第13回
働き方改革とともにリスク想定の必要性

2020/05/12

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長 
月刊総務』編集長 豊田健一
働き方改革
働き方改革とリスク管理

テレワーク実施中、大震災が発生したら?

働き方改革が進展している。特にテレワークは、今回の新型コロナウィルス対応により、ある意味強制的に実施された。案外と問題なく仕事ができたというところもあれば、全社員が一度にテレワークを実施したために、社内サーバーの接続への容量が超えてしまい、仕事ができなくなってしまったケースもあると聞く。

または、各家庭のwi-fi環境がバラバラで、ウェブ会議が上手く進まないとか、そもそも家で仕事をする想定でないので、自宅に仕事をする環境が整っていない、あるいはオフィスのように長時間座っていられる椅子がなく腰痛に悩まされている等々、いろいろな課題があぶり出されている。これらは、ある意味、働き方改革を進めていくというポジティブな意味での課題かと思う。

一方で、ネガティブとは言わないが、働き方改革が進展する中でのリスク管理的な側面も見逃してはならない。今回の強制的テレワーク。多くの社員が、あるいは会社によっては全社員が在宅勤務という状況。想定したくはないが、この状態で大震災が発生したら、一体どうなるのか?

今までの防災対策は、オフィスで働いていることを前提に構築されているものが多いかと思う。オフィスでの防災備蓄品の準備、オフィスでの停電時の対応、オフィスに誰かいるという前提での対策本部。いまテレワークが進みつつある時代には、そもそもオフィスに人がいないのだ。

テレワークだろうが、就業時間中であることには違いはない。そのような状況では、会社として社員の安全を確保する責務は生じる。しかし、社員がみな自宅勤務、あるいはコワーキングスペース、サテライトオフィスで働いている状況で守り切れるのかどうか? どこで仕事をしているか分からない社員を、防災担当である総務担当者が守り切れるのか。その当事者である防災担当者も在宅勤務の可能性もあり、どのように動けば良いのか。

防災教育の継続の難しさ

安否確認はシステムの問題であり、稼働していれば対応はできる。災害対策本部も、自動的に組織化される仕組み(部長が動けなければ課長が、課長がだめであれば係長が動き始める)があれば、機能としては立ち上がる。ただ、そもそも震災から身を守るということについては、各自任せとなってしまう。会社として、オフィスを強固なものとしたところで効果はない。

つまりは、会社としてやるべきことは、各社員の防災意識の啓蒙とともに、各自が自らを守る、生き抜く力の醸成だ。これが防災教育の徹底になるのではないだろうか。大震災直後であればその意識も危機感もあり、その瞬間には防災意識は高まるだろう。

しかし、日本の国民性である熱しやすく冷めやすい意識では、防災意識を継続するのはかなり難しい。常に目の前に危機があるようであれば、防災意識は継続するが、何事もない事態が続くとどこ吹く風になりかねない。今回のコロナ騒動においても、政府の発言が少しでも緩むと、お花見に繰り出した。結果、オーバーシュートの可能性が高まり、緊急事態宣言が発令。このような意識を持つ社員に対して、防災教育をどのように進めていくのか。

健康経営を参考に

健康経営の進め方が一つのヒントになるのではないだろうか? 健康経営も、すぐには効果が出るものではなく、また健康な人に対して、健康を意識した活動をしてほしいと要請しても、なかなか動かない。継続性が課題になるのが、健康経営だ。

健康経営をうまく継続している企業では、まず経営トップが健康宣言をしているところが多い。総務部が独自にしているのではなく、経営者の意思として、会社として社員の健康が大事である、だから健康経営をしているのだ、という宣言をしているのだ。

そして、事務局が中心となり、社風に適した無理のない施策に取り組み、上手く進めている事例を社内に広報している。そして、その効果を社員に語らせ、身近な社員に事例として登場してもらうのだ。その取り組みを息長く続けていく。大きな花火で終わらせるのではなく、じわじわと当事者意識を醸成し、社員が自ら動き出す、自走させるようにしていくのだ。

防災教育に当てはめてみると、経営トップによる防災宣言で、社員の安全と安心を第一に考えると宣言し、無理なく自宅でできる防災施策や震災対策を、身近な社員を事例として広報していく。9月1日の防災の日には大きなキャンペーンはするものの、一年を通じて常に何らかの情報を発信し続ける。そのような取り組みで、自然に防災を常に意識する仕掛けをしていくのだ。

攻めと守りセットで考える

今回は、テレワーク時の防災について取り上げたが、大事なのは働き方改革という、ある意味、攻めの施策を実施しつつも、常にそれに伴うリスクを冷静に分析する姿勢だ。守りの姿勢を常に持ってもらいたい。

攻めと守り、働き方改革とそれに伴うリスク管理。常に両輪で考える意識がないと、足元をすくわれる事態が生じる可能性がある。このリスク分析を、現場の社員が行うことはまずないだろう。この役割は、リスク管理を行う総務部の重要な役割なのだ。

ポジティブな働き方改革を進めると同時に、常に守りの総務、リスク管理、リスク想定を心掛けてほしいものだ。

  • 著者プロフィール
豊田 健一

豊田健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 月刊総務』編集長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、『月刊総務』の編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務

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