[トップインタビュー第2回]

全力で叱り、全力でほめる!

2013/1/30

ホテルエピナール那須
総料理長 菅井慎三

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

菅井慎三

一匹狼の料理人たちをまとめあげるマネジメント力とは?

菅井慎三氏は、楽天トラベルの「朝ごはんフェスティバル2012」の頂上決戦で審査員特別賞を受賞したホテルエピナール那須の総料理長として、約100人の料理人をまとめている。若くして料理人の世界に飛び込み、昔ながらの縦社会の中でもまれた経験は、料理人たちをチームとして組織するのにとても役立っていると語る。料理人という職人気質の人たちを組織する方法論には、あらゆる組織の長にとって参考となるマネジメント手法が隠されていた。また、「顧客満足度」を最大化することが何よりも優先されるホテルという業態を知ることで、本当の意味での顧客満足とは何かが見えてくるはずだ。

世界一の料理人は誰だ?

――菅井さんは総料理長としてたくさんの部下がいますが、初めてリーダーになった人に向けて、何かアドバイスをいただけますか。

私は料理の世界のことしかわかりませんが、部下には「一番大切なものは何か?」ということを、最初に理解してほしいと思っています。

そのために、新しく入ってきた部下には、「君は世界一の料理人は誰だと思う?」という質問をします。大抵は有名な料理人の名前を言いますが、それらはすべて不正解です。正解は「君のおふくろさんだ」と言うと、みんなは驚きます。

――なぜ、おふくろさんなのですか。

おふくろさんは、家族一人一人の好みや栄養を考えて、毎日の献立を工夫してくれます。もし誰かが熱を出したら、その人だけ特別なメニューにします。つまり、おふくろさんがあなたのことを考えて料理を作ってくれるように、相手のことを思いやって作る料理が最高級であり、あなたも同じくお客さまに対して料理を作らなければいけないということを理解してほしいのです。

――なるほど。でも、大勢のお客さまが宿泊するホテルで、それをやるのはなかなか難しいです。

菅井慎三が作る寿司

もちろん、まったく同じようにはできません。しかし、本気でお客さまのことを考えていたら、そんなことはしないだろう、ということはあります。

例えば、大人数の宴会が入って、大量に料理を用意しなければならないとします。「間に合わない」という事態だけは絶対に避けなければなりません。だからといって、前日から作り置きをしておくことは絶対にしてはいけません。作り置きは自分たちの都合で、まったくお客さまのことを考えていないからです。

――家族のために作るのと同じ気持ちでお客さまに作れば、作り置きなんてできないと。

結局、「一番大切なものは何か」ということなのです。一番大切なのは、「間に合うかどうか」ではなく、「お客さまにご満足いただけるかどうか」です。その軸がぶれるようなことは絶対に許しません。「間に合うかどうか」を論じる前に、「当たり前」のこととしてクリアすべき問題です。

――菅井さんは部下を叱る人ですか。

全力で叱り、全力でほめます。今は部下を叱れない人もいるようですが、お客さまのためにならないこと、お客さまにとってよくないことは、きつく叱ります。手を抜いて楽をしようとしたり、食材を無駄にするようなことをしたり、あるいは食中毒の可能性が高まるようなこと、異物が混入したりする可能性が生まれるようなことも徹底的に叱ります。何かあったときに取り返しがつかないことは、きちんと教えないといけません。その代わり、いいことをしたら、抱きしめるほどほめます。

――それが菅井流のほめ方、叱り方?

いいことはほめる。よくないことは叱る。当たり前です。叱れない人は、自分が部下から嫌われたくないからです。でも、上司は自分がどうこうではなく、部下、そしてその向こう側にいるお客さまのことを考えなければいけません。

お客さまのためにならないことは「ダメ」

――菅井さんがお手本とする上司はいますか。

それはやはり、最初の親方です。本当に、さりげない気配りができる方でした。例えば、毎年、私の子どもの誕生日を覚えていてくれて、車で親方を送迎したときなどに、何も言わずにシートに子どもへのご祝儀を置いておいてくださいました。また、子どもの誕生日の前に、わざと自分が休みを取って、次に私が休みを取りやすくしてくれたりもしました。自分もそのような上司になりたいと常々思っています。

――若手の話を聞いてあげる、いわゆる組織の風通しはどのようにしていますか。

やりたいことがあって、その理由もしっかりしているのであれば、話はきちんと聞きます。だから、「やりたいことがあったら、早めに言ってきなさい」と言っています。ただ、お客さまにとってよくないことだと思ったら、有無を言わさず「ダメ」と言います。若い衆にも言い分はあるのかもしれませんが、お客さまにマイナスなことは絶対にNOです。

――若い人材を育てるために工夫されていることはありますか。

菅井慎三の調理場

若い子にはテーマを与えて、いろいろなことをやらせてみるようにしています。例えば、「昔ながらのカレー南蛮を作ってくれ」という課題を出します。「献立を考えて」というような課題を出すことがありますが、なかには献立を考えるのが苦手という人もいます。そのような場合は「献立を考えて」だけではダメです。テーマがあいまいすぎるからです。

まず、「季語を考えてごらん」と考えるヒントを出します。次に「その季語にふさわしい食材はなんだろう」と付け加え、「では、その食材をどんなふうに表現したらいいかな」と最後に質問をします。一緒に考えてあげることも、ときには大事です。

――人材の採用も担当なさっているのですか。

はい。意外に学生時代はやんちゃだった子が伸びたりします。私以外の採用担当者が全員「不採用」としたやんちゃそうな子を、私が「いや、あの子を採用してください。私が育てますから」と言って採用してもらったことがあります。

やんちゃな子を育てるにはコツがあります。やんちゃに振る舞う理由は、大人にかまってほしいからです。本気で自分のことを思ってほめたり、叱ったりしているとわかれば、そこからぐっと成長します。そのような子の成長を見るのは、本当にうれしいです。

<最終回:上司とは部下から持ちあげられるものだ!>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2013年1月30日
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