[トップインタビュー 最終回]

「チームの目標設定は「7割の法則」だ!

2011/6/10

帝京大学ラグビー部監督 岩出雅之
インタビュアー:越石一彦

前回は、「平成世代」の力を最大限引き出すための手法について語っていただきました。今回は、目標設定の手法や岩出監督が考える組織マネジメントのポイント、さらには今後の目標などについて伺います。

自分を保証してくれるものは『人間力』だけ


――前回は「目標設定」のお話をしていただきましたが、具体的にはどのように設定すればいいのですか?

それは、長期の目標と短期の目標、その中間の中期の目標など、さまざまあると思います。私たちは大学のラグビー部ですから、例えば目の前の試合に勝つとか、大学選手権で優勝するとか、そういう目標ももちろんあります。ただ、それがすべてではありません。

人生というスパンを考えれば、大学選手権で優勝したらそれで終わりではありませんし、その後の人生がすべてうまくいくわけでもありません。学生にはよく、「優勝しても社会に出たときの保証なんて何もないぞ!」と言っています。「社会で自分を保証してくれるものは『人間力』だけだ」と。

では、「人間力」とは何だということになりますが、それは例えばきちんとあいさつができる力とか、設定した目標に向かって自ら進んで努力できる力とか、考え方の違う他人とどうやって一緒にやっていくかを考える力とか、仲間をいたわれる力とか、そういったものを総合した力だと思っています。ラグビーを通して、そのような「人間力」を養ってほしいと学生には言っています。

本当にちょっとしたことからなのです。例えば、クラブハウスの玄関で靴を脱いだら、履くときに履きやすいように逆向きに置くとか。見た目もきれいですよね。こういうのは口で「やれよ」と言ってもなかなか身につかないので、何も言わずにまず私がやるようにしたのです。すると、いつの間にかみんながまねをするようになりました。指導者の姿勢が問われるということも含まれます。

――「勝利」という結果だけ追い求めるのではないのですね。

そうです。だから、目標設定するにはまず長期の人生目標を考えて、そこから逆算して中期と短期の目標が決まります。まず、どんな幸せな人生を送りたいか。それが設定できたとしても、漠然としていてイメージがしづらいかもしれない。では、いま大学生として、ラグビー部員として、その幸せな人生を送るためにやるべきことは何か。その中に「勝利」とか「優勝」というものがあれば、それを目指せばいいのです。ないのであれば、他にやるべきことをやった方がいいです。

もちろん、あると思ったから人が部にいるわけで、だとしたら、その「勝利」「優勝」という目標を達成するためには、今日何をすべきか、明日は何をすべきかと考えて、実行するのです。

よく「最近の若い人は根気が続かない」なんていう話を聞きますが、それはきちっとした目標設定ができていないからです。本当に達成したい目標があったら、自然とそこへ向かっていくはずです。ただし、根気、長く続かせるための関わりは大切です。

――チームとしての目標を立てるときに気をつけていることはありますか。

私は「7割の法則」と言っていますが、全体の7割ができる目標を設定します。誰でもできてしまう目標ではモチベーションは上がりませんし、ほとんど誰もできないようなものでもやっぱり上がりません。例えば、「ベンチプレス200kg挙げられるようにしよう」と言っても、ほとんどの人ができないなら意味がない。でも、20kgでは誰でもできるので意味がない。じゃあ、60kgがいいのか、80kgがいいのか、100kgがいいのか、チームの力を見て決める。少しがんばれば7割の人が達成できる目標はどこなのかを見極めています。

なぜ7割かというと、組織には「3-4-3の法則」というものがあるからです。全体を上から3割、4割、3割と分けることができる人のタイプの割合です。で、どんな組織にも放っておいても自分から進んでやろうとする層が3割、やる気がないわけではないが、ともするとやらなくなってしまう層が4割、いくら発破をかけてもやろうとしない層が3割というものです。便宜的に上から「○」「△」「×」とします。

少しがんばれば7割の人ができる目標というのは、「○」と「△」ががんばることで達成できる目標ということになります。「×」はどうやってもやらないのですから、その選手達にはまた違ったアプローチが必要です。

――でも、「×」の人もなんとか救ってあげたいですよね。

もちろん、切り捨てるという意味ではありません。「△」が「○」のほうに行ってくれると、「○」が7割、「×」が3割になりますよね。そうすると、「○」が多数派になり、多数決でこの目標に向かうことがチームにとって正しいことになるわけです。

そうなるとさすがに「×」のなかからも、「○」に近づいていく人が現れます。「×」がどんどん少数派になっていく。そうなれば自然と「○」の割合が増えていきますよね。それでも、「×」のままの人は時間をかけてフォローしながら本人が気づくのを待つことや気づくきっかけを与えていきます。先ほどの学生コーチを決める時期に4年生のなかでの話で気付く選手もいます。

――ひとりひとり、まめにフォローするというのも大変です。

ポイントは、私一人でやるのではないということです。コーチ陣、サポートスタッフを含めて全員でやる。誰かが気づいてあげればいいのです。だから、コーチを選ぶ際の基準も、ラグビーのコーチングスキル以上に「人柄」で選んでいます。

学生主体でチームがまとまった決起集会


――今期は、対抗戦(大学選手権に挑む前のリーグ総当たり戦)4位からの大学選手権優勝でしたが、対抗戦で3敗したときに不安とか、焦りのようなものはなかったのですか?

それはまったくありませんでした。これも先の目標設定からの逆算という部分で、対抗戦での敗戦はあくまでもその先、これは大学選手権という意味だけでなく、次年度、さらにその次の年度をも見据えたチャレンジをしての敗戦でしたから、不安も焦りもありませんでした。

大学選手権に向けては、この敗戦を踏まえてどう切り替えるか。戦術的な切り替えをすれば大丈夫という部分と、でも負けたという事実を気持ちの面で引きずっている部分がありました。戦術的な部分は私たち指導者の役割、気持ちの部分は学生たちが自分たちの力でなんとか乗り越えなければいけないものでした。

そこで、「そんなに引きずらないためにも、4年生全員で決起集会やってこい」と言って、キャプテンと相談しました。1軍とか2軍とか関係なく、4年生全員です。

――決起集会ではどんな話がされたのですか?

私は会場にはわざと行かなかったので、詳しくは知りませんが、キャプテンが「みんなの力を俺に貸してくれ」と言ったそうです。普段、そういうことを言わない男だったので、みんなの心に響いたのではないでしょうか。レギュラーではない4年生が、率先してレギュラーの練習相手を買って出るようになりました。レギュラーでない4年生が痛い練習にも体を張っているのを見て、下級生たちも感じるものがあったと思います。

――今期は史上2校目の3連覇がかかるわけですが、それについてはどうお考えですか

これもまた逆算。3連覇することが究極の目標というわけではないので、もっともっと先を見据えて、さらにいろいろなことを考えて、そこに到達するために3連覇という中期的な目標があるという考えです。

帝京大学ラグビー部がもっと多くの人に認められて、もっと多くの人に愛されるという目標があって、そのためにはやはり強くないと認めてもらえないし、愛されない。だったら、今年も優勝を目指そうではないかということになります。

さらに、学生一人ひとりの人生の目標があって、また大学生活の目標として大学日本一があり、それを達成するためにラグビーをがんばる。がんばるからには、「勝つ」という目標が必要だということなら、優勝を目指そうではないかとなります。

いずれにしても、「エンジョイ」「チームワーク」で学生たちががんばっていきますので、これまでラグビーを見たことがなかったという方も、少し気に留めていただいて、もし興味がありましたら、ぜひ一度ご覧になっていただけたら幸いです。ご覧になったときに、学生のワンプレー、ワンプレーの中には今回お話しした背景があるのだということを思い出してください。企業の経営や組織の運営に、今回の話が少しでも役立つことを願っております。

――ありがとうございました。

KOSHIISHI’S NOTE ~インタビュー後記~

企業においてマネジメント研修を行う際、「一番大切なのは、自発的に考え・行動し・自ら結果に対してコミットメントしていく組織が大切である。」と常々言っております。これを実現していくためには、自ら考えるための‘気付き’をマネジメント側が与え続けることが大切であると考えます。

具体的な現場で使えるヒントは次々と提供するが、決定していくのは管理者ではなく本人や組織(チーム)であること。自ら決定した内容は責任をもって全うし、結果にこだわり続ける。このような流れを作っていくのがマネジメントの最大の仕事であると思うのです。

帝京大学ラグビー部では、各学年のボードと呼ばれる幹部委員会がミーティングなどを企画・運営し、これらに監督は参加しません。そこでさまざまなことを決定し、それに向かって選手全員が一致団結して勝利へと突き進んでいるのです。これは選手へのゆるぎない信頼が根底にあるからこそできることと確信しました。

いつもマネジメント研修の最後にお話しするのは、部下への「絶対的信頼を築き上げましょう!」ということです。組織においてもこの時代を乗り切るためには、もう一度原点に帰って、部下へのゆるぎない信頼を持ち、任せる勇気を持つことではないでしょうか。

株式会社クライアントサイド・コンサルティング
代表取締役社長 越石 一彦

 

投稿日:2011年6月10日
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