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「在籍型出向」により労働者の雇用維持に取り組む事業主または、人材を活用したい事業主に支給される助成金「産業雇用安定助成金」

著者:本山社会保険労務士事務所 所長  本山 恭子

「在籍型出向」により労働者の雇用維持に取り組む事業主または、人材を活用したい事業主に支給される助成金「産業雇用安定助成金」

新型コロナウイルス感染症の影響により、これまでの事業活動の縮小を余儀なくされている事業がいくつもあります。そのような事業活動を抱える事業主は、昨年来拡充されている雇用調整助成金等の活用によって、雇用の維持に尽力されていると思います。

しかし、当該雇用調整助成金だけでその損失は賄いきれるわけではないでしょう。また、事業縮小によって仕事がなくなってしまった従業員にとっても、することがない事実は、不安などを大きくしても、減らすことにはつながらないのではないでしょうか。

しかし、一方で人手が欲しい事業主がいるのも事実です。

そこで、労使協定に基づき、新型コロナウイルス感染症の影響が減った後には元の事業所に戻って働くことを前提として、これまでの事業主との雇用関係はそのままに、出向先において労働することでその雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方の事業主に支給される助成金が「産業雇用安定助成金」です。

前提、要件、支給までの流れなどの概要を見ていきましょう。


【助成金の対象となる「出向」とは】

≪対象≫

新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的とする出向であること

≪前提≫

出向期間終了後は元の事業所に戻って働くこと

≪その他の要件の一部≫

資本的・経済的・組織的関連性などから見て、独立性が認められる企業間での出向であること。例えば、出向元と出向先の会社が、親会社と子会社の間柄であったり、同一人物が代表取締役である企業間であったりすると認められません。また、出向者を受け入れたことによって、出向先事業所において以前からの従業員を離職させることがないことなどが挙げられています。
その他にも出向期間が1か月以上2年以内であることや、出向元事業所または出向先事業所が出向労働者の賃金の全部または一部をそれぞれ負担していることなど、全部で13にわたる要件があります。

≪出向労働者に支払われる賃金要件≫

この助成金の支給対象となる支給対象期中の出向労働者への賃金については、出向前の賃金に相当する額であることが必要です。具体的には、出向前の賃金に対する支給対象期の賃金の割合が、85%から115%の範囲内である必要があります。

【対象事業主】

  • ① 出向元事業主・・・新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされたため、労働者の雇用維持を目的として出向により雇用する労働者を送り出す事業主。具体的要件としては売上高または生産量などの事業活動を示す指標(生産指標)における3つが挙げられています。
    • a 生産指標の最近1か月の値が、1年前の同じ1か月の値に比べ5%以上減少していること
    • b 生産指標の最近1か月の値が、2年前の同じ月に比べ5%以上減少していること
    • c 生産指標の最近1か月の値が、計画届を提出した月の1年前の同じ月から計画届を提出した月の前々月までの間の適当な1か月に比べ5%以上減少していること
  • ② 出向先事業主・・・①の事業主から送り出された労働者を受け入れる事業主

【助成される経費・助成率・助成額】

助成される経費は、(1)支給対象期に要する経費(出向運営経費)、(2)出向に際してあらかじめ要する経費(出向初期経費)の2つがあります。

(1)-1 支給対象期に要する経費(出向運営経費)

対象期間中の出向期間中において、出向元事業所または出向先事業所が出向に要した5つの要件のいずれかに該当するもの(出向労働者以外の従業員の賃金や出向初期経費は除く)

  • ① 出向元または出向先事業主が出向労働者に支払った賃金額
  • ② 出向労働者の労務管理、人事評価に要する経費
  • ③ 出向先事業所または出向労働者から出向元事業所への報告、面接に要する経費
  • ④ 出向先事業主が負担した出向先事業所における教育訓練(off-jt)に要する経費
  • ⑤ ①~④の他、出向期間中における出向の運営に要すると認められる経費

(1)-2 出向運営経費にかかる助成率

中小企業 中小企業以外
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 9/10 3/4
出向元が労働者の解雇などを行っている場合 4/5 2/3
上限額(出向元・先の負担額合計、1人1日当たり) 12,000円/日

(2)-1 出向に際してあらかじめ要する経費(出向初期経費)の助成額

出向元または出向先事業所において、出向期間の初日までに出向労働者に対して要した次のいずれかの経費を要する措置を実施した場合に対象となります。

  • ① 出向先事業主の負担する出向先事業所における出向労働者にかかる什器、OA環境整備費、被服費等
  • ② 出向元および先事業所の職場見学、業務説明会の実施に要する経費
  • ③ 出向元、先事業所間で行われる出向労働者労働条件、スケジュール調整に要する経費
  • ④ 出向元・先事業所の就業規則等の整備・改正に要する経費
  • ⑤ 出向元・先事業所の出向契約書の作成・締結に要する経費
  • ⑥ 出向元・先事業所における教育訓練に要する経費
  • ⑦ 出向労働者の転居にかかる経費(事業主がその全部または一部を負担する場合)
  • ⑧ ①~⑦の他、出向の成立に要すると認められる経費

(2)-2 出向初期経費額

出向元 出向先
助成額 各10万円/1人当たり(定額)
加算額※ 各5万円/1人当たり(定額)

※出向元事業主について次のアに該当する場合、また、出向先事業主について次のイに該当する場合に加算されます。

  • ア(出向元事業主の要件)次の(ア)または(イ)のいずれかに該当すること
    • (ア) 出向元事業所の業種の大分類(※)が次のa~cのいずれかに該当すること
      • a 運輸業、郵便業(大分類H)
      • b 宿泊業、飲食サービス業(大分類M)
      • c 生活関連サービス業、娯楽業(大分類N)
    • (イ) 出向元事業所の生産指標の最近3か月間(計画届を提出する月の前月から前々々月まで)の月平均値が前年同期に比べ20%以上減少していること
  • イ(出向先事業主の要件)出向先事業所の業種の大分類が出向元事業所と異なるものであること

なお、同一の賃金の支出について、同一の教育訓練等における経費支出について他の助成金を受給している場合には、本助成金の支給対象となりませんので、注意してください。

【支給までの流れ】

① 出向元・出向先事業主との契約、労働組合などとの協議、出向予定者の同意
・出向元事業主と出向先事業主間で出向期間、出向中の労働者の処遇、出向労働者の賃金額、その負担割合などの取り決め等を行います
② 出向計画届提出・要件の確認
・出向元事業主と出向先事業主が出向計画書を作成し、出向開始日の前日までに出向元事業主が出向先事業主作成書類も含めて都道府県労働局またはハローワークに提出します
③ 出向の実施
・出向計画に基づいて出向を実施します
④ 支給申請、助成金受給
・出向の実績に基づいて、出向元と出向先事業主が作成した支給申請書を、出向元事業主がまとめて都道府県労働局またはハローワークに提出します。助成金は出向元、先それぞれに支給されます

この助成金は、出向元事業主および出向先事業主がいずれも支給要件を満たす場合に支給されるため、出向元事業主または出向先事業主のいずれか一方が支給要件を満たさない場合には、もう一方が支給要件を満たしていたとしても、双方が不支給となります。事前に支給要件等をよくご確認の上、計画届の提出および支給申請を行うようにお願いします。

【問い合わせ先等の情報】

このコラムに記載されているのは、要件等の一部にすぎません。助成金の受給を検討する場合には、必ずガイドブック等による説明を確認の上、必要に応じて各種問い合わせ先、コールセンターをご利用ください。

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著者プロフィール

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本山 恭子

本山社会保険労務士事務所 所長

特定社会保険労務士、行政書士、公認心理師、産業カウンセラー、消費生活アドバイザー
ストレスが多く、事業運営もグローバル化の中厳しく、企業、労働者共に大変な今、少しでも働きやすい環境を作るお手伝いをすることを通して、企業、労働者の皆様のお手伝いを精一杯してまいります。法律だけの四角四面でない、気持ちを汲んだサポートを心掛けています。

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「働く」社会で一番大切な「人」にまつわる事柄へのお手伝いをいたします。労働基準法、社会・労働保険に関する相談から、メンタルヘルス対策、コミュニケーション、社内活性化など以下の通りです。企業、個人いずれからのご相談も可能です。
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