。背景の加工で回避することもできますが、それはそれで選択した背景を話題にする(される)こともあるでしょう。そして、このような視覚的な情報よりも深刻なのが、「聴覚情報」です。会議中に発言する際、「ミュート」を解除することで家の中の雑音や話し声などが否応なしに入ってしまうことがあります。子どもの泣き声や喧嘩する声、家族の咳払い、洗濯機や電子レンジの音・・・。それらの音の量や大きさによって、家の広さや家庭の事情も上司や同僚たちに伝わってしまうことがストレスの要因になっているという話もお聞きします。

急遽導入されたテレワークの中ではコミュニケーションの課題も話題になりました。(図表1参照)。企業で働く場合、「①明確化・システム化された形式知②企業内の常識として共通して持っている暗黙知③各人が持っている暗黙知」があります。①の多くは制度化されており、全員が認識しているものですので、緊急で一斉にテレワークを実施するような大きな変化が起きると、組織として対処することになります。どうしても契約書に印鑑が要るので、部長が代表して週一で会社に行く、といったようなケースも当てはまります。②は文書になっておらず形式知化されていないけれど、社内やチーム内で常識となっているもので、朝礼で毎日出欠を確認する、毎週火曜日にミーティングを行い業務の進捗を報告する、というようなものです。

図表1.テレワークのコミュニケーションの課題分析

「テレハラ」で取り上げられたのは、③の各自が持っている暗黙知です。WEB会議のカメラをONにするかOFFにするかといった議論もあります。部下は自宅を見せたくないので常識的にもOFFだと思っていても、上司は業務時間内に顔を見せないとは何事だと考えているような場合。あなたが管理職のお立場であるなら、「ビデオをONにして!」ではなく、「より良いコミュニケーションのため(健康状態を知りたいため)ビデオをONにしてもらえないかな」といった、より良いゴールを目指す姿勢や相手を心配しているからこその姿勢を示してみることも必要でしょう。

企業としても、暗黙知を形式知にしていくためにバックアップする必要があるでしょう。例えば、Off-JT(※1)「コミュニケーションが円滑に進むために」をテーマにした研修を全社的に実施したり、部署内で話し合いの場を設けることを推奨したりすることが考えられます。メラビアンの法則(※2)でも、言葉でどんなに「楽しい」と言っても、態度や表情がつまらなさそうであれば、「つまらなさそう」という見た目の印象の方が強く伝わると言われています。画面をOFFにしたWEB会議では、この視覚情報が欠落した状態で物事を判断していくことになります。テレワークになった途端に判断の軸を変えることができるほど、人間が一気に進化することは難しいでしょう。だからこそ、会議中はONにした状態でコミュニケーションすることの重要性を感じます。

以前は①だったようなことでも検討する必要があるものも出てきていると思われます。ご相談が多いのは部下の教育に関してです。特に若年の部下の教育にはチームで対応することをお勧めします。事業運営上も時には厳しい話をする必要もあると思いますが、上司と部下の1対1だけでそれを伝えていくことは「ハラスメント」と捉えられるリスクもあり、距離のある環境下ではなおさら難しい時代でもあります。チーム全体で役割分担をしながらその人を育てていく必要性を感じます。

IT介護

一方、コロナ禍以前、2年ほど前から「IT介護」という言葉を耳にするようになりましたが、ご存じでしょうか?ITツールを使いこなせない先輩や上司に使い方を教えることを言うそうです。要介護と言われないように、管理職自身が何事においても学び続けなければなりません。さらに従来のトップダウン型のマネジメントはできませんので(図表2参照)、「朝これをやって、昼にどこまでできた?夕方終わった?」と聞く事はもちろん、背中を見せて学んでもらうことにも期待できません。これからは、勤続年数や働いた時間に重きを置く日本型の人事制度から職務範囲が明確で結果に応じて評価される「ジョブ型」人事制度へ、部長や課長といった職位ではなくミッションに基づく職責へ変わっていくでしょう。実際、大手企業を中心にジョブ型への移行が進んでいます。昔、自分の上司にしてもらって嬉しかったことを部下にすることは難しい時代です。だからこそ、企業としては管理職のサポートも行っていく必要があります。

「テレハラ上司」とレッテルを貼られないためにも、世の中の上司たちは早急に「テレワーク・リテラシー」を身につけたいものですね。

図表2.テレワーク時代のマネジメント改革

脚注

※1 職場の教育には、「OJT(On-the-Job Training)オン・ザ・ジョブ・トレーニング」とOff-JT(Off the Job Training オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)がある。日常の業務から離れて行う座学の集合研修などのことをOff-JTという。人事担当者が企画する教育プログラムや、社外の研修機関が提供している研修などを受講し、必要な知識やスキルを習得する方法。

※2 コミュニケーションの要素を言語・非言語で分解し、その割合を示した法則。「言語情報=Verbal」「聴覚情報=Vocal」「視覚情報=Visual」に分けられ、この割合から、「7-38-55のルール」と呼ばれることもある。話の内容そのものが重要であることに間違いはないが、身だしなみや態度、表情やボディランゲージといった非言語コミュニケーションで相手に好意を伝えることで、メッセージをさらに強化し、齟齬なく伝えることができる。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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