[社長インタビュー]

地方再生は、函館からはじまる!

2011/5/13

はこだて鮨金総本店代表取締役社長 森村博
インタビュアー:越石一彦

函館を地域活性化の成功例にする

本連載のインタビュアー越石一彦が、このたび「函館観光大使」に就任した。函館は越石の地元である。そこで今回は函館をモデルとして地域の活性化について考えていきたい。対談相手は越石が長年通う「はこだて鮨金総本店」社長の森村博氏。函館と銀座に店舗を構える「蝦夷前すし店」の名店だ。銀座という飲食店の激戦地で繁盛しているその理由を語ってもらい、さらに函館の活性化策について日頃思っていることを越石氏にぶつけてもらった。そこには、函館に限らず、地方再生のためのキーワードがあった。

わが街「函館」の魅力とは

――今回は、私が「函館観光大使」に任命されたことを機に、函館から東京に進出して成功している「はこだて鮨金総本店」の森村博社長と、函館をどのように盛り上げていくべきか語りたいと思います。森村社長、本日はよろしくお願いします。

こちらこそよろしくお願いします。まずは、「函館観光大使」就任されたことをお祝い申しあげます。越石さんの力で函館を元気のいい街にしていただきたいですね。

――いやいや、この様な大役を仰せつかりまして、思いを新たに全力を尽くそうと思っています。まずは、私たちの地元である函館をもう一度振り返ってみようと思います。函館市は、人口28万人の北海道3位の地方都市です。南側を津軽海峡(日本海)、東側を太平洋、北側を内浦湾(太平洋)に囲まれています。世界三大夜景の1つである函館山、元町・末広町の和洋折衷の建造物、函館港周辺、五稜郭、湯の川温泉、トラピスチヌ修道院など、市内には多数の観光スポットがあります

夏は涼しく、冬は北海道の都市としては寒さが厳しくなく降雪量も少ない。食べ物はおいしく、街並みはレトロで情緒ある雰囲気で観光には最適の街だと思います。

――しかし、ほかの地方都市と同じく人口が減り続けており、以前より街中の空き家や空きビルなどが目立つようになっています。また、重要な産業である観光も5年前と比較して観光客が50万人も減少しています。何かを変えなければならないという危機意識が高いです。

函館の空気感を演出する


――私が函館に帰って、地元の友人たちと話をすると、みんなが口をそろえて「函館には何もない」と言うのです。「何もない」とは「伝えるべき魅力がない」ということになります。

私はそのようには思わないのです。何もないということはありません。それは、アピールの不足に対する言い訳です。みんなが内向きなんです。函館の中だけで「ああでもない、こうでもない」と言っていますが、もっと外に出てアピールしていかないとダメだと思います。

――市議会議員と話をする機会もあるのですが、結局、中央に陳情して終わり。それが仕事だと思っているんですね。それでは何も変わりません。中央を飛び越えて、自分たちに何ができるかという発想をしなければならないと思います。

地方再生という意味では、宮崎県前知事の東国原英夫氏がもたらした宮崎県への経済効果は相当だと思います。彼がよかったのは、内向きではなく、外へ出て行ってアピールしたことです。芸能人なのでマスコミの注目度も高かったという点を差し引いても、県民の意識を外に向かせた方法は評価できると思います。

――だからといって、著名人を市長にしてマスコミにとりあげてもらうという方法がすべてではないと思います。他に何かよい方法はありますか?

やはり函館は、「食」を宣伝していくことが重要になると思います。企業誘致とか産業育成とか地域発展の方法はいろいろありますが、まずは函館の最大の長所である「食」をアピールして、観光業を盛り上げることが先決かと思います。

――私も同感です。しかし、単なるアンテナショップを大都市に出店して、函館のうまいものを並べても意味があるとは思いません。東京には地方の物産ショップがたくさんありますが、どこも盛況だという話を聞いたことがない。一方、「はこだて鮨金本店」は東京銀座で25年も続く繁盛店です。そこに何かヒントがないでしょうか?

これがヒントになるかはわかりませんが、もっとも重要視しているのは「空気感」です。単純に函館の食材を使って寿司を握るのではなく、函館そのもの切り取って東京に持ってくるようにしています。

一つは「産地直送」です。毎日、新鮮な魚介が函館から朝一番の航空便で届きます。築地のような市場を介してしまうと、どうしても一日分の時間が余計にかかってしまいます。寿司は新鮮さが命ですから、この一日の時間差で味もまったく違います。

もう一つは「ジョブローテーション」です。うちのスタッフは約7割が函館の人間です。いまも函館に家があって、1か月交代で函館店と銀座店とを往復するような体制になっています。今月銀座店で働いたら、来月は函館店で働くのです。これは私も例外ではありません。

ですから、函館の街をリアルタイムで知っていて、それをお客様と話せます。実際に函館で生活している人たちと対面するので、なまりも含め、函館にいるような感覚になるのです。

待っていても何も起こらない


――なるほど、「空気感」ですね。確かに「食」というものは、食べ物を単に食べるというのではなく、その空間も同時に味わいます。キャンプで食べるカレーが格別なのと同じです。アンテナショップには、その地方独特の「空気感」が感じられませんね。

北海道物産展は全国どこでも評判がいいのです。私たちも出店するのですが、やはり北海道の人が北海道の食材を北海道で食べるように調理しているところが多く、とても活気があります。

しかし、この「空気感」を出すのは実は難しい。食材の流通や働く人たちの住環境など、インフラを充実させないとなかなか実現できないと思います。

――それこそ行政の力が必要なのだと思います。確かに、市の観光課のみなさんはよくやっておられると思います。国内代理店だけでなく、中国や韓国などの海外の役人や代理店も函館に呼んで魅力を訴えていますから。でも、私はそれだけでは足りないと感じています。実際にお金を払う観光客に、直接、函館の魅力を訴えてないからです。役人や旅行代理店に訴えても、肝心の観光客には間接的にしか伝わりません。彼らに魅力が伝わらなければまったく意味がありません。

確かにそうですね。どうすればよいのでしょうか?

――こちらから出て行って、直接アピールするのです。先ほどの話のとおり、単に食材を提供しても意味がないので、函館の「空気感」を感じさせるコンセプト店をどんどん出店していけばよいと思います。これには必ず行政の力が不可欠です。函館の人々が外に出られるインフラや環境の整備に投資して欲しいのです。

いわば、疑似の「函館タウン」を国内の大都市や中国、韓国に作るという感覚ですね。中国といえば、世界のいたるところに中華街やチャイナタウンがありますが、あそこはいつでも中国を感じます。どの土地に行っても、中国の空気感を感じさせる華僑の力強さが必要ですね。

――そのためには、役人や議員たちは、外部の意見を真摯に聞いてほしいです。彼らはどうしても自分たちだけの力で全部やろうとしてしまいます。それでは、予算という枠にしばられてしまいます。それでは限界がありますから外部のネットワークを上手に活用して、官民一体になってやっていくことが必要だと思います。

北海道の人というのは、開拓民の子孫たちです。いまこそ、その開拓魂を目覚めさせて、外へと出て行くときなのではないかと思います。ただ待っていても、何も起きません。

――その通りです。少子高齢化で日本はじわじわと衰退していくと言われている今こそ、地方から、そして函館から変革を始めるべきだと思います。

私はできるだけ多くの子どもに函館の魅力を伝えたいと思います。子どもがファンになってくれれば、この先、何十年もファンでいてくれます。さらにその子どもや孫へとつながればいいなと思います。

――長期的な視野も必要ですね。それも含めて、私たちがやるべきことは、本物を体験できる場をいかにして提供できるかだと思います。先ほども言いましたが、流通の仕組みや住環境の問題など、個人や一企業では難しいものがありますから、官民挙げて街が一つになって取り組む必要があります。まずはそのための枠組み作りから、早急に作っていかなければいけないと思います。

投稿日:2011年5月13日
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