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第9回 働き方改革を進めるための、「ぶらぶら社員」のススメ

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長  戦略総務研究所 所長  豊田 健一

第9回 働き方改革を進めるための、「ぶらぶら社員」のススメ

スタッフ部門の基本、MBWA

スタッフ部門が、現場従業員が成果を上げるために行う働き方改革では、当然ながら現場の状況を把握しなければならない。MBWAという言葉を聞いたことがあるだろうか? MBWAとは、”Management by walking around(マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド)”の略、訳すと「マネジャーは現場に足を運び、ぶらぶらしながら仕事をしましょう」という意味で、マネジメント層が現場に足を運ぶ重要性を説いた言葉なのだ。

古くは、南北戦争時にリンカーン大統領が前線の現場に足を運び、最前線の状況を自らの目で把握していた、という史実から生まれた言葉だと言われている。現場最前線を自らの目で見て感じることの重要性は、スタッフ部門が仕事する上でも非常に大事なことである。新しい制度や仕組みを導入した際に、現場から「現場のことを知らないくせに」という言葉とともに反発を買う、というのはよく見られる光景である。働き方改革のみならず、現場に依頼することの多いスタッフ部門ほど、このMBWAは重要かもしれない。

現場従業員が成果を上げるための働き方改革。「働く場の環境整備」を目指す企業も多いだろう。端的に言えば、働きやすいオフィスづくりをするということ。働き方改革全盛のいまの時代であれば、それは効率良く仕事ができるオフィスであり、創造性が向上するレイアウトとなるだろう。

ここで大事なことは、「誰のための環境整備か」ということ。もちろん、現場の従業員のための環境整備であることに違いはない。その場合、「お客さま」は従業員、となり、「お客さま」が本業に専念できるために、スタッフ部門としてはさまざまなサポートをしていかなければならない。本業に専念し売上拡大を実現するため、あるいは次の商売の元となる技術革新を実現するため。そのように従業員が会社に貢献できるよう、スタッフ部門は現場従業員の生産性向上に貢献していくわけだ。

スタッフ部門もマーケティングが命

そうなると、スタッフ部門による自社の社内マーケティングが必要となる。営業部門であれば、お客さま満足向上のため、徹底的にお客さまのことを知ろうとするマーケティング活動を実践する。同様に、スタッフ部門も現場の従業員のことを徹底的に知らなければ、お客さまである従業員の喜ぶサービスは提供できないはずだ。

しかし、スタッフ部門のメンバーは往々にして、椅子に座ったまま仕事をするケースが多い。確かに膨大な仕事を抱えているスタッフ部門としては、いかに早く処理するか奮闘するあまり自席を離れることは難しいかもしれない。メールを駆使し、電話を駆使し、自席で仕事をし続ける。

かつて「ぶらぶら社員」という言葉があった。現場に出向き、ぶらぶらと歩くことで、現場の雰囲気、現場の空気を掴み、そして施策に反映する役割を負った社員のことを表した言葉だ。

この役割の重要性は、いまも変わりない。出向かなくても仕事は進む環境の整ったいまだからこそ、メールのやり取りだけでなく、ちょっとした頼まれごとでも、現場に出向いて解決していく。そのようにして、極力現場とのリアルな接点を増やし、社員の状況を知ることに努めるべきなのだ。

従業員3,000人規模企業に勤めるある総務部長は、メールや電話でのやり取りで済むところを、あえて現場に出向いて社員とコミュニケーションを取るようにしているそうだ。要件が終わっても、しばらく現場に佇んで周囲を観察し、現場の課題や動き、空気感に触れる。頼まれごとを良いきっかけにして、積極的に現場に出向いているのだ。

知ろうとすると、知られることに

現場に頻繁に出向くことで、その副産物として、スタッフ部門で働く個々のメンバーが現場の従業員にもっと知られるようになる。スタッフ部門の仕事は、スタッフ部門が決めたことを現場に依頼する、スタッフ部門が導入したサービスを現場に使ってもらう、そのような「依頼仕事」が多い。依頼される側としては、全く知らない人から依頼されるよりも、よく知った人からの依頼の方が快く指示に従えるものだ。

「何を言うか」よりも「誰が言うか」が大切であり、同じことを発言するにしても現場の苦労や状況をよく知っている人から言われた方が、現場も納得するのではないだろうか?「多少不満はあるけれど、私たちのことをよく知っている◯◯さんが判断したのであれば、仕方ない」

一方、現場で見たことのない、誰とも知らない人の依頼であれば、反感を買うこともあるだろう。「誰だか知らないけれど、私たちの苦労も知らないくせに、こんなこと依頼して!」

スタッフ部門におけるMBWA=「ぶらぶら社員」とは、現場を知ることの大切さと同時に、あなた自身が現場に知られることの大切さにも触れているのだ。さらに、名前と顔を覚えてもらえたら、自分の思いや目指すべきことも、現場に知ってもらえる良いチャンスにもなる。

「さらに会社を良くしたいから、この施策を実行しています」
「みなさんが自社に誇りを持ち、楽しく仕事ができるよう、この依頼をしています」
「現場でイノベーションを起こすために、このレイアウトにしました」

「何がしたいのか」を明確にした上で施策と繋げれば、現場の人の納得感もさらに高まるだろう。スタッフ部門の地位向上は、そういう地道な活動から実現されるのだ。

忙しくても、メールで済むことでも、MBWAを実践し、現場に出向く。そうすることで、社内からの協力が得られ、社内から応援されるようになり、スタッフ部門の仕事もしやすくなるのだ。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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総務の在り方、総務のプロとは

戦略総務の実現の仕方・考え方

総務のDXWithコロナのオフィス事情

健康経営の進め方、最新事例の紹介、など

講演テーマ:営業分野

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