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[株主総会] 第1回:ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

中小企業におけるバーチャル株主総会の開催 ~ニューノーマル時代における株主総会とは?~

著者: 日本大学商学部准教授、弁護士  金澤 大祐

[株主総会] 第1回:ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

はじめに

株主が株主総会の会場に来場せず、インターネット等を利用してバーチャル参加又は出席する、いわゆるバーチャル株主総会を開催することができれば、完全に又は一定程度、いわゆる三密を避けることが可能となり、終息の気配をみせない新型コロナウイルス感染症への対処をしつつ、株主総会を開催することが可能となります。

バーチャル株主総会については、経済産業省(2020年2月26日策定)「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」といいます)[1]によって大枠が示され、2020度には、上場会社において、バーチャル株主総会のうち、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会(以下「参加型総会」といいます)及びハイブリッド出席型バーチャル株主総会(以下「出席型総会」といいます)が開催され、そのノウハウ等について、経済産業省(2021年2月3日策定)「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(以下「実施事例集」といいます)[2] において公開されています。バーチャル株主総会については、どちらかといえば、新型コロナウイルス感染症との関係で、上場会社を中心に議論がなされている状況です。

もっとも、バーチャル株主総会は、新型コロナウイルス感染症対策として有効であるのみならず、遠方株主の株主総会への参加・出席の機会を拡大するという意義もあり、上場会社のみならず、中小企業においても株主総会による意思決定の際の有用な手段となりえます。

そこで、本稿では、中小企業におけるバーチャル株主総会の開催につき、参加型総会及び出席型総会に限定して、実施ガイド及び実施事例集を紹介した上で検討していきます。

なお、2021年2月5日には、物理的会場を定めないバーチャルオンリー型株主総会の実現のための特別措置を定める「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が閣議決定され、国会に提出されていますが、同法律案は上場会社のみを対象としていることから、本稿の検討の対象外といたします。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

(1)定義

「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」(以下「参加型総会」といいます)とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催されるリアル総会の開催に加え、リアル総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいいます(実施ガイド2頁)。

(2)意義

参加型総会の意義としては、遠方株主の株主総会参加・傍聴機会の拡大、株主総会の透明性の向上、情報開示の充実等が指摘されています(実施ガイド7頁)。

(3)2020年度の実施状況

2020年度においては、株主限定で参加型総会を開催した上場会社が54社、一般公開で参加型総会を開催した上場会社が59社でした[3]

(4)リアル総会との違い

参加型総会とリアル総会との違いは、参加型総会は、株主総会の会場にいなくても、参加できること、総会中の質問権、動議権及び議決権の行使が不可能なことです。

(5)基本的な考え方

参加型総会においてバーチャル参加する株主は、法的には「出席」するわけではないことになります(実施ガイド6頁)。

(6)配信方法

バーチャル株主総会の配信方法については、物理的に株主総会の開催場所に臨席した者以外の者に当該株主総会の状況を伝えるために用いられるもので、電話や、e-mail・チャット・動画配信等のIT等を活用した情報伝達手段とされています(実施ガイド2頁)。

そのため、動画配信システムに限らず、電話会議やインターネットを通じた音声のみの配信も可能となっています(実施事例集9頁)。

(7)参加方法

株主のバーチャル参加の方法としては、①動画配信を行うwebサイト等にアクセスするためのID、PWを招集通知等と同時に通知する方法、②既存の株主専用サイト等を活用する方法等があります。

いずれの方法を用いる場合でも、招集通知の中に記載したり、招集通知に同封したりして、株主に対して事前に通知する必要があります(実施ガイド9頁)。

また、通信の安定性等を確保するためにも、バーチャル参加を希望する株主に対し、事前登録を求めることも考えられます(実施事例集12頁)。

(8)議決権行使

参加型総会において、インターネット等の手段を用いて参加する株主は当日の決議に参加できず、議決権を行使する株主は、書面や電磁的方法による事前の議決権行使、代理人による議決権行使が必要であり、その旨が事前に招集通知等で株主に周知されることになります(実施ガイド9頁)。

もっとも、インターネット等の手段を用いて審議を傍聴した株主が傍聴後に議決権を行使することを可能とすることもできます(実施ガイド9頁注6)。

(9)コメント等の受付と対応

インターネット等の手段を用いて参加する株主には、会社法上、株主総会において株主に認められている質問権や動議権は認められていません(実施ガイド9頁)。

もっとも、インターネット等の手段による参加株主からコメント等を受付け、回答することは株主とのコミュニケーション向上に資することになります。受け付けたコメント等については、①リアル総会の開催中に紹介・回答、②株主総会終了後に紹介・回答、③後日HPで紹介・回答、④事前にコメント等を受付け、当日の会議における取締役等からの説明の中で、回答する方法等によって対処することになります(実施ガイド10頁)。

(10)肖像権等への配慮

株主総会の審議等の状況が外部に向けて配信する場合、映像等で配信される株主の肖像権等に関して留意する必要があります。

肖像権等への配慮としては、①撮影・録音・転載等を禁止することや、②配信により株主の氏名が公開される場合には事前に通知をする等の対応をとることが考えられます(実施事例集14頁)。

(11)対応等の難易

参加型総会は、株主総会のライブ配信やコメントの受付け等が必要となり、その準備は必要となります。

もっとも、バーチャル参加する株主は、株主総会に「出席」するわけではなく、傍聴するのみであり、当日の株主総会で質問権、動議権及び議決権を行使できません。

また、参加型総会において参加する株主は、法的には「出席」するものではないため、通信途絶等の不具合が生じたとしても、株主総会決議が取り消されることはありません。
そのため、参加型総会の対応は比較的容易といえます[4]

以上

脚注

1.「経済産業省ウェブサイト」(最終閲覧2021年5月7日)。

2.「経済産業省ウェブサイト」(最終閲覧2021年5月7日)。

3.尾崎安央=三菱UFJ信託銀行法人コンサルティング部編『バーチャル株主総会の実施事例』(商事法務、2021年)14頁

4.澤口実=近澤諒編著『バーチャル株主総会の実務〔第2版〕』(商事法務、2021年)47頁

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著者プロフィール

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金澤 大祐

日本大学商学部准教授、弁護士

日本大学大学院法務研究科修了。商法・会社法を中心に研究を行い、実務については、民事事件を中心に幅広く取り扱う。
著書に、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(ぎょうせい、2020年)〔分担執筆執筆〕、「原発損害賠償請求訴訟における中間指針の役割と課題」商学集志89巻3号(2019年)35頁、『資金決済法の理論と実務』(勁草書房、2019年)〔分担執筆〕等多数

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