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中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と相続~養子縁組制度の事業承継への活用~

著者:ルーチェ法律事務所 弁護士  帷子 翔太

中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と相続~養子縁組制度の事業承継への活用~

1.孫等への事業承継

中小企業の経営は、経営者個人の資質や能力に左右されるところが大きいと言われますが、次の経営者である後継者を選定し、必要な能力等を養成して承継するには長期の準備期間の確保が必要であると言われています。また、現在の経営者に子がいなかったり、子がいても会社経営に興味をもたず、後継者を見つけられない場合があります。中小企業の事業承継は大変重要ですが、様々な問題があります。

親族内承継(現経営者の子をはじめとした親族である後継者に承継させること)が難しい場合には、M&A等による親族外承継を行うことが考えられますが、親族外承継に限らず、孫や娘婿などへ事業承継をすることが考えられます。このような場合、生前贈与を利用して株式を譲渡してもよいですが、贈与税は高額であることが多いため(贈与税の税率は最高55%。なお、年間110万円までの贈与は非課税となっています。)、事業承継が困難になります。そこで、養子縁組を活用して、孫や娘婿に、事業承継を行うことが考えられます。

以下では、養子縁組の制度についてご説明させていただくとともに、令和2年4月より施行されている改正された特別養子縁組の内容についてもご説明します。

2.養子縁組について

(1)養子縁組の形式について

養子縁組には、①普通養子縁組と②特別養子縁組という2つの制度があります。
普通養子縁組は、戸籍上において養親とともに実親が並記され、実親と法律上の関係が残る縁組形式です。
特別養子縁組は、子の福祉を積極的に確保する観点から、戸籍の記載が実親子とほぼ同様の縁組形式をとり実親との法律上の関係が残らない縁組形式です。
各縁組の形式についてまとめた下記(3)もご参照いただければと存じます。

(2)特別養子縁組制度の改正について

民法、家事事件手続法及び児童福祉法が改正(令和2年4月1日施行)され、新しい特別養子縁組制度が始まりました。新制度の主なポイントは、①特別養子縁組の対象年齢の拡大、②家庭裁判所における手続の合理化による養親候補者の負担軽減という点にあります。

①特別養子縁組の対象年齢の拡大

特別養子縁組をするためには、新旧いずれの制度でも、必ず家庭裁判所の審判を経る必要があります。
旧制度では、養子となる子の年齢について、原則審判申立時に6歳未満であることが必要でした。しかし、6歳未満であると、いわゆる年長の児童は利用できないこととなってしまうため、下記のように上限年齢が引き上げられました。

養子年齢 原則:審判申立時に15歳未満
例外:①15歳に達する前から養親候補者が引き続き養育し、②やむを得ない事由により15歳までに申立てできなかった場合は15歳以上でも可
審判確定時に18歳に達している場合は不可
審判時に15歳に達している場合には、その者の同意が必要

②家庭裁判所における手続の合理化による養親候補者の負担軽減

旧制度では、特別養子縁組によって養親となろうとする候補者が申立を行って、1つの審判手続で、実親の養育状況、実親の同意及び養親子の関係等が審理され、より家庭裁判所の判断がなされることとなっていました。しかし、1つの手続で進めるとなると、実親による養育状況の問題点などが不明のまま、かつ審判の行方も分からないまま試験養育を行うこととなったり、実親の同意が撤回されてしまったり、実親と養親の対立が生じる等の問題点がありました。そこで、下記のように2段階の手続きを行うこととされました。

第1段階 特別養子適格確認の審判(実親による養育状況と、実親の同意の有無などを判断する審判)
申立権者は養親候補者または児童相談所長(児相長)
第1段階の審判確定後に試験養育
実親が第1段階の手続の裁判所の期日等でした同意は、2週間経過後撤回不可
実親は第2段階の手続きに関与不可
第2段階 特別養子縁組成立の審判(養親子のマッチングを判断する審判)
申立権者は養親候補者

上記2段階の手続きについては、法務省民事局「民法等の一部を改正する法律の概要」に記載されているイメージ図もご参照いただければと思います。

(3)普通養子縁組と特別養子縁組

今般の特別養子縁組制度の改正も踏まえた各縁組形式の要件や手続等は以下のとおりです。

特別養子縁組 普通養子縁組
要件 養親 婚姻している夫婦(単独不可)
(夫婦の一人が25歳以上)
単独、独身可(成人以上)
養子の年齢 原則:審判申立時に15歳未満
例外:①15歳に達する前から養親候補者が引き続き養育し、②やむを得ない事由により15歳までに申立てできなかった場合は15歳以上でも可

審判確定時に18歳に達している場合は不可
尊属又は養親より年長でない者
父母の同意 必要 親権者の同意が必要
養子の同意 審判時に15歳に達している場合には,その者の同意が必要 なし
縁組必要性 父母による養育が困難で子どもの監護が不適当 なし
手続 ①家庭裁判所の審判
第1段階:適格性確認(実親による養育状況と、実親の同意の有無などを判断する審判)
当事者の合意
第1段階の審判確定後に試験養育
②家庭裁判所の審判
第2段階:縁組成立(養親子のマッチングを判断する審判)
離縁 原則不可
縁組が子どもにとって福祉を害するなどの場合(虐待など)のみ、養子、父母、検察官が申し立てすることができる
養親からの離縁はできない
当事者の合意によりいつでも可能
養親または養子により申し立て(ただし15歳未満は法定代理人)
血族親族との関係 終了 存続
戸籍への記載 長男、長女など実子と同じ 養子、養女

3.養子縁組を活用して事業承継を行う場合の注意点

離縁とは、有効に成立した養子縁組を解消する方法のことを意味します。

離縁は、大きく分けると、「協議離縁」、「裁判上の離縁」に区分されます。裁判上の離縁には、「調停離縁」、「裁判離縁」、「審判離縁」、の3種類があり、「裁判離縁」の場合に「離縁原因」(悪意の遺棄、生死不明または縁組を継続し難い重大な事由)が必要となります。

手続の詳細は省略しますが、普通養子縁組の場合、当事者はいつでも協議により戸籍上の届出のみで離縁をすることができるものの(協議離縁)、協議離縁が困難な場合には、調停を経て、最終的に離縁の訴えにおいて裁判離縁によって解決されなければならず、相当の離縁原因が必要となります。

これに対し、特別養子縁組については、原則として離縁を認めず、養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があり、かつ実父母に相当の監護能力がある場合に限り、例外的に家庭裁判所の審判によってのみ認められ、協議による離縁を認められていません。また、特別養子縁組の場合、養親からの離縁の審判請求は認められておらず、特別養子が成年に達して監護の必要性がないときには特段の事情がない限り、離縁させることはできません。

このように、特別養子離縁では厳格な要件が課されて必ず家庭裁判所の審判が必要となり、また普通養子離縁は当事者の協議によって可能ではあるものの、話し合いによってまとまらなければ、離縁原因を立証する必要があります。

特別養子縁組はもちろんのこと、普通養子縁組であっても、当事者間で合意に至らない場合には容易に離縁できるものではありません。例えば、会社の現経営者が孫に会社を承継させようと普通養子縁組をしたものの、後になって、承継を別の者にさせたいとの意思で離縁を求めた場合、孫が了承すれば離縁可能ですが、了承しなければ訴訟で裁判所によって認容される必要があり、離縁が認められなければ、承継させたくない者も創業者のもつ会社の株式を相続できる立場になってしまい、事業承継や会社経営に支障をきたす可能性があります。

そのため、養子縁組を利用する場合には、後戻り(離縁)ができない可能性も踏まえて判断する必要があります。

なお、上記のようなリスクを避ける方法に、信託を利用することが考えられます。信託を利用した事業承継については機会を改めてご説明いたします。

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著者プロフィール

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帷子 翔太

ルーチェ法律事務所 弁護士

2015年弁護士登録(東京弁護士会)
日本大学法学部助教(2016年4月~現在)
二松學舍大学国際政治経済学部非常勤講師(2017年4月~現在)
一般民事事件、一般家事事件(離婚・親権)、相続問題(相続・遺言等)、企業法務、交通事故、債務整理、刑事事件、その他訴訟案件を取り扱っている。

民法(債権法)改正の概要と要件事実』(共著、三協法規出版、2017)、『相続法改正のポイントと実務への影響』(共著、日本加除出版、2018)、『Q&A改正相続法の実務』(共著、ぎょうせい、2018)、『Q&A改正民事執行法の実務』(共著、ぎょうせい、2020)等

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