第3回
働き方改革のキーワード、多様性、理念経営、主体性

2020/04/01

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長 
月刊総務』編集長 豊田健一
働き方改革
働き方を自ら考え、選択する社会人

働き方の多様性

働き方改革の最大の要因、労働人口不足。少なくなっていく労働人口の中で、いかに採用していくか、採用した大切な従業員にいかに定着してもらうか、そして、いかに活躍してもらうか。そのための働き方改革でもある。この採用、定着、活躍というフェーズにおいて、スタッフ部門としてやるべきことを考えてみたい。

まずは採用。A&Rという言葉がある。アトラクション(Attraction)とリテンション(Retention)を意味し、「いかにして、優秀な人材を採用(Attraction:引き付け)し、定着(Retention:引き留め)させるか」という人材マネジメントの基本戦略のことである。

働き方改革の文脈でのアトラクションは、働きやすさである。どのような状況、環境のもとであっても働き続けられる環境整備である。テレワークであったり、時短勤務や限定正社員制度、スーパーフレックスや時間単位で取得できる有給休暇等々、多くの働きやすい施策が構築されているのは、この働きやすい環境整備のためである。

ここで出てくるキーワードは、働き方の多様性である。働き方改革の先進企業、サイボウズ株式会社は、「100人いれば100通りの働き方があっていい」と言っている。つまり、働き方改革において企業の姿勢は、最大限の働き方の選択肢を提供することになる。

そして、これを対外的に広報し、企業の魅力を高め、Attraction(引き付け)て採用に結び付けるのだ。働き方の多様性は、当然ながら既存社員の定着にも寄与する。一人当たりの採用コストは、欲しい人材の月額給与の二倍はかかると言われている。このコストを減らすことは大きな経営貢献ともなる。

理念経営の必要性

一方で、働き方の多様性がどの企業でも進んでいくと、多くの企業の働き方が似ていく傾向にある。また、働く場、オフィスの作りも多くの企業で似たような雰囲気になりつつある。アメリカ西海岸風の格好いいオフィスが増加傾向である。さらに、副業を解禁する企業も増えている。

どこも似たような制度、環境のもとで働け、さらに副業もできるとなると、出てくる課題は「そもそもなぜこの会社で働くのか」という疑問である。逆に言えば、個々の企業の「らしさ」がなければ従業員を定着させることが難しくなっていく時代なのだ。就社よりジョブ型採用、本来の就「職」という時代になりつつある中で、どのように従業員を引き付け続けられるかが重要な課題となりつつある。

つまり、働き方の多様性が拡充されればされるほど、企業らしさが重要となってくる。企業らしさの根源は経営理念であり、ビジョンやミッションである。まさに理念経営が必要とされるのだ。スタッフ部門においては、誰よりも企業らしさを理解し、働く場においてその企業らしさを組み込んでいくことが大きな役割となる。

一回目のコラムで記したように、まさに経営目線での改革という意味はここにもあるのだ。他社が行っているから同様の施策を導入するのではなく、たとえ同様の施策を導入するのであっても、その中に自社らしさを、経営理念に結び付くものを組み込んでいく。その結果、全ての施策が何らかの形で経営理念を意識する契機となる。そのような制度設計、職場の環境整備が必要なのだ。

働き方を主体的に選択する

働き方の多様性を拡充する上で併せて必要となるのが、従業員側の主体性、自律性である。企業側が働き方の最大限の選択肢を提供したとしても、その働き方を従業員自らが選択してくれなければ、いくら多様な選択肢を提供したところで意味がない。働き方の多様性と、この従業員の主体性は表裏一体、車の両輪のごとく一対のものでなければならない。

主体性、自律性を育むために企業は何をしているのだろうか。取材を通じた傾向として見られるのは、人生について考える時間を設けていることである。一年後、三年後、五年後、あなたはどのような人生を歩んでいたいか。そのようなことを考えさせ、作文を課している企業もある。

自らの人生については自ら考えなければならず、まさかマネージャーからの指示を得ようとは思わないだろう。自分の人生は自らが考えていくものである、そのようなマインドセットを行うのである。その歩みたい人生を実現するために、どのような働き方を選択したら良いのかを考えていく。これを継続していくことで、自らの働き方を自ら考え、選択するという主体性、自律性を育んでいくのだ。

そして、主体的、自律的に働いていければ、やらされ仕事ではない、主体性を持った、あるいは当事者意識を持った仕事をすることで、結果的に活躍できる人材、自社に貢献する人材へと進化していくのではないだろうか。

以上のように、人手不足という変化への対応のための働き方改革は、働き方の多様性、最大限の選択肢の提供をしつつ、一方で理念経営の推進と従業員の主体性の涵養をセットで行うことが大事なのである。それが人材の採用、定着、活躍に繋がってくるのだ。

働き方改革・労務関連書式

  • 著者プロフィール
豊田 健一

豊田健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 『月刊総務』編集長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、『月刊総務』の編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務

この著者の関連記事(全て見る)