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2.我が国のテレワークを取り巻く環境 ―コロナ禍で何が起きたか―

コロナ禍で何が起きたか

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

2.我が国のテレワークを取り巻く環境 ―コロナ禍で何が起きたか―

テレワーク、コロナ禍で一気に導入へ

日本テレワーク協会では、長年に渡りテレワークの普及・促進に努めて参りました。昨今では東京オリンピック・パラリンピックの開催を見据え、省庁は東京都および関連団体とも連携し、3年前から「テレワーク・デイズ」という取り組みを進めていましたが、2020年2月までは、テレワークを導入している企業は全国平均で20%程度。コロナ禍においては、人命優先やBCP等の観点から導入企業が一気に伸び、本来のステップを踏まないまま在宅勤務に一斉シフトしたケースが多くみられました。

本来、テレワークは、実施目的を明確にし、経営判断を経て推進体制を作り、業務の洗い出しと見える化を行い、導入範囲や導入方法、社内ルールの整備やシステム構築、研修などの導入の準備を進め、試行導入から始めていただくものです(図表4参照)。

図表4.テレワークの導入ステップ

良かった点や悪かった点を踏まえ、本格導入の検討に入りますので、概ね半年から1年かかるのが一般的でした。急遽テレワークを導入された企業さまの中にはその後「テレワークでは生産性が上がらないから中止」といったところも出てきており、「会社が中止を決定したが、続けてもらう方法はないか」といった、これまでとは違ったご相談も寄せられています(※1)。

このように直接お聞きしたご意見・ご質問等をテレワークの実施度合いと就業経験の長さで分類してみました(図表5参照)。テレワークを実施された方々は年齢にかかわらずポジティブなご意見が出ている一方で、テレワークを経験されていない特に年齢も役職も高い方々からは「テレワークがなぜいいのか分からない」「新規の案件が取れない」といったご意見も寄せられています。

図表5.いただいた声の例

今年7月にDropbox Japan株式会社が発表したアンケート結果にはこの傾向が定量的に出ており、実際に体験した方々はメリットを感じているのに対し、未経験者は「メリットは特にない」と回答しています(図表6参照)。

図表6.今後、在宅勤務を導入または継続する場合のメリット

ブレーンストーミング方式で、多くの意見を出す

このように、テレワークに挑戦してみたものの、成果があがらないと判断された企業さまには、「まずはフラットに就業形態別に良かった点と悪かった点を洗い出してください」とお話しています(図表7参照)。個々人での感じ方も違い、組織としてベストなやり方がすぐに確立できるもではありません。

図表7.テレワークを急遽やったが、成果が…という場合

確立していく過程の中でお薦めするのが、ブレーンストーミング方式(※2)で、できるだけたくさんの意見をだすこと。意見をだし切ったらKJ法(※3)などの方法を用いてグループ分けを行い、“緊急性”と“重要性”を軸としたポジショニングマップを作成してみてください。ここまでやれば、もう何から取り組むべきかが分かってきます。

また、テレワークに関連するサービスやツールは日々進化しています。最初は無理だと思っていたこともいつの間にか可能になっていたということも日常茶飯事。常にPDCAをまわし、ベストな解をみつけ続けることが大切です。就業者にとってのメリットを生みだすことで、企業としてのメリットに繋げていく、それが社会にとってのメリットに繋がります。

生産性を上げるための最適解は、まずは自分の仕事について考え、チームの責任者の方はチーム全体で考え、経営者の方には全社最適について考えていただく必要があります。職種によってテレワークができる人とできない人が居るので不公平感が出て困る、といったご意見をいただきますが、対応可能な職種の方にテレワークを禁ずるのではなく、業務分担の見直しや人材交流で対応していく方法も考えられます(図表8参照)。

図表8.テレワークはどの位導入すべき?

テレハラと暗黙知の関係

コロナ禍で「テレハラ(リモハラ)」という言葉も生まれました。急遽導入されたテレワークの中ではコミュニケーションでの課題も話題になりました(図表9参照)。企業で働く場合、①明確化・システム化された形式知、②企業内の常識として共通して持っている暗黙知、③各自が持っている暗黙知、があります。

図表9.テレワークのコミュニケーションの課題分析

①の多くは制度化されており、全員が認識しているものですので、今回のように緊急で一斉にテレワークといった大きな変化が起きると、組織として対処する必要があります。どうしても契約書に印鑑が要るので、部長が代表して週一で会社に行く、といったようなケースです。

②は形式知化されていないけれど、社内やチーム内で常識となっているもので、毎朝朝礼で出欠を確認するといったようなものがこれに該当します。共通の常識となっていることなので、文書にせずとも大きな支障はなく運営され、オンラインになってもメリットや課題を話し合うことができます。

「テレハラ」で取り上げられたのは、③の各自が持っている暗黙知です。WEB会議のカメラをONにするかOFFにするかといった議論。部下は自宅をみせたくないので常識的にもOFFだと思っていても、上司は業務時間内に顔をみせないとは何事だと考えている場合、話し合いをしたところで、解決には至りません。このような場合は、こうすればうまくいくという特効薬があるわけではなく、コミュニケーションをとって「歩み寄る」ことが必要です。

あなたがマネージャーの立場なら、「ビデオをONにして!」ではなく、「コロナ鬱とか話題になっているし、次回は最初だけでもビデオをONにしてもらえないかな」といった、相手を心配しているからこそ顔をみせてもらいたいという姿勢を示してみてはいかがでしょうか。

人事担当者から「テレワーク環境は会社が整えなければならないのか」「テレワークをしたいという社員を出勤させるのは問題があるのか」「テレワークをしたくないという社員に在宅勤務をさせることはできないのか」といったご相談も多く寄せられました。法律的には民法において「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と定められています(図表10参照)。何らかの見本があるわけではなくコミュニケーションをとって最適解をみつけていくしかありません。それぞれのケースに合わせた誠実な対応が求められています。

図表10.テレワークをさせたい、させたくない、法律的には

脚注

※1 本来は、日本テレワーク協会は個人の方のご相談を受け付けるところではございません。

※2 あるテーマに対し自由に意見をだすこと。質よりも量をだすことを重視し、他の人の意見に便乗して意見を述べることも推奨している。批判はしないことが前提。

※3 情報をカード等に記述していき、そのカードをグルーピングすることで図解し、まとめていく手法。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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