[契約書の書き方]
第7回:秘密保持契約書②

2021/03/23

著者:弁護士 林 康弘
企業法務
秘密保持契約書の書き方

今回は、秘密保持契約第1条で規定した秘密情報に関し、受領当事者が負う具体的な義務に関する規定等について、解説します。

秘密保持契約書(ひな型)

秘密保持契約書(ひな型)

秘密保持義務

第2条(秘密保持)

受領当事者は、秘密情報を厳重に管理し、保持する義務を負い、開示当事者の事前の書面による承諾なしに第三者に対し開示又は漏えいしてはならない。

本条は、秘密保持契約において最も重要な秘密保持義務の規定です。
本契約では、不正競争防止法により保護される「営業秘密」(同法2条6項)よりも広い範囲で秘密情報を保護することを念頭に置いていますが(第1条参照)、必ずしも「営業秘密」には該当しない秘密情報についても、それが記載された文書や電子記録媒体に「マル秘㊙」表示をするなど、一見して秘密情報であることが認識できるような措置を講じておくべきです。

また、受領当事者が秘密情報を第三者に開示する必要が生じた場合、事前に開示当事者の書面による承諾が必要であるという原則を規定しておくのが一般的です。これに対し、例外として、第三者に開示し得る場合とその規律について定めるのが次の第3条です。

役員・専門家等に対する開示、法令等に基づく開示

第3条(開示についての例外)

  • 受領当事者は、本目的のために必要な範囲で、受領当事者の役員及び従業員に対し、秘密情報を開示することができる。この場合、受領当事者は、当該役員及び従業員に対し、本契約における秘密保持義務と同等の義務を負わせるものとし、かつ、当該役員及び従業員がその義務に違反したときは、受領当事者が開示当事者に対し直接責任を負うものとする。
  • 受領当事者は、本目的のために必要な範囲で、受領当事者が依頼する弁護士、公認会計士、税理士その他の法令上の守秘義務を負う者に対し、秘密情報を開示することができる。
  • 受領当事者は、法令又は裁判所、監督官庁その他の公的機関の裁判、命令等に基づき秘密情報の開示を要求されたときは、必要な範囲で秘密情報を開示することができる。この場合、受領当事者は、開示当事者に対し、事前に通知することとし、やむを得ない事由があるときに限り、事後の速やかな通知をもって足りることとする。

本条は、第2条に規定した秘密保持義務の例外を定めるものです。

第1項は、受領当事者の役員や従業員という、企業内部における開示の例外です。本契約の目的(××という特定の製品に関する共同研究)を達成するためには、その業務に携わる企業内の役員や従業員が、開示当事者から開示された秘密情報に接することは必須といえます。したがって、これらの役員や従業員にも、契約主体である当該企業(受領当事者)そのものが負う秘密保持義務と同等の秘密保持義務を負わせることが必要となるとともに、これらの役員や従業員が義務違反をした場合には受領当事者が開示当事者に責任を負うという規律を定めておくことも必要となります。

また、本規定例では言及していませんが、受領当事者の親会社・子会社その他グループ企業等に対して秘密情報を開示する必要が予想される場合には、開示が許容されるグループ企業等の範囲を明確に規定しておくことも必要となります。

第2項は、弁護士,公認会計士,税理士等の有資格者に対し秘密情報を開示する場合の例外を定めるものです。

弁護士の秘密保持義務

弁護士は、弁護士法23条及び弁護士職務基本規程23条により、職務を行う過程で知り得た依頼者等の秘密を保持する義務(守秘義務)を負っています。
そのため、弁護士が、依頼者との間で委任契約を締結する場合や企業の顧問契約を締結する場合において、契約書の中に秘密保持義務に関する規定を設けたり、別途秘密保持契約書を交わすということは、一般的には行いません。
ただし、特に法人からの依頼を受ける場合などは、企業内部の秘密情報の厳格な管理という観点から、委任契約書とは別に秘密保持契約書を作成し、弁護士の秘密保持義務を明確にすることを要求される場合もあります。

第3項は、法令や監督官庁の命令等に基づき秘密情報を開示する場合の例外を定めるものです。この場合、受領当事者が当該法令や命令等によって課せられた開示義務に従わなければ、法令違反による罰則等の不利益を受ける可能性がありますので、その法令や命令等によって必要とされる範囲で開示できる旨を規定しています。

この開示に際し、受領当事者から開示当事者への通知(その時期として事前か事後か)又は開示当事者の同意を得ることまで必要かどうかが、本規定を設けるにあたっての検討課題となります。本規定例では、原則として事前の通知を要することとし、例外的に、やむを得ない事由がある場合には、事後の速やかな通知で足りることとしています。監督官庁の検査が入った場合などを想定しますと、開示当事者に事前に通知したり同意を得ることができない場合も十分想定されますので、上記のような規定としています。

目的外使用の禁止

第4条(目的外使用の禁止)

受領当事者は、開示当事者から開示された秘密情報を、本目的以外に使用してはならない。

本条は、秘密情報を本契約の目的(××という特定の製品に関する共同研究)以外で使用することを禁止する規定であり、これも秘密保持契約において極めて重要な規定です。もしこのような規定がなかったら、受領当事者が、第三者には開示することなく、秘密情報を上記目的以外で使用することができると解される余地があります。

複製

第5条(複製)

受領当事者は、秘密情報を複製する場合には、事前に開示当事者の書面による承諾を得なければならない。

本条は、秘密情報をコピーする必要が生じる場合に備え、その規律を定めるものです。本規定例では、コピーを作成したことが原因で、秘密情報が外部に漏えいしたり、秘密情報の管理が不徹底となることを避ける趣旨で、事前の書面による承諾を要件としています。
これとは異なり、本契約の目的に必要な範囲では複製することができる旨を規定することも考えられます。

返還・破棄

第6条(返還・破棄)

  • 受領当事者は、本契約が終了したとき、及び開示当事者から書面による請求があったときは、開示当事者に対し、秘密情報を速やかに返還し、又は破棄しなければならない。
  • 前項の場合、受領当事者は、開示当事者に対し、秘密情報の返還又は破棄の事実を証明する書面を提出しなければならない。

本条は、受領当事者から開示当事者への秘密情報の返還又は受領当事者による破棄について定めるものです。
本契約の目的が達成され又は達成されずに、契約が終了した場合には、その後に秘密情報が漏えいすることを防止するため、返還又は破棄することを定めるのが一般的です。また、契約期間中であっても、開示当事者が必要に応じて返還等を求めることができるようにしておくことが望ましいと思われます。

開示当事者への返還を求めるか、受領当事者において破棄することを求めるか、いずれを選択すべきかについては、受領当事者が容易に複製することが可能な資料・情報や電子メールのやり取り等は、返還が困難又は不可能ですので「破棄」することとなり、それ以外の返還し得るものは「返還」を基本とすべきと考えます。

第2項は、開示当事者が受領当事者に対し、秘密情報を返還又は破棄した事実を証明させることにより、確実に返還・破棄の義務を実行させるとともに、受領当事者がこの義務に違反した場合、次回解説する損害賠償義務を課すことができるようにするものです。

次回は、上記の損害賠償に関する規定、契約の存続期間等の規定について解説し、秘密保持契約の解説を締めくくる予定です。

(第7回・以上)

取引・契約関連書式

  • 著者プロフィール

林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京弁護士会民事訴訟問題等特別委員会副委員長。常葉大学法学部非常勤講師。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、中島弘雅・松嶋隆弘編著『金融・民事・家事のここが変わる!実務からみる改正民事執行法』(ぎょうせい、2020年、分担執筆)、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘編『会社法トラブル解決Q&A⁺e』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。

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