第15回
快適性を確保した「人」を意識した働く場

2020/05/20

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長 
月刊総務』編集長 豊田健一
働き方改革
健康維持と快適性を兼ね備えたオフィスを目指す

バイオフィリアで快適性を実現する

総務が行う働き方改革。「働く場」を生産性高いものにするとともに、いま必要とされているのが「働く場」の快適性である。人はそもそも生き物、快適な環境の方が心地良いし、快適な環境の方が生産性は高まる。

一方で、Well-Beingという考え方が広まっている。定義としては、「身体的、精神的、社会的に良好な状態」となる。社会的に良好というのは、人間関係が落ち着いている、社内コミュニケーションが活性化している状態のことだ。

このWell-Beingを維持促進するために、日本流の健康経営が進められている。それが、経済産業省が進めている「健康経営銘柄」や「ホワイト500」と言われるもの。健康診断をしっかりと受けさせて、そのデータに基づく個別の健康指導や、健康に関する福利厚生制度を備えた企業を評価する取り組みだ。

それらがソフト的な健康経営だとしたら、いま総務業界で取り組み始められているのが、オフィスによる健康経営の促進。バイオフィリアという言葉を聞いたことがあるだろうか。言葉は知らなくても、いまオフィスに観葉植物、グリーンがたくさん配置されているのを見かけることが多いと思う。

バイオフィリアは「自然への愛」と言われる考え方。そもそも人間の生息地は自然の中だった。私たち現生人類、ホモサピエンスが誕生したのが20万年前。人工の建造物に住み始めたのは、たかだか2万年前。18万年の間、人類は、岩陰、木陰、洞穴で暮らしていた。

つまり、人間はそもそも自然の中で暮らしてきたのだから、自然の中の方が生産性は高まると考えることがバイオフィリアの考え方だ。そこで観葉植物をたくさん設置しているのだ。さらに、自然の香り(アロマ)を噴霧したり、ハイレゾの自然音をオフィスの中に流したりするのだ。

実際、バイオフィリアオフィスに変えたところ生産性が高まった、というデータがアメリカで公表されている。自然で健康的なオフィスが仕事の能率を高めている事実があるのだ。これがハードとしての健康経営ということとなる。


働き方改革や健康経営。ともすると人事部主導で人事的な施策から入ることが多いもの。今回の働き方改革では、総労働時間の抑制から入っているので、それが自然の流れ。しかし一方で、人事制度は該当者でないと適用しないし、福利厚生的な制度は、制度そのものを知らないと活用することもない。

ところが、オフィスとなると別。そのオフィスで働いている人は、必ずそのオフィスを使う。つまり、オフィスには強制力があるのだ。オフィスを舞台装置と捉える人もいる。従業員はその舞台で演じる役者。舞台が変われば演じ方も変えざるを得ず、オフィスが変われば働き方も変わるのだ。

オフィスには大きな力があり、さらに、ホワイトカラーであれば平日の一日の大半をこのオフィスで過ごすことになる。そのため、そのオフィスが健康的でないと、そこで働く人の健康が保てないという考えのもと、新たな認証制度がアメリカで構築された。

それが、健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standard。WELL認証と言われる認証制度は、入居者の「健康」に焦点を当てた建築デザインの新たな評価基準。日本では一般社団法人グリーンビルディングジャパンが旗振り役となり進めている。

ただ、全世界では既に1,000件の認証取得がされているが、日本では正式認証はまだ1件、プレ認証を含めても10件ちょっと。認証は、プラチナ、ゴールド、シルバーとなり、ビルを建築するゼネコンだけでなく、テナントとして入居する企業も取得可能だ。

すでにバージョン2に更新されており、そのバージョン2では、①空気、②水、③食物、④光、⑤活動、⑥温熱快適性、⑦音、⑧材料、⑨こころ、⑩コミュニティの10カテゴリー、117のチェック項目があり、このチェック項目の数により、先のプラチナ、ゴールド、シルバーの認証が取得できる。

先に記した、健康経営銘柄が健康経営のソフト的な側面の認証だとしたら、このWELL認証は、ハード的な側面での認証となる。両方を取得でき、それをアピールできれば、新卒採用もさることながら、人手不足時代の大きな差別化要因となるだろう。

このように、総務であっても常に「人寄りの施策」を考える必要性が求められる時代となってきた。結局、組織は人の集合体であり、人への配慮がない企業には人材は集まってこない。人事は人、総務は物、という枠組みではなく、どちらも人を意識した施策を考えるべきなのだ。

そうなると、今後はもっと人事と総務双方が協力し合って、人を中心とした施策を一緒に考えることが求められるのではないだろうか。人事制度とオフィス施策がリンクしている、双方合わせて効果を発揮するような施策の立案が欲しいところだ。

そのためには、お互いが何を考え、何をしようとしているか、情報共有しながらそれぞれの強みを結び付けていくべきだ。人事部、総務部ではなく、人事総務部、あるいは、コーポレート部門という名称が多くなっているのは、その表れではないだろうか。

  • 著者プロフィール
豊田 健一

豊田健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 『月刊総務』編集長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、『月刊総務』の編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務

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