[社長インタビュー最終回]

日本の力、日本人の力を信じる。

2011/11/16

日本スターウッド・ホテル株式会社
日本・韓国・グアム地区統括社長
ロタ・リチャード・ペール
インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

前回は、円高、経済危機、大震災などの逆風のなか、観光立国としての日本の可能性などについて伺いました。今回は原発事故の影響を海外の人たちはどう見ているか、そして復興への道筋などについて伺います。

日本政府は海外メディアに正確な情報を発信せよ

――日本人がいま最も懸念しているのが、原発事故の問題です。放射能汚染に対する安全性が理解されなければ、海外からの観光客の増加はなかなか見込めないだろうと思います。一方、御社は震災後に激減した外国人を日本に呼び戻すべく、世界各国約5,000人の営業担当者を動員し、来日を促すプロモーション活動を行いました。また今年の7月にはCEOのフリッツ・ヴァン・パーシャン氏が来日し、諸外国に対し日本は安全であることを積極的にPRしていただきました。なので、あえて質問させていただきます。今後、日本の安全性への理解は海外で進むと思いますか?

時間がかかるという意味で、とても厳しいと思います。

私たちも日本の安全性を積極的に訴え、海外からの訪日者を増やすため努力しますが、放射能の問題については、特に海外のメディアに十分な理解が欠けています。これは大きな問題です。ただし、海外のメディアの責任というよりは、日本政府の役割が大きいと思います。

例えば、BBCとCNNでは情報源が異なるため、報道されていることが少し異なっています。報道された内容が一貫していないと、一般の人たちは実際に何が起きているのかわかりません。人は状況がわからないというのが最も怖いのです。

――状況さえしっかりとわかれば、それに対する備えとか、覚悟のようなものもできるようになるということですね。それには一貫した報道がされなければならないということですか?

はい。状況さえわかっていれば、人はそのリスクを取るべきかどうかを判断できます。そして、取るべきリスクだと決断できれば、積極的にそのリスクを受け入れるのです。

例えば、自動車の運転は事故にあうリスクを必ず伴います。しかし、運転手はそのリスクを積極的に受け入れて運転しています。水泳は溺れて死んでしまうかもしれませんが、それでも水泳を楽しんでいます。バンジージャンプは、ひもが切れたら確実に死んでしまうでしょう。でも、多くの人はその可能性を認識したうえでバンジージャンプを楽しみます。

海外の観光客が日本に来ないのは、正しい情報が伝わっておらず、「日本の大震災は相当深刻だ」といううわさばかりが流布しているからです。残念ながら、多くの報道機関は世間をあっと言わせるニュースほどいいニュースだと思っています。情報を正しくコントロールしないと、小さな事故でも大きな事故として報道されてしまいます。

ですから、放っておくとさらに過激な報道になってしまうのです。だからこそ、日本政府はしっかりと正確な情報を伝える必要があります。

――確かに報道機関はセンセーショナルに伝えようとしますね。特に海外のメディアは震災当初、悲惨な映像を大量に放映したと聞きます。

重要なことは、“シンプルかつ正確”な情報を常に配信するということです。今回の震災で流れた海外ニュースの多くは「日本で大地震と大津波が発生」とか「日本の原発で大事故」といったものでした。でも正しくは「東日本の太平洋側の沿岸で大地震と大津波が発生」であり、「福島第一原発で大事故」です。

これは大きな違いです。本当は日本の一部であるにもかかわらず、日本各地で大地震と大津波が起こり、日本全体が深刻な放射能汚染にあってしまったかのように報道されました。

アメリカではその点がとても明確です。先日ハリケーンが上陸した際に原子力施設が停止しましたが、事実を簡潔に語ったことでその後は大きな話題に発展せず、一つの事象として完結しました。

――日本と世界とでは、メディアの考え方が異なっているのですか?

日本のメディアはいまだに半年以上前の事故を分析しています。ですが、報道すべきなのは現在であり、未来のことです。

これは日本人の文化的背景があるのかもしれませんが、日本では事実を後で述べるという傾向が強いように感じます。間違ったことを伝えたくないからしっかり分析してから伝えようとするのです。例えば為替のニュースでは、日経平均を過去と比較して、「上昇した」「下落した」と報道しています。海外では、過去の株価など誰も興味がありません。知りたいのは未来の株価なので、どのメディアも株価の予想を報道します。

確かにこれまでのような日本人同士ならばそれでよかったかもしれません。しかし、情勢は変わっています。日本は世界の大きな部分を占めるようになっており、日本人は世界の人々と同じ時に同じ場所で生きているのです。日本の若者たちは中国やアフリカや南アメリカの人たちと同じ音楽を聴いているし、フランスの若者たちは「ワンピース」のような日本のマンガ、アニメを見ています。世界はニュー・リアリティと呼べる新たな局面を迎えているのです。このことをしっかりと認識する必要があります。

日本のよさ、安全性を積極的に伝える

――日本が世界からの観光客を取り戻すための施策はありますか?

ご存じのとおり、福島原発で甚大な被害を受けたエリアを除けば日本は安全であり、海外の方々が旅行するには問題ないと考えています。

一つのアイデアですが、日本から海外に戻る人々に、日本のきれいな景色が載った小冊子を持って帰ってもらい、それを地元の人たちに見せて日本のよさ、安全性を語ってもらうという方法があります。実際に行ってきた人の言葉には説得力がありますし、小冊子など実際にモノがあったほうが説明しやすくなります。

また、海外にある日本企業が共同で、それぞれの国で日本をアピールするイベントを行ったり、復興支援プロモーションを行ったりすることもあると思います。すし屋、ラーメン屋、鉄板焼き屋などは、世界のどこにもないレストランのスタイルです。これらを知ってもらうだけでも、十分に魅力をアピールできると思います。

日本にはきれいな雪山も、美しい海もあります。例えば、アメリカ人が旅行するのに、雪を見たければアラスカへ行き、海を楽しみたければバハマへ行きます。ヨーロッパ人なら、海を楽しむためにインドネシアやマレーシアへ行くかもしれません。日本には一つの国に山もあれば海もあります。旅行客にとってとてもよい環境が整っています。

日本は、地域で争ったり、別々に活動したりするのではなく、みんなで一つになって進んでいくことが大事なのだと思います。

――このような状況ですが、スターウッドグループは日本にコミットし続けてくれますか?

もちろんです!大阪や舞浜のホテルなどは、短期ではなく、中長期で契約しています。なぜかといえば、私たちは日本を愛し、日本を信じているからです。

私自身は、2000年から日本に住みはじめて、もう11年になります。日本が大好きで、文化も人も大好きです。私はドイツ人ですが、日本は第二の祖国だと思っています。これからも、どうぞよろしくお願いします!

――それはうれしいです。最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。

日本のビジネスマンはいま、ネガティブというよりも、現在の状況下で少し元気がないというだけだと思います。ただ、ビジネスマンに元気がないと、家族も元気がなくなってしまいます。

私のメッセージはとてもシンプルです。「雨があがれば必ず晴れる。夜が明ければ必ず朝が来る。」ということです。困難のあとには必ずよいことがやってきます。災害というのは人の力では避けられないものです。でも、おろおろして困っているだけではなく、「何ができるだろうか」という未来に向かう発想が大事です。

今回の震災に関しても、起こってしまった状況に困り果てたり、元気をなくしたりしているだけではなく、「では、代わりにどのような新しいエネルギーを開発できるだろうか」という発想に変えていったり、節電で仕事ができないならば「家族と過ごす時間をもっと大切にできて幸運だ」といったように気持ちを切り替えていくことで、よりポジティブに変われると思います。

私たちは、日本の力、日本人の力を信じています。

――日本人として大きな勇気をもらいました。ありがとうございました。

KOSHIISHI’S NOTE ~インタビュー後記~

同じ宿泊施設でも、昔からホテルと旅館とでは、サービスの考え方にそれぞれの個性があったように思います。

ホテルは、お客さまのどのような要望もかなえるよう最善を尽くすのに対し、旅館は、窮屈にならない程度の「しきたり」や「伝統」を理解してもらい、それを楽しんでもらうようなところがありました。

今回、ペール社長のお話のなかで、「お客さまのさまざまな状況に応じてサービスの内容を充実させ、それを提案していく」というところに、これからのサービスの神髄があるのではないでしょうか。

待ちの姿勢で何でもご要望をかなえますというサービスではなく、お客さま個人のスタイルにあわせて「気づき」を与え、よりよいホテルライフを楽しませることが大切なキーワードです。

最後に「日本にコミットし続けてくれますか?」という私の質問に力強くうなずいてくれたことがとてもうれしく、印象的なインタビューとなりました。

株式会社クライアントサイド・コンサルティング
代表取締役社長 越石 一彦

<完>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2011年11月16日
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