[トップインタビュー第1回]

お客さまの顔色から察知する。

2013/1/23

ホテルエピナール那須
総料理長 菅井慎三
インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

一匹狼の料理人たちをまとめあげるマネジメント力とは?

菅井慎三氏は、楽天トラベルの「朝ごはんフェスティバル2012」の頂上決戦で審査員特別賞を受賞したホテルエピナール那須の総料理長として、約100人の料理人をまとめている。若くして料理人の世界に飛び込み、昔ながらの縦社会の中でもまれた経験は、料理人たちをチームとして組織するのにとても役立っていると語る。料理人という職人気質の人たちを組織する方法論には、あらゆる組織の長にとって参考となるマネジメント手法が隠されていた。また、「顧客満足度」を最大化することが何よりも優先されるホテルという業態を知ることで、本当の意味での顧客満足とは何かが見えてくるはずだ。

お客さま目線でサービスを提供する

――楽天トラベル「朝ごはんフェスティバル2012」の審査員特別賞受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。優勝ではなかったのが残念なのですが、多くのホテルや旅館がこのフェスティバル用の特別メニューを出してきたなか、私たちはいつもお客さまにご提供させていただいているメニューで勝負して特別賞をいただけたことは、とても誇りに思っています。

――メニューは「那須味噌で焼きむすび茶漬け、那須御養卵の泡雪玉子、高原野菜のお浸し」という、非常に素朴で、素材の味が勝負となるものでしたね。

焼きむすびは、当ホテルでも大好評をいただいているメニューです。そのまま、おむすびだけ召しあがっていただくこともできますし、三つ葉と出汁でお茶漬けにすることもできます。当ホテルにお泊まりいただいたお客さまは、いつでも朝食として召しあがれます。

――素材からこだわっておられると思うのですが、特にどのようなこだわりがありますか。

いろいろありますが、例えば「地産地消」です。地元の農家から、ものはいいのに形がよくないというだけで市場に出ない作物を分けてもらい、よい素材をお安く提供できるようにしています。

――そのような素材を分けてもらうのは、人脈がないとなかなか難しいのではないですか。

最初はたいへんでした。ホテルの従業員の家族や親戚に農家の方がいたので、知り合いの農家との物々交換で始まりました。規格外の農産物はそれまでは捨てるしかなかったのですが、当ホテルが引き取ることが口コミで伝わったようで、先方から「この食材を使ってもらえませんか?」と持ってきてくれるようになりました。

おいしいのに形が悪いだけで値段がつかない。だったら引き取りましょうということです。そのうちに物々交換から買い取りになり、そのまま20年続いています。

ただ、素材については厳しく吟味しています。フランスにはAOCという、農産物に対する品質保証制度があるのですが、「エピナール版AOC」を作ろうということで、基準を設けて品質を維持しています。

親方の気持ちを察することがお客さまサービスにつながる

――料理人の世界は昔ながらの徒弟制度が続いているという話を聞きますが、実際にはどうなのですか。

今と私が料理の世界に入った頃とではかなり違ってはいますが、縦社会であることは変わっていないと思います。一番上に親方がいて、次に煮方と呼ばれるナンバー2がいます。さらに、その下に年功序列で縦につながっていくというものです。

私は、何軒かお店を変わりながら、いろいろな親方に付いて修業しました。ただ、親方に少し認められ始めると、今度は中堅の先輩たちが嫉妬したりして、いじめに近い、理不尽なこともたくさんされました。縦社会では、そのようなことを跳ね返す力も学ばせていただいたと思っています。

――具体的にはどんなことがあったのですか。

熱い鍋のふちをわざと私が持つように渡すといういじわるをされて、やけどをしたことがありました。親方に「どうしたんだ」と言われても、「いや、自分の不注意でやけどをしてしまいました」とだまっていました。

でも、先輩には「この部分では絶対に勝とう」というハングリー精神が生まれました。例えば、かつらむきは絶対に勝とうと思って、先輩たちが寝た後、毎日かつらむきの練習をしていたのを思い出します。やがて、先輩たちも認めてくれるようになりました。

そのようなことも含めて、私の時代はすべてが昔ながらのやり方で、直接指導してもらえることはありませんでした。いわゆる「背中に学べ」というやつです。

ただし、私は1年目の若手と一緒にまかない料理(従業員のための食事)を作ります。

――なぜ、総料理長という親方に匹敵するナンバー1が、若手に直接指導するのですか。

私自身が直接教えてもらえていたら、もっと早く、効率よく、料理が上達できただろうと思うからです。必要なことはきちんと教えた方がいいです。例えば、鍋磨きなども私が直接教えます。新人はほぼ白紙の状態ですから、変な色が付く前に基本をきちんと教えてあげると、その後の伸び方が変わってきます。

――逆に、背中に学ぶというのはあるのですか。

例えば、「顔色から気持ちを察知する」ということは、教えられません。お客さまの顔色、しぐさ、様子などからお気持ちを察知してサービスを考えるというマニュアルを作ることができないからです。

ナンバー2の役割は、親方の考えていることを顔色やしぐさから察知して、下のものに的確に指示を伝えることですが、これはお客さまへのサービスの質を高める訓練なのです。お客さまは「こうしてほしい」ということを言わないので、こちらが気づいて、先回りしてサービスすることが大切です。

機嫌が悪い親方を見たら「今日の親方はどうして機嫌が悪いのだろう」と考えて対処しますが、これがお客さまのお気持ちを察することに通じます。

また、受け身の教育では本当の意味でさまざまなことが身につきません。本人が自分で気づいたことこそが、本当に身につくことなのです。

――先ほど、まかない料理のお話が出ましたが、まかない料理は若手が担当するのですか。

そうです。まかない料理は若手のための腕試しと言いますか、実践の場です。料理の世界では包丁をもたせてもらえるまで何年もかかります。それまでは皿洗いとか仕込みとか修行の時期があります。でも、まかない料理を作るときだけは、包丁、まな板、その他調理器具を自由に使えます。味付けもまかないなら、自分の味を試せます。

でも、若い頃に私がお世話になった親方は厳しかったです。ちょっとでも気に入らないと、箸をつけてくれませんでした。親方に食べてもらいたいという一心で、必死に腕を磨きました。

――それは完全に受け身と逆です。

はい。でも、おいしいだけではまだまだです。例えば、親方がなぜか機嫌が悪い。理由はわからない。たぶん、自分たちとは関係ないところで機嫌を損ねたのでしょう。

そのようなときには、親方の好物をあらかじめいくつか調査しておいて、その好物をメインにまかないを作ります。そんなことを繰り返すうちに、そうしたちょっとした気遣いがお客さまの前でもできるようになるのです。

<第2回:全力で叱り、全力でほめる!>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2013年1月23日
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