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第29回 高年齢者に優しく、活躍できる体制づくりとは

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長  戦略総務研究所 所長  豊田 健一

第29回 高年齢者に優しく、活躍できる体制づくりとは

70歳までの雇用、努力義務へ

働き方改革の最大の要因である、労働人口の減少。そうした中、65歳までの雇用確保義務や、政府が70歳まで働き続けられる環境の確保を検討し始めるなど、「定年延長」への動きが着実に進んでいる。

2020年1月8日、厚生労働省は、高年齢者の希望次第で70歳まで働くことができる制度を整えることに関して、2021年4月から企業の努力義務にすることを決定。2020年2月4日に政府は、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務とする、高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定。その後改正法が成立した。

このような流れの中で、経験やスキルが豊富な高年齢者に力を発揮してもらうために、企業はどのような対応を検討する必要があるのか。今回は、特に総務の関わり合いが強い、安全衛生面について紹介していこう。

嘱託・短時間勤務であっても健康診断を

法改正に伴い、多くの企業で65歳定年制となっているが、それと同時に高年齢労働者の労災リスクも高まることが予想される。従業員が倒れて長期間働けなくなった場合、あるいは死亡してしまった場合に起こり得るリスクは、業務が滞り、代替要員の確保が必要になる、といったものだけではない。

使用者には、労働者の安全と健康を確保する安全配慮義務があり、この義務を怠り、労働者の健康に被害が生じた場合、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多く存在する。その安全配慮の一つとなるのが健康診断。

労働安全衛生法によって事業主に定期健康診断の実施が義務付けられているが、嘱託など一定の短時間勤務者は健診の義務対象から除外されている。しかし、高年齢の従業員にはなるべく健康診断を受けてもらうことが重要である。

高年齢の場合、持病や身体機能の衰えがあることも多く、それらをいち早く把握し、体調を考慮した作業や勤務時間にすることがリスク管理として大切となる。加齢に従って、身体機能、特に平衡感覚、病気への抵抗力、記憶力、運動機能の一部などが低下し、それは個人差も大きい。

高年齢者への配慮すべきポイント

若い従業員には聞こえていた注意事項が、同じ場所にいた高年齢者には聞こえていなかった、ということも起こり得る。すべての労働者を対象とした機械設備の安全化、管理の充実などに努めた上で、高年齢者の身体特性に配慮した安全策を講じることが大切だ。以下に、高年齢者対応のポイントを記す。

まずは、転落・転倒の防止。加齢に伴い、平衡機能が低下し、体のバランスが取れずに「墜落、転落」する危険性が増大する。死亡災害など重篤な災害ともなるため、対策には細心の配慮が必要。転倒災害は、高年齢者の労働災害の特徴の一つであり、骨折等の重篤な災害につながりやすく、さらに、同じ骨折でも若年層に比べ、休業日数が長期化する傾向がある。

続いて、荷の運搬による腰痛・ケガ防止。荷物の取り扱い、運搬作業を人力に頼っている場合は、高年齢者にとって重過ぎてよろめいたり、握力不足によって荷が落下したり、運搬距離が長いこと等により腰痛や疲労の原因が生ずることがある。作業点が作業者の身長と一致していないため、中腰状態で上体を前屈する姿勢や、上向き、ねじり姿勢等の不自然な姿勢での作業は、筋疲労を招き、災害性腰痛等の労災発生の原因となる。

加齢とともに視力や聴力等の感覚機能や瞬間判断機能、反射的対応能力等が低下するとされ、これが労災に結び付く原因になり得る。

救急時の連絡体制・対応の整備

不幸にも、社員が倒れた場合に必要になる会社側のやるべきことについては、いずれも高年齢者に限ったことではないが、対策が取られていないところはしっかりと準備しておきたい。

万一に備え、家族などの緊急連絡先を確認しておくことも大切。個人情報保護法に基づき、社員本人に利用目的をあらかじめ明示した上で、適切に収集・管理する。こうした情報は入社時に収集することが多いが、情報が古くならないように毎年確認しておきたい。

万が一の事態が起きた場合、まずは治療を最優先する。救急車を呼び、到着を待つ間にできる限りの応急処置を行う。一方、倒れた従業員の上司や総務担当者に連絡を入れ、総務担当者は従業員の家族に連絡をする。次に事実関係の把握を行う。事故であれば、いつどこでどのようにして起きたか、事故を見ていた人の氏名など、できるだけ詳しく把握し、記録。これらの情報は労災申請の書類を書く際にも必要となる。

事故ではなく、具合が悪くなって倒れた場合は、持病の発作などで私傷病になると考えがち。しかし、長時間労働や暑い屋外での作業による熱中症の疑いがあれば、労災の可能性も出てくる。持病がなかったか、最近の体調はどうだったかなど、家族の協力も仰ぎながら原因究明と対策を講じることが大切だ。

家族への対応は、会社への不信感を抱かせないためにも大切。健康保険や労災保険などの公的給付がどのタイミングでどれくらい支給されるのか、会社規定による見舞金なども案内しておくと家族の不安を和らげることができる。入院や療養が長引く場合は担当者を決め、定期的に本人や家族と連絡を取り合える体制を作っておくと良い。

また、総務担当者はぜひ救急講習を受けておくべきだろう。消防署では心肺蘇生やAED(自動体外式除細動器)の使い方など救命講習を行っているので、総務担当者を中心に、できれば全社員がこうした講習を利用し、いざというときに素早く対応できるように備えておくことが重要だ。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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戦略総務の実現の仕方・考え方

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