中小企業・ベンチャー企業のための
事業承継と遺言2

2020/12/17

著者:ルーチェ法律事務所 弁護士 帷子翔太
相続特集
安定した経営のための遺言書作成

1.遺言を利用した事業承継

遺言とは、自分が死亡した際に遺産を誰にどのように分けるかなどを記載して、最終の意思を表示するために遺したものです。遺言は、遺言者が死亡したときに効力が生じます(民法985条1項)。このような遺言という制度を利用した事業承継の方法、遺言の種類、相続法改正による自筆証書遺言作成方法の緩和及び自筆証書遺言の例等については、【中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺言】の記事をご参照ください。

2.遺言書保管制度

相続法改正によって自筆証書遺言の作成方法が緩和されただけでなく、2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が開始されました。今後、同制度を利用して自筆証書遺言を法務局で保管しつつ、事業承継が行われることも増えていくのではないかと思われます。なお、法務局における自筆証書遺言書保管制度の概要については、【遺言書保管法の概要について】をご参照ください。

しかし、自筆証書遺言の作成方法の緩和及び法務局での保管制度は、あくまでも一定程度緩やかになった方法で自筆証書遺言を作成し、これを法務局で保管することを可能とするもので、当該自筆証書遺言の有効性等を担保するものではありません。そのため、会社の創業者が、事業承継を意図して自筆証書遺言を作成した上で、法務局に遺言を保管していた場合であっても、当該遺言の効力が否定されてしまったら、意図したとおりの事業承継は頓挫してしまうことになります。

上記のようなリスクを可能か限り回避するために、以下では、自筆証書遺言及び遺言書保管制度を利用する場合の留意点を、公正証書遺言を利用する場合と比較しつつ、整理したいと思います。

3.自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

  • (1) 遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言及び③秘密証書遺言の3種類があります(民法967条)。そのうち、特に利用される場合の多い自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴については、【中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺言】の記事をご参照ください。
  • (2) 遺言書保管制度を利用した場合と公正証書遺の違いの概要については、以下のとおりです。
自筆証書遺言保管制度 公正証書遺言
遺言の様式等
  • 遺言者が、日付、氏名、財産の遺贈や分割方法等の内容全文を自書し、押印した遺言(民法968条2項)
  • 財産を特定するための事項(財産目録)を添付する場合には当該目録について自書不要(同条2項) 1
遺言者の指示(口述)により公証人が筆記した遺言書を、遺言者及び2名以上の証人に読み聞かせ、または閲覧させ、公証人及び当該証人が、内容を承認の上、署名・捺印した遺言(民法969条)
手数料 1件につき3900円 遺産の金額による1
保管期間 遺言者死亡後50年間 公正証書作成後20年間
内容の審査
  • 形式面の審査のみで、内容面については審査なし
  • 遺言者の自書性の有無等について審査なし
  • 遺言者の意思能力(認知症の傾向等がないか等)の確認なし
  • 公証人関与のもと、形式面だけでなく、内容面含めて適正に審査される
  • 公正人が、遺言書作成者の意思能力の有無(認知症の傾向等がないか等)を確認する。
通知
  • 関係遺言者通知制度2
  • 死亡時の通知制度3
なし
公証役場において、遺言検索システムを利用して検索可能

1 例えば、遺産が1000万円を超えて3000万円以下の場合、手数料は2万3000円です。詳細は日本公証人連合会のHPをご参照下さい。遺言書製本と謄本の交付等にも遺言書1枚につき手数料がかかります。また、弁護士等に作成等を依頼した場合別途費用もかかります。

2 遺言者の死亡後、遺言書情報証明書の交付を受けまたは遺言書の閲覧請求をした場合には、その他の相続人等に対して法務局から遺言書が保管されている旨の通知をする制度。同制度により全ての関係相続人等に遺言書が保管されていることが伝わります。

3 法務局の遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合には、あらかじめ遺言者が指定した者に対して、遺言書が保管されている旨を通知する制度。当該通知制度は、2021年度以降頃から本格的に運用開始とされています。

4.自筆証書遺言及び遺言書保管制度を利用する場合の留意点

  • (1) 遺言書保管制度における審査は、あくまでも方式の適合性を外形的、形式的に行うだけです。内容の適正性等まで確認するものではありません。そのため、内容が不適法・不明瞭だった場合には、遺言者の死亡後、遺言者が考えていた内容を実現することができない可能性もあります。
    また、遺言書の自書性の有無等についても審査されませんので、例えば相続人の1人が付き添って介添え等をおこなって作成されたことが遺言者死亡後に判明した場合、遺言の有効性を争われかねません。
    さらに、遺言者の意思能力の有無(認知症の傾向等がないかなど)も審査されませんので、遺言者死亡後に、共同相続人の1人が遺言者の意思能力の有無を問題にして遺言の有効性を争われ、遺言書の有効性が否定される可能性もあります。
    上記のようなリスクを避けるためには、事前に弁護士等の専門家に相談して、適切な内容の遺言書を作成し、できるだけ助力なく遺言者自ら自筆することが望ましいと考えられます。また、遺言書の作成は、認知症の傾向等が生ずる以前に行うことが望ましく、多少なりともそのような傾向がみられる場合には、遺言者死亡後に遺言の効力を否定されるリスクをできるだけ軽減するために、公証人の審査のある公正証書遺言を利用する方が無難かと思われます(ただし、認知症の程度如何によっては遺言書作成が難しい場合もあります。)。
    公正証書遺言の場合には、形式面はもちろんのこと、内容面も審査されます。そのため、遺言者が意図した事業承継を実現するという点では、費用がかかってしまっても、公正証書遺言を利用することが望ましいと考えられます。
  • (2) 日本ではまだまだ遺言書を作成しないケースが多く見受けられますが、会社経営者の場合には、死亡後の紛争を防止して安定した経営を実現するためにも、事業承継において遺言書を作成することは重要です。自筆証書遺言書保管制度の開始により選択肢が広がりましたので、各種制度を踏まえ、弁護士等の専門家とも相談しながら、適切な手段・内容で遺言書を作成して、事業承継を実現していただけたらと思います。

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  • 著者プロフィール

帷子翔太

2015年弁護士登録(東京弁護士会)
日本大学法学部助教(2016年4月~現在)
二松學舍大学国際政治経済学部非常勤講師(2017年4月~現在)
一般民事事件、一般家事事件(離婚・親権)、相続問題(相続・遺言等)、企業法務、交通事故、債務整理、刑事事件、その他訴訟案件を取り扱っている。

民法(債権法)改正の概要と要件事実』(共著、三協法規出版、2017)、『相続法改正のポイントと実務への影響』(共著、日本加除出版、2018)、『Q&A改正相続法の実務』(共著、ぎょうせい、2018)、『Q&A改正民事執行法の実務』(共著、ぎょうせい、2020)等

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