[社長インタビュー最終回]

一流アスリートは行動力が違う!

2011/12/28

株式会社湘南ベルマーレ 代表取締役 眞壁潔
インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

前回は、ビーチバレーやトライアスロンが湘南ベルマーレに加わるに至った際の具体的なエピソードなどについて伺いました。今回は、各事業がどのように実現され、黒字化されていくかなど、アスリートたちの経営力について伺います。

銀メダリストのプレゼンテーション力

――湘南ベルマーレは、サッカー、ビーチバレー、トライアスロンといった競技で総合型スポーツクラブとしてスタートし、その後はさまざまな競技が増えていきました。その過程で何かエピソードはありましたか?

ソフトボールが加わるときには、スポーツ選手、特にトップアスリートと呼ばれるような人たちの行動力と目標達成能力のすごさを感じました。

シドニーオリンピックで銀メダルを取った安藤美佐子が、ベルマーレの活動を知って連絡をしてきました。デンソーを辞めて、新たな活動の場を探していました。正直、ソフトボールで事業化して採算が取れるかどうかわからなかったので、一度はお断りしました。ですが、安藤はあきらめず、熱烈なメッセージを送り続けてくれました。

――ソフトボールの廃部などが相次ぎ、頑張らなければという気持ちも強かったのでしょう。

そうですね。それで、河野(太郎)さんと一緒に会うことになったのです。会う前は河野さんと「今日はお断りに行くんだからね」「そう、お断りに行くんだよね」と再三確認して臨みました。

まずは最初の断り文句として「市民クラブはお金がないので給料は払えませんよ」と話しました。しかし、「いえ、自分たちで働きますから、お給料はいりません」と言うのです。当時(、Jリーグの←削除)←削除ザスパ草津の選手たちが草津の温泉宿などで働きながらサッカーをやっているというので話題になっていました。それをイメージしていたようです。

――断る最大の理由をあっさり覆されてしまったのですね。

そうなのです。しかし、それだけでお断りしようと思っていたわけではありませんから、懸念事項を次々と挙げていきました。

例えば「グラウンドがないのですが、どうしますか?」というと、「厚木にソフトボール専用グラウンドがたくさんあって、普段はあまり使われていないので、すぐに借りられます」と返してきます。

「安藤さんといっしょにやりたいというメンバーは今4名しかいないけど、それではチームにならないですよね(ソフトボールは9人)」とつっこむと、「ソフトボール人口は潜在的には多いのでトライアウトをすれば優秀な人材がすぐに集まります」と言うのです。リーグ開始まで3ヶ月ほどしかなかったので、トライアウトをしても厳しいだろうとしぶしぶOKを出すと、なんと1,000人以上の参加者を集めてしまうのです。

「これはどうしますか?」という具合に、その他にも断る理由を挙げていったのですが、どれもすぐに解決策を出してきます。こうして湘南ベルマーレのソフトボールチームが誕生したわけです(笑)。

アスリートのビジネス能力

――一流のアスリートはプレゼンもうまい。

ええ。プレゼンだけではなく、事業もうまくやってくれます。例えば、サッカーでは何といっても子どものサッカースクールの会員数が事業の成否を左右します。いつまでに会員数を何人にしないと赤字になる、というような試算をして、目標の獲得会員数を割り出します。

すると、サッカーのコーチたちが会員獲得のためのいろいろなアイデアを出してきて、目標を達成してしまいます。「あの地域の子どもたちはスポーツをする場所がなくて遠くまで通っている」「新しく分譲地ができて、家がたくさん建っているから子どもが増える」などと、いつの間にか自分たちで市場調査をして戦略を練っているのです。

――特にビジネスをやってきたわけではないサッカーのコーチたちがですか?

はい。アスリートは自分の体づくりにしても、大会などに臨むにしても、まず目標を設定します。そして、その目標を達成するには何をどのようにやっていけばいいかを考えて、実行します。

つまり、目標を設定する力、達成するための考える力、それを実行する力を、スポーツを通じて身につけているのです。目標を決めて達成するということを繰り返してきましたから、その目標が会員数獲得の数字に変わっても、同じようにやれるのです。

――サッカー以外でも同様ですか。

はい。みんないろいろ考えてくれます。トライアスロンの選手とコーチ陣が教える大人気のイベントがあります。「オーシャンスイム教室」といって、海で泳ぎを教える教室です。

日本はプールで泳ぎを教えるのが普通で、海で教えてくれるところは少ないです。しかし、海でおぼれる危険性のほうがはるかに高いですよね。なので、ものめずらしさもあり、たいへん好評で、毎回遠方からの参加者もたくさん来ます。

海はグラウンドやコートなどと違って使用料金も取られませんから、収益率も高く、その利益は選手たちの遠征費として使われることになります。他の競技でも同じように、コーチ陣が自分たちで企画して利益をあげているのです。

――すばらしいですね。でも、なぜ湘南ベルマーレではスポーツの多様化ができるのに、他のクラブチームではなかなか同様にいかないのはなぜでしょうか?

他でもできると思います。ただ、やらないだけです。大きなクラブは大企業と同じで、新しいことや前例のないことをやろうとすると時間がかかるのです。ベルマーレの長所は決断までに時間がかからないこと。そしてとにかくやらなければ存続できなかったのでやるしかなかったのです。

しかもアスリートの能力が高いことはわかっているので、すべてについて私がいちいちチェックせず、すべてその競技のコーチ陣に任せます。数字の面も含めて事業計画さえしっかりしていれば、どんどんやってくださいと言っています。判断基準は「大丈夫?」と尋ねて、「大丈夫です!」とすぐに返ってくるかどうかだけです。アスリートは、案外、数字にも細かい人が多いです。

――最後に今後の展望について聞かせてください。

大企業ではなく、地元の一般市民の方々にサポーターになっていただいて、出資していただいている以上、この地元の方々にどのように利益を還元していくかという発想で、これからもやっていきます。

プロですから、トップチームが勝ったか負けたかという部分にも当然、こだわっていかなければなりません。しかし、勝つことだけがサポーターへの還元ではないと考えます。還元する方法が勝つことだけだと、負けてしまったときにサポーターとの関係が難しくなります。

だから、勝っても負けてもしっかり還元していく。地元のみなさんに有益なものを提供していく。そのような意味で、地域への貢献、例えば小学校体育巡回授業とか、各競技のスクールの開催や健康づくり教室といったことを、これからも積極的に行っていきます。

――企業には社会貢献することによって収益をあげていく社会企業というものがあります。湘南ベルマーレも一種の社会企業ではないでしょうか?

勝ち負けをこえたところと言いますか、地元のみなさんが喜ばすしか、私たちが収益をあげる場所はありませんから、そのような意味では社会企業なのかもしれません。

ただ、私たちはまだまだスポーツクラブの理想型には程遠いと思っています。山で言えば3合目です。さらに頂上を目指してこれからも活動していきたいと思っています。そして、私どもが前例となって、各地に総合型スポーツクラブができて、多くの人たちがスポーツを通して幸せになれるようにと願っています。

――ありがとうございました。

KOSHIISHI’S NOTE ~インタビュー後記~

スポーツ文化へのあこがれ

小さい頃からプロ野球が大好きでした。長嶋茂雄にあこがれていました。オーバーアクションでファーストに送球する姿を見て興奮し、キャンプで泥まみれになっている姿に尊敬し、三振する姿にさえ心踊ったあの頃を昨日のことのように思い出します。

やはりファンにとっては、チームや選手が勝利をすることがなによりも喜びかもしれません。しかし、プロスポーツがより発展していくには、本当にそのチームを愛し、応援し続けるファンやサポーターとの勝ち負けをこえたリレーションシップが大切になります。

湘南ベルマーレは、本当の意味で地元とのコミュニケーションを追求し、多くの生涯サポーターをつくりだしています。地域とともに未来永ごう発展するプロスポーツの姿がそこにあります。

企業からの支援だけに頼らないプロスポーツが、本当の意味での地域貢献につながり、子どもたちの記憶にいつまでも残る選手の育成にもつながるのです。

最後になりましたが、眞壁社長の情熱が、地域に密着し地元から愛される日本型市民スポーツクラブを作り上げ、やがては日本に真のスポーツ文化を根付かすと確信した取材となりました。

株式会社クライアントサイド・コンサルティング
代表取締役社長 越石 一彦

<完>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2011年12月28日
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