このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、対応ブラウザでご覧下さい。

会社が作成する議事録への押印の要否

著者:しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士  曽根 圭竹

会社が作成する議事録への押印の要否

2020年9月に発足した菅内閣は、行政改革の一環として、行政手続における各種書類への押印廃止や書面・対面主義の見直しに向けて動いており、実際に一部の営業許可申請においては、申請書への押印を不要としており、脱ハンコ化は着々と進んでいます。

しかし、会社法上作成が求められる議事録の中には、条文において署名または記名押印が求められているものもあり、議事録の要件の一つになる場合がありますし、さらに最近は電子署名も普及しつつあることから、議事録の作成には注意を要します。

そこで本稿では、会社法上作成が求められる議事録について、それぞれ押印および押印に代わる措置についてどのような規定が存在するか、改めて整理したいと思います。


1.会社法上作成が求められる議事録

株式会社には、株主総会のほかに各会社が選択する機関設計に応じて、会社法が定める会議体(取締役会など)を設置する必要があります。非上場企業においても設置している会社が多い取締役会や上場企業であれば設置することが自然と求められる監査役会または監査等委員会ほかに、三委員会(指名委員会・報酬委員会・監査委員会)が会社法上の会議体に該当することになります。

これらの会議体では、それぞれ議事録の作成・備置が義務付けられていますが、その理由としては、①会議体の運営の適切性の確保のためであり、また②証拠機能、③利害関係者に対する情報提供機能として有用であるという理由があげられています[1]

(1)株主総会議事録

株主総会は、株主を構成員とする株式会社の最高意思決定機関であり、いずれの株式会社においても存在する機関です。そして、株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければなりません(会318条1項)。株主総会議事録は、書面または電磁的記録をもって作成することが求められ(会規72条2項)、それに記載すべき内容は法定されています(詳しくは会規72条3項参照)が、会社法や会社法施行規則等に、株主総会議事録への署名または記名押印を必要とする規定は存在しませんので、株主総会議事録については、議長、議事録作成取締役や出席取締役による署名または記名押印がなくても、会社法上問題になることはありません。

しかし、商業登記手続においては、一定の決議に出席した取締役や議長に対し、実印の押印が必要とされている場合もある(商登規61条6項1号)ことや、株主総会議事録の真正性を担保するという面から少なくとも議事録作成取締役による押印が行われている例が多いと指摘されています[2]。さらに、定款で、株主総会議事録への押印すべき者として議事録作成者を指定する事例や議事録作成者および出席取締役に押印を求めている事例が多いことから、実務においては、株主総会議事録にも何かしらの押印がされることが一般的です。

(2)取締役会議事録

取締役会は、会社の業務執行に関する意思決定を行うほか、代表取締役や業務執行取締役が行う職務執行を監督することが主な役割となる取締役を構成員とする会議体です(会362条2項)。取締役会についても株主総会と同様に、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければなりません。そして、作成した議事録には、出席した取締役および監査役は、署名または記名押印をしなければなりません(会369条3項)。ただし、押印する印鑑については種類の指定があるわけではありませんので、三文判等の認印で押印がされたとしても会社法上問題にはなりません。

これに対し、商業登記手続においては、取締役会決議によって代表取締役を選定した場合の取締役会議事録については、変更前の代表取締役が登記所に提出している印鑑を当該議事録等に押印する場合を除き、出席取締役および監査役の実印による押印を求めています(商登規61条6項3号)。しかし、実務においては、出席取締役および監査役から実印の押印を求めることは事務手続上煩雑になることから、それを避けるために、代表取締役を選定した議事録には可能な限り代表取締役が登記所に提出している印鑑を押印し、他の出席取締役および監査役については認印による押印とすることが多くなっています。なお、代表取締役が急逝したような場合には、変更前の代表取締役が登記所に提出している印鑑を押印することはできませんので、新たに代表取締役を選定した取締役会議事録への出席取締役および監査役の押印については、実印の押印が必要になります。

(3)監査役会議事録

監査役会は、常勤監査役の選定および解職のほか、監査の方針や監査役の職務の執行に関する事項を決定し、監査報告を作成することが主な役割となる監査役を構成員とする会議体です(会390条2項)。監査役会についても株主総会や取締役会と同様に、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければなりません。また、作成した議事録には、出席した監査役は、署名または記名押印をする必要はあります(会393条2項)が、押印する印鑑については種類の指定があるわけではありませんので、三文判等の認印で押印がされたとしても、取締役会と同様、会社法上問題にはなりません。なお、商業登記手続においても、監査役会議事録への押印について、印鑑の種類を指定する規定は存在していません。この点は、取締役会議事録への押印と異なる点です。

(4)監査等委員会議事録および各委員会議事録

監査等委員会設置会社における監査等委員会議事録や指名委員会等設置会社における三委員会(指名委員会・報酬委員会・監査委員会)の議事録についても、監査役会議事録と同様に法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければなりません。また、作成した議事録に対し、出席した各委員は、署名または記名押印をする必要はあります(会399条の10第3項、会412条3項)が、押印する印鑑については種類の指定があるわけではありませんので、三文判等の認印で押印がされたとしても、監査役会と同様に、会社法上問題にはなりません。

2.署名または記名押印の電子化

IT環境が整備され、議事録自体をプリントアウトして、紙媒体として保存するのではなく、電磁的記録のまま各議事録を保存することも多くなっていると思われますが、電磁的方法で議事録を保存する際には法務省令で定めた署名または記名押印に代わる措置をとる必要があります(会369条4項、399条の10第4項、412条4項等)。「署名または記名押印に代わる措置」の具体的なものとしては「電子署名」がその措置に該当し、電子署名とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の(1)および(2)のいずれにも該当するものをいいます(会施規225条)。

  • (1)当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
  • (2)当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

しかし、電子署名自体を目で確認することはできませんので、電子署名を行うソフトウェアには、電子署名が本物であるか否かを確認する必要があります。そして、電子署名法では電子署名が本人のものかどうかを証明する業務を「認証業務」として定めており、電子署名のうち、本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務を特定認証業務と定義しています(電子署名2条3項)。ただし、特定認証業務を行おうとする者は、主務大臣の認定を受けることができる(電子署名4条1項)としており、「義務」ではなく「許可」にしていることから、特定認証業者の中でも認定を受けていない業者も存在することになります。この点につき、商業登記手続においては、法務大臣の認定を受けている事業者の電子証明書でなければ、登記手続における議事録への電子署名とは認められないため、電子認証事業者を選択する際には、法務省のホームページ[3]を確認の上で選択することが必須となります。

3.まとめ

未だに猛威を振るう新型コロナウイルスによって、我々の社会生活は一変しました。また、新型コロナウイルスの影響の以前にも、生産性の向上や競争力強化のためにDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることが推奨されるなど、刻々と時代は変化しています。企業経営者にとっては、押印一つにしても最新の情報に留意しながら、日々の実務をこなしていく必要があることに注意を要します。

脚注

1.桃尾・松尾・難波法律事務所編『会社法の議事録作成実務―株主総会・取締役会・監査役会・各委員会』1頁(商事法務、2016年)

2.江頭憲治郎=中村直人編『論点体系会社法<第2版>2』(第一法規、2021年)707頁〔角田大憲〕

3.法務省「商業・法人登記のオンライン申請について

この記事に関連する最新記事

おすすめ書式テンプレート

書式テンプレートをもっと見る

著者プロフィール

author_item{name}

曽根 圭竹

しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士

一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻修士課程修了。
不動産に関する法務を中心に業務を展開しながらも、自身の研究テーマであるスタートアップ企業の法務支援や医療機関の法務支援も行うマルチプレイヤー。
著書に、『医院開業から法人化,経営・継承まで弁護士,税理士,司法書士,行政書士,社労士が答えました!(共著)』『実務が変わる!令和 改正会社法のまるごと解説(共著)』がある。

この著者の他の記事(全て見る

bizoceanジャーナルトップページ