Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 
第5回「錯誤規制の見直し②」

2021/05/12

著者:日本大学法学部教授 大久保拓也
民法改正
土地購入における錯誤規制

Q:Dは、自らの所有する土地をEに売却しました。Eはその土地をFに転売しようと持ちかけ、Fは登記簿をみてEの名義になっていることを確認してから購入しました。その後、Dがこの土地の売買契約は錯誤にもとづいていることに気がつきました。Dは錯誤を理由に売買契約を見直し、土地を取り戻すことができるでしょうか。

A:改正民法では、明文の規定を設けて、Fの保護を図ります。

Q&Aイメージ図

1.改正のポイント

前回取り上げた「錯誤規制の見直し」には、もう一つ重要な改正があります。本稿ではそれについて取り上げます。

改正のポイントは
「錯誤に対する善意の第三者保護の規定」が設けられることです。

2.改正点の解説

それでは改正点を簡単に解説しましょう。
改正民法が設けるのは、第三者保護規定です。すなわち、錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない(民法95条4項)、という規定です。

「対抗することができない」というのは「主張できない」という意味です。したがって、設問Qでは、Fが善意でかつ無過失の場合、Dは、D・E間の錯誤による売買契約の取消を主張してFから土地を取り戻すことはできません。

3.第三者の保護とは?改正の理由は?

それでは、改正された錯誤における第三者の保護とは何でしょうか。またなぜ改正されたのでしょうか。そのためには詐欺に関する規定を説明する必要があります。

(1)錯誤と詐欺

錯誤とは、表意者が自分でした意思表示がその真意に合致していないことを表意者が意識していない場合をいいます。民法では、自らした意思表示がその「真意」に対応していないことを表意者が意識していない場合を、「錯誤による意思表示」と呼びます。このうち、表意者の思い違いが他人の行為によって意図的に引き起こされた場合については、表意者を責めることはできません。民法は、これを詐欺による意思表示と呼んで規制しています。

詐欺による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。詐欺とは、他人を欺いて錯誤に陥らせる違法な行為をいいます。積極的に虚偽の事実を述べることだけでなく、他人が錯誤に陥っていたり、錯誤に陥ることを知りながら真実を告げないことも詐欺となります。

詐欺により意思表示をおこなった者はそれを取り消すことができますが、その取消しを善意でかつ無過失の第三者には対抗できないと規定されています(民法96条3項)。この詐欺における善意の第三者保護の規定は、錯誤については改正前民法では規定されていませんでした。しかし、善意の第三者保護は錯誤の場合も必要であると考えられます。

(2)改正の理由は

そこで、善意の第三者保護については、改正前民法から規定を置く詐欺取消の規定(民法96条3項)を類推適用するというのが多数説であり、錯誤と詐欺の規定の違いを法解釈で補ってきました。もっとも、これでは民法の条文だけみても、善意の第三者保護が図られるのかどうかが、法律の専門家以外にははっきりとわかりません。そこで改正民法は、国民にわかりやすい規定にするために、錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができないと、第三者保護規定を設けることとしたのです。

4.錯誤があった場合の善意の第三者保護

この点について、設問Qを基にさらに詳しく解説しましょう。
設問Qでは、FはDが錯誤にもとづいて契約を締結したことを知りません。このように「事情を知らない」ことを「善意」といい、D・E間の事情を知らないFを「善意の第三者」といいます。

前述の通り、改正前民法では錯誤に対する善意の第三者保護の規定は置かれていませんでしたが、Fの保護を図る必要があるため、善意の第三者保護について詐欺取消の規定が類推適用されていました。

これを受けて改正民法95条4項は、錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない、とする第三者保護規定を設けます。「対抗することができない」というのは「主張できない」という意味ですから、設問Qでは、DはD・E間の錯誤による売買契約の取消を主張してFから土地を取り戻すことはできません。

注意が必要なのは、ここにいう第三者は「取消前」に登場していることが前提となっている点です。取り消された行為は初めから無効であったものとみなされますから(改正民法121条)、設問QでDの取消によってD・E間の売買契約は存在しないことになり、所有権の移転にもとづく登記簿の変更も無効となるために、Fは無権利者Eから土地を購入することはできないことになります。この結論は「取消前」に現れた第三者Fにとって酷です。そこで、改正法95条4項は、Dによる取消がされることになるかもしれないことを知らない「取消前」の第三者に対して取消を主張して第三者の得た権利を遡って否定することはできないとして、Fの保護を図っているものと解されています。

5.まとめ

錯誤の改正については規定が大幅に増えています。改正点について、図表にまとめておきます。

(表)錯誤の改正対照表

改正前民法95条 改正民法95条
要件 法律行為の要素に錯誤 下記①・②に基づく錯誤が法律行為の目的・取引上の社会通念に照らして重要なもの(1項)
①意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示錯誤)
②表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)

→②は「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに」限り取消を主張できます(2項)
相手方の保護 表意者の重過失の場合、表意者は無効を主張できない 表意者の重過失の場合、表意者は取消をすることができない(ただし、(1)相手方の悪意・重過失、または、(2)相手方が共通錯誤に陥っていた場合は除く)(3項)
効果 無効 取消(1項)
第三者の保護規定 なし 善意・無過失の第三者保護(4項)

執筆の参考にしたサイト

法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

民法関連書式

  • 著者プロフィール

大久保拓也

日本大学法学部教授、ミロク情報サービス客員研究員

日本大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。ミロク情報サービス客員研究員として商法・会社法・民法等の研究報告を行う。令和元年改正会社法の審議において、参議院法務委員会で参考人として意見を述べた。日本空法学会理事、日本登記法学会監事も務める。
著書に『法務と税務のプロのための改正相続法徹底ガイド〔令和元年施行対応版〕』(共著・ぎょうせい)、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(共著・ぎょうせい)等多数。

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