Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 
第1回「消滅時効期間の改正」

2020/12/02

著者:日本大学法学部教授 大久保拓也
民法改正
消滅時効期間の改正を解説

Q1:友人が道路を歩行中にひき逃げに遭ったそうです。当面の生活費が必要だということで、お金を返してあげました。生活に余裕ができたら返してもらえば良いのですが、貸したお金を返してもらえる期間はいつまでになるのでしょうか。

Q2:また、友人は、ひき逃げした車の運転手が見つかれば、損害賠償を求めたいと言っていますが、逃げまわって見つからないこともあるでしょう。いつまでに見つかれば訴えることができるのでしょうか。

A:改正民法によって、Q1は貸金債権ですから、権利を行使することができることを知った時から5年間(または権利を行使することができる時から10年間)行使しないときになります。Q2は、損害および加害者を知った時から5年間、または事故の時から20年になります。

1.はじめに

令和2年(2020年)4月1日から債権法を改正する改正民法が施行されました。市民生活にとって身近な債権法の改正は実に120年ぶりの大改正ですから、われわれの生活にもさまざまな影響を与えます。ビジネスとも関係が深いです。そこで本稿では、消滅時効制度を取り上げます。

2.消滅時効とは

(1)消滅時効制度

私法上「時効」とは、一定の財産権について、一定の期間が経過したという事実状態を尊重して、それをそのまま権利関係として認めようという制度です。A(債権者)がB(債務者)に10万円を貸していました(金銭債権)が、5年以上支払請求権を行使しなかった場合、Aが長期間権利行使をしなかったという状態が継続しただけで債権の消滅を認めるというのが消滅時効です。

消滅時効が認められる理由として考えられるのは、一定の事実関係が継続した場合、それが正当か否かの証明は難しいのですから(例えば10万円を5年前に支払ったことを債務者がいつでも証明できるといえるでしょうか)、そのような事実関係をそのまま正当なものとして扱うことがむしろ真実に合致する蓋然性が高いことや、長い間権利を主張しなかった権利者は「権利の上に眠る者」であって法的保護に値しないことなど等です。

(2)消滅時効期間

これに関する改正前民法では、債権の消滅時効期間を原則として10年としつつ、一定の場合については短期間で消滅時効にかかるとしていました。たとえば、料理店のツケは1年、塾の月謝や弁護士の職務についての債権は2年、工事代金債権や医師の診療に関する債権は3年、商行為から生じた債権は5年等となっていました。これではわかりにくく、現代社会にマッチするように区分を見直す必要がありました。

そこで、改正民法166条は、(1)債権の消滅時効における原則的な時効期間について、①主観的起算点からの短期(権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき)と、②客観的起算点からの長期(権利を行使することができる時から10年間行使しないとき)の二重期間構成をとります。

①「権利を行使することができることを知った時」とは、具体的には、確定期限が付された債権の場合には期限の到来時点からですし、期限の定めのない債権の場合には債権成立時というように、債権の種類によって異なります。取引行為によって生ずる債権では、多くの場合、弁済期を暦日で定めますから、主観的起算点と客観的起算点が一致することになるでしょう。暦日の到来は債権者も当然に知りうるため、この場合には5年で消滅することになります。

これに対して、過払金返還請求権(貸金業者がとり続けていた利息制限法の上限を超える利息の返還請求権:民法上の不当利得返還請求権)のように、債権者(借主)が債権の発生をはじめから認識できるわけではない債権もあり、そのときは②が変動する場合もありますから、それを考慮して改正法は②の規律を設けたのです。

また、この改正に合わせて、職業別の短期消滅時効や商行為に関する規定を削除しましたので、時効の管理がしやすくなりました。

(3)生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

さらに、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効について規定を設け、前記①主観的起算点から5年間というのは同じですが、②客観的起算点からは「20年間」(改正法167条)に延ばしました。このような規律を設けるのは、生命・身体の侵害という重要な法益侵害については、被害者の救済を図る必要があると考えられたためです。

3.不法行為による損害賠償請求権

(1)債務不履行責任と不法行為責任

Q1のように、お金を借りた友人(債務者)が返済しないような場合を「債務不履行」といい、あなた(債権者)は債務不履行によって生じた損害の賠償を請求できます(民法415条)。これについて改正前民法では原則として10年でしたが、改正民法によれば(1)権利を行使することができることを知った時から5年間、また(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないときになります。したがって、あなたはこの間に返済請求する必要があります。

これに対して、Q2のように被害者である友人は交通事故を起こした加害者に対して損害賠償を請求することができます。故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うことになります(民法709条:これを不法行為責任といいます)。友人と加害者の間に契約関係はありませんので債務不履行責任を問うことはできませんが、不法行為責任を問うことができます。

(2)損害賠償請求権の消滅時効

それでは、友人はいつまで損害賠償請求をすることができるのでしょうか。Q2のように加害者がわからない場合に問題となります。

不法行為による損害賠償請求権が消滅するまでの期間を消滅時効といいますが、民法724条は、①主観的起算点からの短期(被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき)、または、②客観的起算点からの長期(不法行為の時から20年を経過したとき)と規定しています。

①の3年の消滅時効の根拠として、立法者は、長い時間が経つと立証が難しくなるため、早期に決着させることが必要であると考えたようです。「損害を知った時」とは、損害の発生を現実に認識したときと、「加害者を知った時」とは、一般に具体的な住所氏名までわからなくとも、その気になって調べればわかるという程度に特定できればよいと考えられています。

②の「不法行為の時」は、損害がすぐに現れず、後からわかるという場合(例えば重度の後遺障害)に問題となります。判例では、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部または一部が発生した時が起算点となると解されています。

(3)改正民法における損害賠償請求権の消滅時効

不法行為による損害賠償請求権が消滅するまでの期間について、改正民法は、①主観的起算点からの短期(被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき)、または、②客観的起算点からの長期(不法行為の時から20年を経過したとき)と規定します。この点は改正前後で変更はありません。

さらに、改正民法は、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効について規定を新設しており、①を「5年間」(民法724条の2)と、(b)を「20年間」(民法167条)にそれぞれ延ばしました。生命・身体の侵害という重要な法益侵害については、被害者の救済を図る必要があるため、このような規律が設けられたのです。

このようにQ2の解答は、改正前民法では、①損害および加害者を知った時から3年間、また②事故(不法行為)の時から20年を経過したときでしたが、改正民法によれば①は5年間、②は20年になります。したがって、友人はこの間に損害賠償請求権を行使する必要があります。

(4)債務不履行と不法行為の両方が問題となる場合

生命・身体の侵害については、債務不履行の場合と不法行為の場合の両方が問題となります。例えば、医療過誤による損害賠償請求権や、労働契約における安全配慮義務違反による損害賠償請求権です。

安全配慮義務とは、労働者が勤務中に事故等に遭わないように、使用者側が、労働者の安全に配慮すべき義務であり、その違反は不法行為責任も債務不履行責任も問われることになります。判例によれば、雇用契約において、使用者は、労働者が使用者の指示の下に労務を提供する過程等において、労働者の生命・身体等を危険から保護するように配慮すべき義務を負っているとされています。

いずれの損害賠償請求権も、同じ時効期間に統一されることになりますので、表でまとめておきます(図表1)。改正民法により、「債務不履行に基づく損害賠償請求権」と「不法行為に基づく損害賠償請求権」とで下線部分が統一されることがわかります。

(図表1)生命・身体の侵害の場合

債務不履行に基づく
損害賠償請求権
一般債権・不法行為の場合 生命・身体の侵害の場合
一般債権(民法166条)
主観的起算点 5年
客観的起算点 10年
主観的起算点 5年
客観的起算点 20年(民法167条)
不法行為に基づく
損害賠償請求権
一般不法行為(民法724条)
主観的起算点 3年
客観的起算点 20年
主観的起算点 5年(民法724条の2)
客観的起算点 20年

4.経過規定

改正民法の規定はいつ適用されるのでしょうか。消滅時効期間については、施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間についてはなお従前の例による(附則10条4項)とする規定が置かれ、また不法行為についても経過規定が設けられています(附則35条)。このように消滅事項原因が発生した時期についても留意する必要があります。

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  • 著者プロフィール

大久保拓也

日本大学法学部教授、ミロク情報サービス客員研究員

日本大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。ミロク情報サービス客員研究員として商法・会社法・民法等の研究報告を行う。令和元年改正会社法の審議において、参議院法務委員会で参考人として意見を述べた。日本空法学会理事、日本登記法学会監事も務める。
著書に『法務と税務のプロのための改正相続法徹底ガイド〔令和元年施行対応版〕』(共著・ぎょうせい)、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(共著・ぎょうせい)等多数。

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