中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と相続
~配偶者居住権制度の創設と事業承継への活用~

2021/01/12

著者:ルーチェ法律事務所 弁護士 帷子翔太
相続特集
配偶者の相続(二次相続)も考慮

1.事業承継と経営者の相続

中小企業の事業承継には、創業者をはじめとした経営者の相続が密接に関わっていることを改めてご説明申し上げたいと思います。

会社は、株主、役員及び従業員等から成り立っていますが、会社の実権は株主にあり、会社は株主の持ち物といえます。中小企業の場合、その株式は、経営者自身が100%保有していることが多くあります。また、経営者が保有する株式は、会社の実権を意味するだけでなく、経営者の個人資産でもあり、会社の実権と、財産権という側面が密接に結びついています。

ところで、経営者が亡くなった場合、個人資産でもある株式は、遺産として、相続の対象となり、会社の経営には一切関わりのない相続人に相続されてしまう場合もあります。株式が相続されるということは、その財産として相続されるだけでなく、会社の所有者たる株主としての権利が当該相続人に相続されることも意味しています。会社法上、例えば会社の定款を変更したり、役員を選任したりする場合には、株主総会で決議を行う必要がありますが、これらの決議には、過半数株主の出席及び出席株主の過半数以上の賛成が必要な場合(普通決議と呼ばれます。)や、半数以上の株主の出席及び出席株主の2/3以上の賛成が必要な場合(特別決議と呼ばれます。)があります。つまり、会社にとって重要な事項であっても、発行済株式総数の2/3を保有していれば1人で決議できるということになり、万が一、会社経営には一切関わりのない相続人が2/3の株式を取得すれば、会社経営が立ち行かなくなる場合も想定されます。また、2/3まではいかなくとも、一定割合を取得した一部の相続人から、後継者が株式を買い取らなければならず、多額の負担を強いられる場合も想定されます。

株式だけでなく、経営者所有の不動産を事業に供しているような場合でも、問題が生じます。例えば、経営者の個人名義である土地上に、会社名義の建物を建て、事業に使っていた場合において、経営者が亡くなって土地の相続が発生し、会社経営に一切関わりのない相続人が土地の共有持分を取得してしまう場合が想定されます。この場合、会社が建物をその土地上で所有して利用し続けるためには、土地の共有持分を買い取るなどの対応が必要になり、多額の負担を強いられ、経営に影響を及ぼしてしまう場合が考えられます。

このように、経営者の個人資産の相続は、会社経営と密接に結びついているため、後継者へ会社を承継させるためには、様々な対策を講じる必要があるということになります。

2.事業承継と経営者の配偶者

会社の経営者が、自身の相続に伴って当該会社を後継者に承継させたい場合、会社の実権は株主にあるため、経営者が保有する当該会社の株式を後継者に承継させる必要があります。また、株式だけでなく、事業を安定して継続するために必要な事業用の資産も同様です。

事業承継を行う場合において、例えば、経営者の長男を後継者として承継させたい場合、経営者の配偶者が株式を持つことは避けた方が良いと考えられます。配偶者の相続が生じた際に、後継者である長男以外のきょうだい(共同相続人)に、会社の株式が相続されてしまえば、結局、経営者の意図した事業承継がとん挫してしまう可能性があるためです。

しかし、配偶者の法定相続分は2分の1とされていること、(たとえ役員等になっていなくとも)これまで経営者の事業や家庭を支えてきたこと及び経営者亡き後の生活や住居等に不安をもちうること等により、一定の遺産を欲する場合があるかもしれません。また、例えば、経営者の所有する建物を、事務所または店舗兼住居として居住に利用していた場合には、事業承継の面から考えれば、その建物は会社か後継者が承継することが望ましいですが、配偶者の住居という面から考えれば、配偶者が取得する方が良い場合もあるかもしれません。

このように、事業承継を行う場合において、経営者の配偶者がある場合には、単に経営者の相続(一次相続)のみを考えるのではなく、配偶者の相続(二次相続)も考慮に入れて、配偶者の希望をどのようにして叶えるのか、配偶者がどのような遺産を得るのか、配偶者の相続が生じた場合にも滞りなく事業承継を行うためにはどのようにすべきかといった事項を検討すべきであると考えられます。

上記の例のように、経営者の所有する建物を、店舗兼住居として事業にも居住にも利用していた場合において、次に述べる配偶者居住権制度の新設以前は、配偶者が居住を継続できるようにするためには、当該建物について所有権を取得して所有者として居住する必要がありました。しかし、経営者の意図する事業承継が長男への承継であった場合、事業用資産であるにもかかわらず、長男も会社も所有権を取得しえず、所有者となった配偶者(長男から見れば母)から、長男または会社に建物の一部分を賃貸し、会社が賃料を払うといったことが必要になってしまい、会社経営という面からは負担となってしまいます。

また、事業承継という側面を離れて考えた場合であっても、不動産の評価額が高額である場合、法定相続分の関係で、配偶者は不動産以外の財産を取得しえないという問題が生じていました(法務省のパンフレットに事例を踏まえた従前の問題点について説明がありますのでご参照下さい。)。

3.配偶者居住権制度の創設

上記のような問題の中、今般の相続法改正において、配偶者居住権の制度が新設され、令和2年4月1日から施行されています。

配偶者居住権は、簡単にいえば、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合において、相続開始後も、終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができる権利のことです。配偶者居住権は、所有権とは異なる権利ですので、配偶者は、建物を所有することなく、無償で居住を継続することができます。

同制度を利用すれば、経営者の相続(一次相続)の際に、配偶者の相続(二次相続)をも見据えた対策を講じることができるものと考えられます。例えば、経営者の財産が、会社の株式、事業用不動産(建物)、自宅不動産(土地建物)及び預金等で構成されており、共同相続人が配偶者、長男(後継者)及び二男であった場合を考えてみると、次のような内容でそれぞれ遺産分割を行うことが考えられます。

  • ① 長男は会社の株式と事業用不動産を取得
  • ② 二男は自宅不動産と預金の一部を取得
  • ③ 配偶者は自宅不動産のうち建物の配偶者居住権と預金の一部をそれぞれ取得

こうした内容で遺産分割を行えば、配偶者の住居及び生活費原資の確保、長男への事業承継、二次相続が起きた場合の株式分散リスクの回避並びに二男が満足するだけの財産取得等の調整ができ、一回的な解決を図ることが可能になると考えられます。

なお、配偶者居住権の取得は、遺産分割協議または遺産分割調停、遺贈もしくは死因贈与または家庭裁判所の審判いずれかの方法で取得する必要があるため、事前に対策をする場合、遺言によって遺贈するという方法をとる必要があると考えられます。

事業承継を行う場合、遺言を用いるだけでなく(なお、遺言については【中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺言】【中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺言2】をご参照下さい。)、新設された配偶者居住権の制度も活用することによって、円滑な事業承継を図ることができるようになるのではないかと思います。配偶者居住権の制度の詳細は、機会をあらためてご説明いたします。

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  • 著者プロフィール

帷子翔太

2015年弁護士登録(東京弁護士会)
日本大学法学部助教(2016年4月~現在)
二松學舍大学国際政治経済学部非常勤講師(2017年4月~現在)
一般民事事件、一般家事事件(離婚・親権)、相続問題(相続・遺言等)、企業法務、交通事故、債務整理、刑事事件、その他訴訟案件を取り扱っている。

民法(債権法)改正の概要と要件事実』(共著、三協法規出版、2017)、『相続法改正のポイントと実務への影響』(共著、日本加除出版、2018)、『Q&A改正相続法の実務』(共著、ぎょうせい、2018)、『Q&A改正民事執行法の実務』(共著、ぎょうせい、2020)等