[トップインタビュー第2回]

MBA経営では誰も幸せにはなれない!

2012/12/26

社会起業大学学長 中村大作
インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

社会に貢献しない会社は存在する意味がない

「社会起業大学」は、社会貢献をビジネスとする起業家を育てるビジネススクールだ。社会貢献と聞くと、弱者救済のためのボランティア活動を思い浮かべるかもしれない。しかし、中村大作学長は、「一過性のボランティアでは本当の意味での社会貢献にはならない。ビジネスとして成り立たせることによって継続的に貢献していくことが必要だ」と訴える。バブル崩壊やリーマンショック、さらには東日本大震災などを経験した私たちが進むべき道はどこなのか。中村学長が自らの体験とともに、そのヒントを語る。

MBA経営に足りないのは「社会的意義」だ

――ソーシャルビジネスを教える社会起業大学は、競争戦略を基本とする欧米型のビジネススクールとは対極をなすポジションにあると思います。あえてここでは、MBA型ビジネススクールと呼ばせてもらいますが、その違いについてご説明いただけますか。

MBA型ビジネススクールで教えることは、ビジネスを論理化・数式化して、方程式を解くように成功という答えを導く考え方に基づいていると思います。

本校でももちろん、収益を上げるために経営戦略論とかマーケティング論も学ぶのですが、それ以上にもっと大切にしているものがあります。それは、事業を継続する「想い」です。

本当に心からその事業をやりたいのか。どうしてその事業をやりたいのか。起業家自身の心の内面を徹底的に突き詰めていきます。まずは、徹底的に自分の内面を見つめ、自己開示するところから始めます。

――本当に心からやりたいことでないと続けられないということですか。

それももちろんですし、やむにやまれる想いや心からやりたいことではない事業をやっても意味がないからです。起業家自身が幸せになれません。また、事業を営むにはいろいろな人の協力が不可欠ですが、人が「協力したい」と思うのは、結局のところ、起業家の「想い」に共鳴するからです。

本校の学生の話ですが、このようなことがありました。その学生が作った事業計画が非常にすばらしく、「なるほど、これなら成功するかもしれない」と多くの人が思いました。内容は、その学生の実家がある北海道での地域活性化事業です。しかし、協力者がほとんど名乗り出てきませんでした。

――なぜですか。

事業計画だけでは人は動かないということです。どんなにビジネスモデルや収支計画表が優れていても、心に響くものがなかったのです。

ところがあるとき、彼はその事業をやりたいと思う本当の理由を語り始めたのです。それは実家に残してきた一人暮らしの母親のことでした。その母親のことを心配しての事業立ち上げだったのです。その話を涙ながらに語ったのを聞いた直後から、彼のもとに協力者が次々と現れました。人は事業計画に賛同するのではない、起業家の心意気とか生き方そのものに賛同するのだということがよくわかりました。

――MBAでは、ミッションとかビジョンがそれにあたると思いますが、パーソナルな課題まで踏み込んではいません。むしろ、優れたビジネスモデルや競争戦略に注目が集まります。

MBAがもてはやされ、多くの企業が欧米式の弱肉強食の経営になっていきました。常に拡大を続けていかないと他の企業に食われてしまうので、どんなに大きくなっても「もうこれでいい」というゴールがありません。

たしかにそれによって、経済的に繁栄はしたかもしれません。でも、それでみんなが幸せになれたのでしょうか。多くの人が幸福感を得られる国や組織になったでしょうか。

――日本では毎年3万人をこえる自殺者が出ています。多くの大企業では、心理カウンセラーを雇わなければならないほど、ひどいストレスを抱えながら社員が仕事をしています。とても幸せになったとは言えないです。

そうですね。結局、MBA経営では、誰も幸せになれないということに多くの人が気づき始めています。競争社会では幸せになれないのです。ブルーオーシャン戦略とか5フォース分析なんて関係ありません。ビジネスでもっとも重要なのは「社会的意義」なのです。MBA型ビジネススクールに足りないものはそこだと思っています。

――中村学長はMBAホルダーですよね。

そうです。なので、自身の経験から自戒を込めてはっきり言えることなのです。

昔、私は超格安の海外留学を事業とする会社の経営をしていました。当時、私のキャリアは営業職が長かったものですから経営についてはっきりとした自信がありませんでした。上場を目指していましたので、主幹事証券や監査法人と話をしていて、出てくる言葉の意味が理解できないこともありました。そこで、自信の裏付けともなる盾とほこが欲しいと思いました。そのときは、MBAがそれに見えました。

しかし、『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の著者でもある坂本光司先生の授業を受けて、考え方が大きく変わりました。まさに目からうろこが落ちるという感じだったのです。坂本先生は、「心の経営」「背中がふるえる経営」を見直そうということを強く訴えていました。

――坂本先生の言葉で経営の本質に気づかれたわけですね。

はい。加えて、その後の私自身の苦い経験も大きかったと思います。

すべての企業は本来ソーシャルビジネス・カンパニーである

――苦い経験とは何ですか。

その留学会社は上場を目指すことを理由に多くの方々から出資を受けていました。当初は順調に売り上げを伸ばし、会社も拡大していきました。しかし、リーマンショック後に資金繰りが苦しくなったのです。会社が厳しくなったとたんに、私を含む3人の経営者が今後の方針を巡って対立しはじめました。いつしか経営権を巡って敵対的な関係になり、それぞれ株主の委任状の取り合いをするようになりました。

社長は会社売却、私は上場を先延ばしにしてリストラしつつ事業を継続、もう一人は何としても上場を目指すという意見でした。結局、社長が過半数の委任状を獲得して、株主総会で会社の売却を決め、私ともう一人の取締役は退任を余儀なくされました。

一連のお家騒動の原因は、上場という手段が目的化してしまったからだ、とはじめて気がついたのです。「低価格でも海外に留学ができるようにしたい」という想いを実現するために作ったはずの会社でした。でもあのころの私は、いつの間にかPER(株価収益率)がいくつかといったことばかり気にするようになっていました。

――MBA経営の落とし穴に、いつの間にかはまってしまっていたのですね。

ええ。ですから、もう一度、自分らしさの原点、好きなことを仕事にして恥ずかし気もなく社会貢献したいという原点に返ろうと思いました。

<最終回:心で共感したビジネスは必ずうまくいく!はこちら>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2012年12月26日
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