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[コンプライアンス] 第7話:インサイダー取引に気をつけろ

著者:永世綜合法律事務所 弁護士  早乙女 宜宏

[コンプライアンス] 第7話:インサイダー取引に気をつけろ

第7話:インサイダー取引に気をつけろ

ベンチャー企業の社長

ちょっと前のニュースで、上場企業の社長が友人に株式の購入を勧めて購入させたとして逮捕されたニュースがありましたね。インサイダー取引と報道されていましたが、どういうことなのでしょうか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

インサイダー取引というのは、一般的に、金融商品取引法(以下、金商法)で重要な内部情報を保有した者による株取引等の禁止について、会社関係者の場合と、公開買付者等関係者の場合とに分けて定められた禁止行為のことをいいます。インサイダー取引に関して課徴金勧告の件数は、年々増加傾向にあるようです。平成17年度は4件でしたが、平成28年度に43件となり、直近の令和元年度のデータでは24件となっています[1]

(会社関係者の禁止行為)

第百六十六条 次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継(合併又は分割により承継させ、又は承継することをいう。)又はデリバティブ取引(以下この条、第百六十七条の二第一項、第百七十五条の二第一項及び第百九十七条の二第十四号において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
・・・以下略・・・

(公開買付者等関係者の禁止行為)

第百六十七条 次の各号に掲げる者(以下この条において「公開買付者等関係者」という。)であつて、第二十七条の二第一項に規定する株券等で金融商品取引所に上場されているもの、店頭売買有価証券若しくは取扱有価証券に該当するもの(以下この条において「上場等株券等」という。)の同項に規定する公開買付け(同項本文の規定の適用を受ける場合に限る。)若しくはこれに準ずる行為として政令で定めるもの又は上場株券等の第二十七条の二十二の二第一項に規定する公開買付け(以下この条において「公開買付け等」という。)をする者(以下この条及び次条第二項において「公開買付者等」という。)の公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実の公表がされた後でなければ、公開買付け等の実施に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る上場等株券等又は上場株券等の発行者である会社の発行する株券若しくは新株予約権付社債券その他の政令で定める有価証券(以下この条において「特定株券等」という。)又は当該特定株券等に係るオプションを表示する第二条第一項第十九号に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この項において「関連株券等」という。)に係る買付け等(特定株券等又は関連株券等(以下この条、次条第二項、第百七十五条の二及び第百九十七条の二第十五号において「株券等」という。)の買付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条、次条第二項、第百七十五条の二第二項及び第百九十七条の二第十五号において同じ。)をしてはならず、公開買付け等の中止に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る売付け等(株券等の売付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条、次条第二項、第百七十五条の二第二項及び第百九十七条の二第十五号において同じ。)をしてはならない。当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を次の各号に定めるところにより知つた公開買付者等関係者であつて、当該各号に掲げる公開買付者等関係者でなくなつた後六月以内のものについても、同様とする。
・・・以下略・・・

ベンチャー企業の社長

具体的にはどういった行為が禁止されているのでしょうか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

先ほど説明したとおり、会社関係者と公開買付者等関係者で規制が分かれていますので、まずは会社関係者について見てみましょう。会社関係者に対する規制は金商法166条が規定しておりますが、どういった場合に規制対象となるかというと、

①会社関係者が
②上場会社等の業務に係る重要事実を職務や権利の行使等に関し知り、
③重要事実が公表される前に
④上場会社等の特定有価証券等の
⑤売買等をする

ことが規制の対象となります。

会社関係者の規制対象の図

ベンチャー企業の社長

またまた、難しくなってきましたね。会社関係者というと、例えば私の会社が上場していれば、私は会社関係者にあたるのですか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

金商法166条1項の各号に定められている者が会社関係者となるので、その上場会社の役員は当然含まれてきますし、子会社の役員も含まれます。また、会社関係者でなくなっても1年以内は同様の規制対象となります(金商法166条1項後段)。つまり、社長が会社をやめた後1年以内ならばインサイダー取引の規制に引っかかるということです。

ベンチャー企業の社長

役員を辞めたからといって自由というわけではないのですね。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

他にも、監督官庁職員のようなその上場会社等に調査権限を有する者(3号)や上場会社等と契約締結を交渉している者(4号)までも含まれてきますから、自身の会社の従業員が、上場企業等と契約交渉をしていた場合に、その従業員が重要事実を知って株取引等を行うとインサイダー取引の規制にひっかかってくる可能性があります。

ベンチャー企業の社長

あ!当社でも上場企業と複数の取引をさせていただいておりますから、くれぐれもそういった行為をしないように注意喚起しておきます。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

さらに、会社関係者でなくても、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者も規制の対象となりますから(3項、第一次情報受領者)、広く規制が及んでいます。社長としては、こういった情報の受領についてはインサイダー取引規制にかかることを従業員にもしっかり理解させ、しっかりとした情報管理体制の構築が求められるでしょう。

ベンチャー企業の社長

どうしてこのような規制があるのですか?

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

金商法においては、基本的に、株価に影響を与えるような重要な事実を知った者が、その重要な事実の公表前に株取引等を行うことを禁止しています。というのは、株価に影響を与えるような重要な事実を知っている者がその公表前に株取引等を行えば、その事実を知っている一部の者のみが著しく利益を得、または、損失を回避することができるわけで、極めて不公平です。

ベンチャー企業の社長

それはズルいですよね。私もよくそれを知っていたら買っておいたのに!売っておいたのに!という経験が何度もあります。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

そうなると、証券市場の公平性や健全性は損なわれますよね。そのような証券市場にだれが投資してくれるのでしょうか。投資家の信頼を得られなくなってしまっては、資金が集まらなくなり、企業が市場を通じて資金調達をすることが難しくなってしまい、株式会社の根幹を揺るがすとも言えるでしょう。

ベンチャー企業の社長

ダメだとわかっていてもどうしてやってしまうのでしょうかねぇ。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

証券取引等監視委員会によると、重要事実を知ってしまうと、確実に儲けられる、損を回避できるという誘惑があること、日々膨大な取引があるから自分はばれないだろうという甘い考え、自分は取引できない立場でも友人に儲けさせ、損失を回避させてあげたいという思惑があることが要因にあるとされています[1]

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

ちなみに、令和元年度のインサイダー取引規制違反行為者の内訳は、会社関係者等と第一次情報受領者の割合が50%、50%。さらに会社関係者等の内訳としては、社員が87.5%で、契約締結者等が12.5%となっています。この年度は役員に違反行為者はいなかったようですね。

ベンチャー企業の社長

ありがとうございます。いつもより難しい内容なので、公開買付者等関係者の規制については、コーヒーブレイクをしてから教えてください。

脚注

1.証券取引等監視委員会事務局「金融商品取引法における課徴金事例集―不公正取引編―」(令和2年6月)7頁。

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著者プロフィール

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早乙女 宜宏

永世綜合法律事務所 弁護士

早稲田大学法学部卒業後、日本大学大学院法務研究科卒業。
顧問先等の企業法務に関する相談を多く受ける一方で、日本大学大学院法務研究科にて、刑事系科目(刑法・刑事訴訟法)の教鞭をとる。その他、警察大学校等の公的機関で講義をするなど教育業務も多い。また、スマートフォン向け六法アプリ、And六法の開発も行う。

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