石渡美奈

全品自主回収する

――2007年には大きな商品事故があったそうですね。

6月のある日曜日の夜に、お客様から1通のメールが届きました。「いつも買っている商品なのだが、何かおかしいので調査してみてください」という内容でした。その商品をお預かりして、工場で検査したところ、社内のライン汚染だとわかったのです。

「さらに事故品が出る可能性があるので、商品を全品回収したい」と工場長に言われました。「え、全品回収!?」と思いました。どのように対応すればいいのかもわかりませんし、どんな影響が出て、どれくらいの損害が出るのかもわかりません。私の一存では決められない大きな話ですので、社長(前社長)の判断を仰ぐことにしました。
私が説明したのはおそらく20秒くらいだったと思います。社長(前社長)はすぐに「全品自主回収する」という判断を下しました。

――さすがです。

私としては、全品回収を回避する方法があるのではないかと期待していたのですが、即決でしたね。「わかりました。ただ、私は、自主回収って経験がないものですから、どうしていいかわからないのですが…」と言ったところ、社長(前社長)に
「うーん、おれも初めてだからわからない」と言われてしまいました(笑)。「あとは頼むよ」ということですね。

「さあ、困ったぞ」と思い、またしても小山さんに相談しました。小山さんはひとつひとつの手順を細かく教えてくださいました。一番のポイントは、新聞に社告を出すことでした。1紙500万円で2紙におわびの社告を出しました。

――けっして安くない出費ですよね。

わが社にとってはものすごく痛い出費でしたが、実はこの社告が大きかったのです。問屋さんに言われたのは「メーカーさんが先に謝ってくれてありがとう」ということでした。

「先に謝ってくれたので僕たちも対応がしやすくなった。あとは任せてください。」ととても心強いお言葉をいただきました。
これが、もしお店にクレームが行って、お店からバイヤーさん、問屋さんを通してクレームが上がってきたりすると、大ごとになる可能性もあったのですが、こちらが先に正直になり自主回収を決めたことで、おかげ様で問題を最小限にとどめることができたと考えています。

絶対にあってはならない事故なのですが、起こってしまったことへの対処としては、最善を尽くせたと思っています。

――もし隠していたりしたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。

思い返せば、祖父から受け継いでいる商品へのこだわりがそのようにさせたのだと思います。絶対にお客様を裏切るような商品を作ってはいけない、お客様が安心して召し上がれる商品を作らなければいけない、というこだわりですね。

早稲田にくるかい?

――ホッピーが業績を回復させてきたのは、石渡社長がメディアに出たり、ネットを駆使したり、というマーケティングの部分が大きいというイメージがあったのですが、お話を伺うと実は少し違っていて、確固たる技術があって、それにマーケティングがプラスされたということだと感じました。

やはり、技術の部分がわが社の核です。なので、いまは早稲田大学のビジネススクールのMOT(Management of Technology=技術経営)コースに所属し、技術経営を学んでいます。実は2年前の春にある方から「あなたの本も読ませてもらったけれど、これからどうするの?このままだとアイドル経営者で終わってしまうよ。」
とのご指摘をいただきました。

――鋭い指摘ですね。

まさに私が感じていたことなのです。自らが広告塔となって、積極的にメディアを通じて発信し、時代の寵児扱いもされたりしましたが、いまが時代の寵児ということは、次は寵児でも何でもない時代が来るということですよね。
私が忘れられたら、同時にホッピーも忘れられてしまうというのでは困ります。でも、私=ホッピーではそうなりかねません。

そのように思っていたときに、「本気でいい経営者になる気があるなら、早稲田に来るかい?」とお声をかけていただきました。MBAではなく、MOTが適しているとのご指導をいただき、寺本義也先生とのご縁をいただきました。

――必要なときにすばらしい師匠が現れますね。人を引き寄せる人は、引き寄せる行動をしているものです。

ありがたいことです。小山さんに学ぶこと、早稲田で学ぶこと、それぞれ切り口は違いますが、求めていたときに最高の師匠とのご縁をいただいたと感謝しています。

お前の会社のコアテクノロジーは何だ

――早稲田で学んだことで、これは読者のためにもなるというものがあれば、教えてください。

早稲田の寺本先生には、「あなたのところのコアテクノロジー、キーテクノロジーは何だろうか。3代目として、まずはそれを知ることが何よりも大切ですよ。」と言われ続けてきました。それはなんだろうと、ずっと考えてきたのですが、最近やっと一つの答えにたどり着きました。

わが社を支えている柱、言い換えると車輪が2つあります。それは、技術と人財です。我が社ならではの醸造発酵という技術がホッピービバレッジを支えてきました。そして、人財の部分では、ホッピーを介して、「自分は何者か」「生まれてきた意味は何か」と自己実現を目指す家族のような社員がいてくれることです。

――あれこれ手を出して、会社の芯を忘れてしまう経営者もいます。

このような時代だからこそ、原点に戻って、自分たちの会社とは何なのかと考えることが重要だと思っています。でも、私もずっと考えていて気がついたのは最近です。まずは、自分たちの芯とはなんだろうと考え続けることが必要なのだと思います。

石渡社長は、会社にとってのコアとなるもの、キーとなるものは何か。これを見極めることができない経営者は生き残れないことを学んだといいます。みなさまの会社の芯は何でしょうか。次回は、今後ホッピービバレッジは何を目指して進むのかなどについて伺います。
投稿日:2010年3月17日
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