第12回
人を中心に、幸福経営が経営の中心に

2020/05/12

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長 
月刊総務』編集長 豊田健一
働き方改革
幸福と感じる社員が増えると生産性が上昇

CHOの役職設置により社員の生産性を高める

「エンゲージメント」という言葉を昨年来たびたび目にするようになった。仕事にのめり込む、没頭する、そのような意味合いだ。自らの仕事に誇りを持ち、自発的に取り組む姿勢でもある。エンゲージメントが高まれば自発的に仕事をすることになるので、生産性が高まるのは必然である。

モチベーションが「心に火が着いた状態」であれば、エンゲージメントは「モチベーションの対象が定まった状態」と言えるかもしれない。もっと簡単に言えば、仕事が楽しくて仕方がない状態である。言い換えれば、幸せな状態でもあるのだ。

CHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)という言葉を聞いたことがあるだろう。社員の幸福度を高める責任者である。グーグル社から始まったと言われている。なぜ社員の幸福度を高めるのか、以下のようなデータがある。

幸福と感じている社員は、幸福と感じていない社員より、
生産性が31%高く
売上は37%高く 創造性は3倍高い
というのだ。

働き方改革で生産性の向上がテーマとなっているいま、幸福と感じている社員を増加させると、生産性がかなり上昇するのである。それに気付いた会社が、CHOを設置して社員の幸福感の醸成のためにいろいろと仕掛けをしているのだ。

幸福感を構成する四つの要素

ではこの幸福な状態をどのように実現していくのだろうか。以下、Ideal Leaders株式会社の丹羽さんに取材した際の内容を紹介しよう。

社員の幸福感には、以下の四つの構成要素がある。
Purpose:存在意義
Authenticity:自分らしさ
Relationship:関係性
Wellness:心身の健康

まずは、Purpose、存在意義。会社の存在意義と社員個人の存在意義の一致する部分が大きいほど幸福であるということ。このPurposeは、なぜその会社は世の中に存在しているのか、何のために存在しているのかということであり、経営理念やビジョンとは少し違う。例えば、ソニーでは下記をPurposeとして掲げている。

クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。この会社のPurposeと個人のPurposeが一致すると幸福感は高まる。ただ、個人の存在意義と問われても重たすぎるので、どんな時ワクワクするか、どんな仕事をしている時楽しいか、それとの一致点の有無となるかと思う。

続いて、自分らしさ。これは自分の得意分野で裁量権を発揮して仕事ができる状態のことだ。自分の強みを発揮でき、自由に意思決定できる。まさに、エンゲージメントが高まるような仕事の仕方ができると幸福感が高まるのだ。

仕事は組織でするもの。組織構成員との関係性が良好でないと、楽しいはずがない。良好な関係性は幸福感には欠かせない。この関係性は二つの要素がある。まずは相互理解。お互いのバックグラウンドまで理解できると、「だから、このような発言になるのね」と、普通なら反感を買うような発言も理解できるという。自らの生い立ちから、いまに至る経験を共有する場(自分語り)があると、その境地まで到達できる。

グーグルの「プロジェクト・アリストテレス」。成果を上げたチームを研究した結果出た答えは、「心理的安全性」。何を言っても馬鹿にされない、そんなチームの雰囲気のことだが、相互理解もそれに近いものがある。お互いがお互いのことを理解し合っているから、まずは受け入れられるのだ。

そしてもう一つ、ポジティブ・フィードバック。アドバイスするにしても、強い調子でするのではなく、褒めて、褒めて、注意して、褒める。そんな3対1の割合が良いのだそうだ。この二つの構成要素が関係性である。

そして、最後はやはり健康である。健康でなければ積極的になれないし、仕事も上手くいかない。全てのベースは心身ともに健康な状態と言われている。

総務も人事も全てのスタッフの仕事は、この幸福感の醸成を目的に、逆算しながら施策を考えていくことが重要となるのではないだろうか。単に物理的な観点からのレイアウト変更ではなく、他がやっているから同様の制度を導入するのでもなく、最新技術だから社内で利用できるようにするのでもない。社員が幸福に働ける環境とはどんなものか、そのために必要なものを割り出し、それに合致するものを選択していく。

あくまでも、社員という人にフォーカスしていく。そうすると必要になるのが、人間の理解とともに、社員の理解である。どのような種類の人がいるのか、その人たちの考え方に影響を与える社風の理解も必要かもしれない。そのためには、常に現場に出向き、コミュニケーションをしながら把握していく。「ぶらぶら総務」という言葉があったが、まさにそのような取り組みが大事となるのだ。

ITが導入され始めた頃は技術ありきで、それを使う人のことは考えず、人が技術に追い付き、人が技術に合わせていった感があった。その技術が進化し、AI(人工知能)が登場しているいまは、逆に人らしい仕事とは何なのか、という議論になっている。

新たな取り組みは人の着想から始まり、イノベーションが求められる時代。人を中心に、人のために考える。この姿勢が、特にスタッフには重要となっているのだ。

  • 著者プロフィール
豊田 健一

豊田健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 『月刊総務』編集長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、『月刊総務』の編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務

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