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4.労務管理の注意点

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

4.労務管理の注意点

テレワークの際の労働時間管理のあり方や社内コミュニケーションの不足への対応など、様々な検討課題も見え始めていますが、まだ企業・働く人・行政ともにニューノーマル(新常態)を模索している最中です。厚生労働省では、適切な労務管理を含め、必要な環境整備に向けた検討を進めるため、「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」が2020年8月より開催されています。2020年11月4日に行われた検討会では、「テレワークの実施に際しての労務管理上の課題(人材育成、人事評価、費用負担等)」「テレワークの際の労働時間管理の在り方について」「テレワークの際の作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルスについて」の検討が行われました。

今後の動向を注視していく必要がありますが、労務管理のルールづくりにおいては、現状の法的なルールをおさえた上で、他企業の考えや取り組み事例を参考にしながら自社に合ったやり方を模索していくほかありません。行政からたくさんのパンフレットが出ていますので、おさえておきたいお勧めの資料をご紹介します。

【参考】

また、先にお伝えした検討会で議題に上がっていた観点を元に労務管理上の注意点をお伝えしていきたいと思います。

1.テレワークの実施に際しての労務管理上の課題(人事評価)

非対面の働き方は、労働者個々人の業務遂行状況を把握しにくく評価者に見えづらく、業務への取り組み姿勢等を含めた評価が困難になるなどの声が上がっています。先述したガイドラインによると「評価制度など明確にすることが望ましい~省略~労働者の勤務状況が見えないことのみを理由に不当な評価を行わないよう注意喚起することが望ましい」とあり、テレワークに合った評価方法は特に示されてはいません。企業によって業務や社風がまちまちなため、現段階では行政から具体的なガイドラインを示すのは難しい状況だと思います。

<他企業の取り組み例>

  • テレワークでは業務成果が見えやすくなるため、業務遂行の効率の高さや低さは以前より明らかになりやすい
  • テレワークでは、業務の業務遂行のプロセスが見えないため、成果で判断するしかなく、マネージャーの評価訓練が必要。働きぶりを見える化する必要があると考え、業務のToDoを書き出すようにしている

2.テレワークの実施に際しての労務管理上の課題(費用負担)

常々は事業場への出勤を要しないとされている労働者が、テレワークに要する通信費・情報通信機器等の費用・サテライトオフィスの利用に要する費用・事業場へ出勤する際の交通費等、費用を負担することがあり得えます。労使どちらが負担するか、また使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等についてはあらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい内容です。特に、労働者に負担をさせる場合には、就業規則等に規定しなければなりません。

<他企業の取り組み例>

会社名 手当名称 金額 使途 例
ホンダ 在宅勤務手当 1日あたり
250円
主に光熱費、通信費等
NTT
グループ
リモートワーク
手当
1日あたり
200円
主に光熱費、通信費等(使途は限定なし)
富士通 スマート
ワーキング手当
1月あたり
5000円
通信料、光熱費、デスクやイス等
※テレワーク対象者以外にも支給 (使途は限定なし)
  • パソコンやWi-Fiルーター、椅子や机などの環境整備の一環で全員一律3万円支給した
  • 定期代の支給をやめ、在宅勤務手当を支給している
  • 週3以上の出勤者には定期代、未満の出勤者には実費精算としている

3.テレワークの際の労働時間管理の在り方について

労働者がテレワークを行う場合においても、労働基準関係法令(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法など)が適用され、労働時間管理においても適切に管理を行う必要があります。上司や同僚等周りに促される、公共機関の時間等の制約がない環境下、どうしても長時間労働になりがちとなり、問題になっています。

一方、中抜け(業務から離れる時間)についての考え方もよく質問をいただきます。使用者の業務指示がなく、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている時間の場合は、

  • その開始と終了の時間を報告させる等により、 休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じ、始業時刻を繰り上げる、又は終業時刻を繰り下げる
  • 休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱う

ことが可能となります。

なお、始業や終業の時刻の変更が行われることがある場合には、その旨を就業規則に記載しておかなければならないとされており、また、時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定の締結が必要です。移動時間中にパソコンなどの情報通信機器を使い業務を行う場合、その時間帯が労働時間か否かについては、「使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当する」と示されており、個別具体的に判断されることになります。

<他企業の取り組み例>

  • 全員のスケジュール、業務内容、業務進捗をWebメディアで共有している
  • 勤怠管理は、昼休憩や中抜けも含めて打刻することにしており、打刻漏れがあった場合や業務終了時の業務報告も義務としており、これらができない者はテレワークに適さない者としてテレワーク対象者から外している

4.テレワークの際の作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルスについて

パソコンや照明、換気などの執務環境については、各人に任せている企業が多いのが現状ですが、先述したガイドライン「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備の留意点」等を示し、衛生基準と同等であるか、確認する必要もあるでしょう。

自宅で上司や同僚とコミュニケーションがとりづらく不安を感じる方もおり、メンタル面での不調に留意する必要があります。

<他企業の取り組み例>

  • 出社せずに毎日在宅勤務とした場合、ロイヤルティ(自社への愛社精神や忠誠心、帰属意識、組織コミットメントなど)の低下やメンタル不調等の懸念があるため、最低出社日数ルールを設定したうえで、テレワークを推進している
  • 5月末くらいから2週間か3週間おきに全社的にアンケートを実施しており、結果を受けて健康経営を考えているチームがストレスマネジメント(ストレスに対処し、上手に付き合っていくための方法など)に向けて動き始めている

次回は「マネジメント」についてお伝えします。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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