[トップインタビュー第1回]

ビジネスで社会問題を解決する。

2012/12/19

社会起業大学学長 中村大作
インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

社会に貢献しない会社は存在する意味がない

社会起業大学」は、社会貢献をビジネスとする起業家を育てるビジネススクールだ。社会貢献と聞くと、弱者救済のためのボランティア活動を思い浮かべるかもしれない。しかし、中村大作学長は、「一過性のボランティアでは本当の意味での社会貢献にはならない。ビジネスとして成り立たせることによって継続的に貢献していくことが必要だ」と訴える。バブル崩壊やリーマンショック、さらには東日本大震災などを経験した私たちが進むべき道はどこなのか。中村学長が自らの体験とともに、そのヒントを語る。

ボランティアとソーシャルビジネスとの違いは継続性

――中村学長が経営されている「社会起業大学」は、いわゆるソーシャルビジネスを立ち上げる人を育てるビジネススクールですが、どのような方が学びに来るのですか。

以前は「ソーシャルビジネスを学びたい」という動機で、勉強がしたい人がほとんどでした。ところが、東日本大震災後には志望動機がガラリと変わり、いまは「世の中のために役立ちたい」「とにかく何か行動したい」という人が大半を占めるようになりました。

現在、NPO法人や個人事業主も含めた卒業生の起業率は約30%です。一般的なビジネススクールが10%程度であることを考えると、非常に高いと言えます。

――そもそも、ソーシャルビジネスとはどのようなビジネスですか。

はい。ソーシャルビジネスとは、狭義では、子育て支援や障がい者支援、貧困問題、環境保護、まちづくり、地域活性化などの社会的な課題を解決するビジネスのことを言います。とりわけ、社会問題に取り組むことを事業のミッションとしていることが特長です。

国や地方公共団体の財政が厳しいなか、このような社会問題を行政だけで解決することは難しいのです。これまで行政以外では、ボランティアがその役割を担ってきました。

――ボランティアによる活動と、ソーシャルビジネスとの最も大きな違いは何ですか。

ソーシャルビジネスは、利益の追求よりも、社会的な課題の解決を目的としており、その点ではボランティアとも共通しています。

しかし、最大の違いは活動の継続性です。ボランティアは重要な貢献活動も多いのですが、残念なことに有力なスポンサーや活動主体に強い意志がいない限り、金銭の理由で続けることは困難です。なので、一般の企業と同じく、新しい商品やサービスを開発したり、新しい価値を創出したりすることで、収益を確保し、継続的に事業として進めていくことがソーシャルビジネスと言えます。

――ただ、社会貢献で収益を得るというのは、なかなか難しいと思います。社会的な弱者からお金をいただくのは厳しいですよね。どのようにビジネスとして成り立たせるのですか。

ご指摘の通り、社会的な弱者から、ビジネスを継続できるお金をいただくことは不可能です。ですから、「第一顧客」と「第二顧客」と分けて考えます。

――「第一顧客」と「第二顧客」ですか。

はい。救済すべき社会的な弱者が「第一顧客」、実際にお金を支払ってくださる方々が「第二顧客」です。

――何か、具体的な例はありますか。

例えば、有名な成功例に、ホームレス救済のための「ビッグイシュー」という雑誌の販売があります。イギリスが発祥で日本版もあります。

見かけたことがある方も多いかもしれませんが、「ビッグイシュー」という雑誌を路上でホームレスが販売するビジネスで、ホームレスの社会復帰を目的としています。このケースでは「第一顧客」はホームレス、「第二顧客」は雑誌を買ってくださる一般のお客さまということになります。

社会的な弱者のバリューをお金に換えるビジネス

――雑誌「ビッグイシュー」は、ソーシャルビジネスの成功例なのですね。

ボランティアは、例えば、炊き出しとか予防接種などの活動がありますが、根本的な問題である路上生活からの脱出までには至りません。

一方、「ビッグイシュー」の活動は、ホームレスの社会復帰を目標としています。「ビッグイシュー」は1人あたり1日平均20冊程度売れますが、売り手の収入は1冊当たり160円なので、1日平均3200円の収入となります。これだけあると、簡易宿泊施設に泊まれて、住居登録ができます。住居登録ができると生活保護の対象となり、新たな働き口も探せます。

「ビッグイシュー」は、実は定期購読者が数多くいます。ホームレスを助けるためにというのは最初だけで、雑誌そのものに魅力があるので読者が増えているのです。雑誌の流通マージンをホームレスに払うことで、彼らの支援と収益の両方を成り立たせているのです。

――なるほど。他にソーシャルビジネスの成功例はありますか。

2000年の沖縄サミットで、政府はソムリエの田崎真也さんに依頼して、世界の首脳に振る舞う極上のシャンパンを探したそうです。田崎さんは、日本中から集めたシャンパンから那須のワイナリーのものを選びました。実はそれは、知的障がい者たちがつくったものだったのです。

知的障がい者に多く見られる能力として、過集中という一つのことに集中しすぎるというものがあります。この能力はワイン作りにとても適しています。健常者では途中でねをあげてしまうような作業も、過集中によって難なくこなしてしまいます。

かわいそうだから働く場を与えてあげようというのではなく、彼らの持っている能力を発揮させる場を提供したのです。正に適所適材の考え方です。

――「施し」ではなく、価値を正当に評価してビジネスにしていくのですね。社会起業大学の卒業生で成功している事例はありますか。

株式会社かい援隊本部について説明します。60歳以上の人が働く、介護施設への人材派遣業です。今後、ますます高齢化が進み、介護業界では300万人もの人材が不足すると言われています。それを補うために、定年退職したけれどまだまだ働けるという人たちの介護資格の取得を支援し、介護施設を斡旋するビジネスです。

特に、東日本大震災後、「何か人のためになることをやりたい」という人が増えました。定年退職後の人たちは時間もあるので、社会貢献に関する興味も人一倍大きいのです。ですから、このビジネスは、介護業界の人手不足を解決するのはもちろん、介護する人たち、つまり定年退職して時間と体力が余っている人たちの満足度も高めているのです。

――一昔前なら、「定年後は田舎でそば打ちをしたい」などと言って、そば打ち教室に通うような人がたくさんいました。

震災後は変わりましたね。「そばを打っている場合ではない」と。何か人の役に立ちたいという人が多くなり、ソーシャルビジネスの認知度も高まっていると思います。

<第2回:MBA経営では誰も幸せにはなれない!はこちら>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2012年12月19日
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