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第4回 相続手続の委任状で注意すべきこと

著者:東銀座綜合法律事務所 経営者弁護士  野村 雅弘


相続手続の委任状???

最近に限った話ではありませんが、相続時に、兄弟姉妹、場合によっては親に対して内容も確かめもせずに委任状を交付したり、白紙委任状を渡したりしてしまう場合があります。
相手が親族という安心感から、何でも応じてしまうことが多いようですが、そもそもこれがトラブルのもとです。

たしかに、相続手続のためにはお亡くなりになった方の戸籍(生まれてから亡くなるまで全て)を追いかけて取得する必要がありますし、銀行等の金融機関との手続や不動産の手続など、様々な手続があることはいうまでもありません。

しかしながら、よく考えてみる必要があります。

戸籍の取得は、相続人であれば誰でも取得できますので、委任する相手も相続人であれば、そもそも戸籍取得用に委任状など不要です。その相手が、相続人として、自分で取得すればすむ話です。

また、銀行に対して、残高証明書の発行を依頼したり、それを受領したりすることも、相続人であれば誰でもできることですので、委任する必要などありません。

そして、遺産分割協議が終わっていないにも拘わらず、不動産の名義を変更したり、預金を解約したりする必要もありませんし、そもそも手続には遺産分割協議書が必要です。

さらにいえば、遺産分割終了後に、相続人の代表者が銀行等の金融機関で手続をする場合にも、大手の金融機関では、委任状ではなく、相続人代表者が手続をする指定の書面が用意されていますので、委任状など不要です。

つまり、実際には遺産分割が未了の場合に、委任状を使って相続に関して手続をする必要などほとんどないのです。
ですから、まずは、委任状を使って、何をするのかを確認するという、当たり前のことを確認する必要があります。

白紙委任状の恐怖

参考書式は、委任事項欄が空欄です。
このような委任状に、委任者として署名捺印してしまえば、後から白紙で委任したもので、委任事項は無効だと考えても、それを全て立証できなければ裁判では負けてしまうでしょうし、取引の相手には何も言えないことも多いです。
つまり、相手が親族であっても、委任事項欄を白紙のまま委任状を交付してはいけないのです。
それこそ相続の場合には、親族間で相続財産を分け合うのですから、親族がライバルとなりえる手続です。
1円でも多く、自分が取りたいという欲はこういった時に表面化し、その欲は親族関係だからといって押さえられるものではありません。むしろ、親族関係がある場合の方が、甘えや許されるだろうなどと考える人が多いため、より危ないとさえいえるのです。
実際に、一部白紙あるいは全部白紙の委任状を交付して、痛い目に遭った人は、私が扱った事件だけでも相当数います。

金融機関宛ての委任状と思っていたのに・・・

「金融機関宛ての委任状と言われて、内容も読んだけど、好き勝手やられてしまった・・・。」
などというご相談も実はあります。

例えば、参考書式の委任事項欄に下記の文章が記載されていたとします。
~~~~~~~~

下記の被相続人の○○銀行に預託している一切の預貯金等に関する、口座凍結手続き、残高証明書の請求・受領、名義変更、払戻し、解約及び当該預貯金等の元利金等の受領、○○銀行に提出する遺産分割に必要な書類の作成・提出・受領など、以上遺産分割に必要な一切の権限及び行為。
~~~~~~~~~

確かに、この委任状は、相続時に〇〇銀行に対する手続にも使える委任状ですから、金融機関宛ての委任状であることは間違いありません。
とはいえ、「名義変更」「払戻」「解約」「元利金の受領」までさせるのであれば、きちんとどのような分け方をするのかを先に確定しておくべきです。つまり、遺産分割協議書の作成前に、このような委任状を渡してしまえば、この預金口座のお金を、代理人が持っていくことは防げません。
また、「遺産分割に必要な書類の作成」「遺産分割に必要な一切の権限及び行為」という部分は極めて危険です。
というのも、この委任事項欄からすれば、これを受け取った代理人(受任者)は、遺産分割協議書の作成を自分の好き勝手にできるのですから、全ての相続財産の受取人を自分とする遺産分割協議書の作成すら許されることになるからです。
委任者が、全ての相続財産は、母親の好きなようにすれば良いと思って、このような委任状を母親に交付するのであれば別ですが、そうでもない限り、このような委任状を交付することはあってはなりません。
金融機関宛ての委任状と言われても、きちんと手続の内容まで確認して、それ以上の行為ができないように縛られているのかを考える必要があります。

書式はあくまでも参考例!!

これまでの連載で、いくつかの書式を紹介してきましたが、これらの書式は参考例に過ぎません。
つまり、その場面次第では、その委任状が相応しいとは限りません。
インターネット上の書式については、誰が作成したのか、どういう場面で使われるのかも不明なものも多く、特にその配慮が欠かせません。

一般に、相続手続のように多額の金が動いたり、高価な財産が扱われたりするような場合に、何らかの書面(委任状を含む)を交付する機会があれば、インターネット上の書式だけに頼らずに、弁護士等の専門家に、争いがなくても念のために相談すべきです。
多くの専門家は、相談料であれば30分5000円~1万5000円程度で済みますので、節約をしすぎて、後で後悔する等ということのないようにしたいものです。
私の所に相談に来る方のほとんどは、「もう少し早く相談していれば、こんなことにはなっていなかったのに」という方ばかりです。
特に相続は、多くの感情、欲、利害がぶつかる局面です。
そのような局面であることだけは自覚して、行動すべきです。

今回のポイント

ポイント(1)

相続手続で委任状が不可欠なのは限られた場面だけ。

ポイント(2)

相手が親族であっても白紙委任状は避ける。

ポイント(3)

相手が親族であっても白紙委任状は避ける。

ポイント(4)

その場面に相応しい委任状を使う。

ポイント(5)

迷ったら専門家に相談する。

以上4回にわたって連載をして参りましたが、委任状については難しい知識が必要というよりは、用心深さと、便利さのバランスということを理解していただき、それぞれの場面に応じて、委任事項を調整していくなり、書式を使い分けると言うことがわかっていただければ、今回の連載の意味はあったと思います。

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著者プロフィール

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野村 雅弘

東銀座綜合法律事務所 経営者弁護士

早稲田大学、慶應義塾大学大学院法務研究科卒業後、司法試験合格。司法修習を経て、2009年1月から東銀座綜合法律事務所に入所。現在、同所経営者弁護士。主に中小企業法務、民事事件、家事事件等を取り扱う。

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