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中小企業・ベンチャー企業のための事業承継における信託の活用①~信託の基本的な仕組み~

著者:ルーチェ法律事務所 弁護士  帷子 翔太

中小企業・ベンチャー企業のための事業承継における信託の活用①~信託の基本的な仕組み~

「信託」は、信託という制度をよく理解し活用できれば、大切な人と自分のために財産を守ることができるのです。

活用を具体的に考えたとき、信託とはどんな制度なのか、どんなメリットがあるのかなど、いろいろな疑問が浮かんでくることでしょう。

そこで、信託の基本的な仕組みや用語などについて詳しく解説していきます。自社の将来について考える際に、ぜひ参考にしてください。


1.信託を用いた事業承継

「信託」は、財産を「信」じて「託」すことです。この制度を利用することにより、後継者が育つまでの一定期間、事業を他の会社に運営してもらったり、自社の株式をスムーズに後継者に承継することが可能となります。

信託を利用した事業承継を行う場合、様々な信託のスキームから、最も適切な方法を選択し実施する必要があります。そのため、専門家の助力は必要ですが、最終的にどのような方法で事業承継を行うのかどうかは、経営者の判断に委ねられます。この判断をするためには、経営者自身が、信託の仕組みなどの基本的な事項を知り、そのメリット、デメリット等を比較して決断しなければなりません。

そこで、「事業承継における信託の活用」と題して、信託の基本的な仕組みから、事業承継に用いられる代表的な方法を随時ご紹介していきます。今回の記事では、信託の基本的な仕組みや用語の意味などをできるだけわかりやすくご紹介したいと思います。

2.信託の仕組みとは

(1)知っているつもりが実は知らない「信託」とは?

「信託」とは、信託法の定める方法により、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること(信託法1条)と定義されます。

信託法上の定義は上記ようになっていますが、もっと簡単にいえば、「信託」との言葉どおり、「信」じて、「託」すことです。

つまり、大切な財産を、信頼する人に託し、大事な人または自分のために、管理・処分等してもらうことが信託です。

信託では、「大切な人のために」、「自分のために」、または「自分が生きている間は自分のために、自分が亡くなったあとは大切な人のために」など、どのような人のためなのかを自分で決めることができます。また、託す財産をどのような目的で管理・処分等するのかについても、自分で決めることができます。

財産を託された人は、信託をした方の信頼のもとで、あらかじめ定められた目的に従い、また、あらかじめ定められた人のため、財産の管理・処分等を行っていくことになります。

財産を信託すると、その財産の名義は、託された人の名義になります。名義が変わることによって、信託した人の財産ではなくなり、例えば、亡くなったときに相続の対象とはなりません。しかし、信託では、あらかじめその財産をどのように管理し、処分等を行うのかを定めることができるので、名義が変わっても、実際には自分の意思に従って活用や承継ができることになります。この、名義が変わって相続の対象等ではなくなるものの、自分の意思に従って活用や承継ができるということが、信託の大きなメリットの1つです。

(2)信託行為の類型

信託を行う際の行為の類型としては、以下の3種類があります。(3)以下では、用いられることの多い信託契約を締結する方法を念頭において、基本的な仕組みなどをご説明したいと思います。

  • ①信託契約
    信託契約を締結する方法(信託法3条1号)。
  • ②遺言による信託
    信託に関する内容を遺言によって指定する方法(信託法3条2号)。
  • ③信託宣言(自己信託)
    信託に関する内容を公正証書その他の書面又は電磁的記録で記載し又は記録したものによってする方法(信託法3条3号)。

(3)信託における登場人物と基本的な仕組み・用語

【信託における登場人物】

委託者 受託者 受益者
財産を信託する人 委託者から信託を受けて信託財産を管理処分する人 信託財産から利益を受ける人

【信託図】

信託図

【基本的な用語】

基本的な仕組みにおいて登場する用語の意味は、下記表のとおりです。なお、正確な定義は信託法上に規定がありますので、そちらをご参照ください。

用語 意味 信託法
委託者 信託をする人 2条4項
受託者 委託者から信託を受けて信託財産を管理処分する人 2条5項
受益者 受益権を有し、信託財産から利益を受ける人 2条6項
信託契約 財産の譲渡、管理処分及び目的達成のために必要な行為を行うこと等を内容とする契約(当事者は委託者と受託者) 3条1号
信託財産 受託者に属する財産で信託により管理処分等の対象になる財産 2条3項
受益権 信託に基づいて信託財産の引き渡しその他給付や一定の管理処分を求めることができる権利 2条7項

【信託契約による方法の基本的な仕組み】

信託契約による方法の基本的な仕組みは、
①委託者が、受託者に対し、財産の管理処分や一定の行為を行うことを委託する内容の契約(信託契約)を締結し、
②委託者が、受託者に対し、財産を信託して、
③受託者は、信託契約に基づき、信託財産の管理処分等を行って、
④受益者に、信託財産や管理処分等から生じた利益を渡す
という内容になります。

信託された財産の所有権は、委託者から受益者に移動し、受託者が所有者となります。

例えば、会社の株式を信託すると、その株式の名義人は受託者となります。名義は変わりますが、利益を受けるのは受益者ですので、配当は受益者が受けることができます。また、受益者を委託者自身とすることも可能であるため、配当だけでなく、議決権行使についても委託者がこれまでどおり行使することが可能になります。

また、受託者は、委託者及び受益者に対し、信託契約や信託法上の責任を負い、信託銀行等の場合、信託法だけでなく、信託業法などによっても義務が課されますので、財産の管理処分における安全性が担保されています。

(4)自益信託、他益信託

信託に登場するのは、委託者、受託者、受益者が基本となります。これは、委託者と受益者が異なりますので、「他益信託」と呼ばれます。

他方で、委託者と受益者を同一人物にして、自分のために財産を管理処分することもでき、こうした信託を「自益信託」と呼びます。

事業承継に信託を用いる場合、この自益信託を組み合わせることで、経営者の生前は「経営者自身のために」、経営者の相続発生後は「後継者のために」なるように信託を設計し、遺言に代わる効果を得ることもできます(詳細は次回の記事でご説明します。)。

【自益信託】

自益信託図

3.信託の利用目的

信託は、財産を預けて(信託して)、一定の方のために、その目的を達成するよう財産を管理処分するためのものです。この制度は、主に以下のような目的で利用されています。

  • (1)財産運用
    信託銀⾏等が、委託者に代わって株式や不動産等に運⽤する⾦銭信託及び投資信託などがあり、財産を積極的に運用していくための多様な信託があります。
  • (2)財産管理
    高齢者等の財産管理に用いられます。「家族信託」とも呼ばれ、例えば、認知症等になってしまった際に効力が生じ、長男が不動産を管理するといった方法をとる場合もあります。
  • (3)財産承継
    経営者が亡くなった場合に株式を承継させる遺言代用信託、子や孫の教育を支援するための教育資金贈与信託などの信託があります。

4.事業承継における信託の活用

事業承継では、上記の目的のうち、主に「財産承継」という目的で信託を利用します。信託の利用には、税理士、公認会計士または弁護士などの専門家のほか、信託銀行等も関与することが多いですが、最後にどのような方法を用いるか選択するのは経営者自身です。信託以外にも、事業承継の方法は多様です。信託の基礎やイメージを持ち、自社に最も合った事業承継の方法を検討する際の1つの選択肢に、信託も加えてみてはいかがでしょうか。

事業承継に信託を用いる代表的な方法は、次回以降随時ご紹介いたします。

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著者プロフィール

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帷子 翔太

ルーチェ法律事務所 弁護士

2015年弁護士登録(東京弁護士会)
日本大学法学部助教(2016年4月~現在)
二松學舍大学国際政治経済学部非常勤講師(2017年4月~現在)
一般民事事件、一般家事事件(離婚・親権)、相続問題(相続・遺言等)、企業法務、交通事故、債務整理、刑事事件、その他訴訟案件を取り扱っている。

民法(債権法)改正の概要と要件事実』(共著、三協法規出版、2017)、『相続法改正のポイントと実務への影響』(共著、日本加除出版、2018)、『Q&A改正相続法の実務』(共著、ぎょうせい、2018)、『Q&A改正民事執行法の実務』(共著、ぎょうせい、2020)等

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