従業員のキャリアアップで助成金!
雇用されて働く労働者のうち、非正規と呼ばれる働き方をしている人は約4割となりました。補助的な業務を行うことも多い非正規雇用労働者の意欲や能力の向上が課題となっており、非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善に向けた取組が進められています。
キャリアアップ助成金はその一端を担うもので、有期雇用労働者等を正社員に転換し、6か月継続雇用すると対象者1人につき57万円がもらえるという大型の助成金です。今回は、キャリアアップ助成金をご紹介します。
非正規雇用働者の増加と国の対応
総務省「平成29年就業構造基本調査結果の概要」によると、雇用されて働く人は5,584万人で、その内訳は正規雇用3,451万人、非正規雇用2,133万人となっています。非正規雇用が約4割を占めており、長らく正社員中心であった日本の雇用社会は大きく姿を変えました。
雇用労働者 5,584万人 |
正規雇用 | 3,451万人(61.8%) |
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非正規雇用 | 2,133万人(38.2%) |
(参考:総務省「平成29年就業構造基本調査結果の概要」)
こうした状況の中、非正規雇用労働者のキャリアアップ支援は国を挙げての取組であり、令和2年度予算をみても重点事項であることが分かります。
「働き方改革の推進による誰もが働きやすい職場づくり」のうち、「最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上等の推進、同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」には大きな予算がつけられました。この項目にキャリアアップ助成金が含まれます。
【働き方改革の推進による誰もが働きやすい職場づくり】
⻑時間労働の是正や安全で健康に働くことができる職場づくり | 357億円 |
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最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上等の推進、同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 | 1,443億円 |
柔軟な働き方がしやすい環境整備 | 6.4億円 |
総合的なハラスメント対策の推進 | 45億円 |
治療と仕事の両立支援 | 34億円 |
(参考:厚生労働省「令和2年度予算案の主要事項」)
1,443億円の中で、「非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善に向けた企業支援」には1,230億円がつけられており、キャリアアップ助成金による支援に多くの予算が割かれました。
キャリアアップ助成金の概要
キャリアアップ助成金は、「有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度」を言います。
本助成金には7つのコースが設けられていますが、ここでは「正社員化コース」について説明します。
【キャリアアップ助成金のコース】
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「正社員化コース」は、就業規則等に規定した制度に基づいて有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成されるものです。例えば、有期雇用のアルバイトやパートタイマーを正社員にした場合です。
受給額は次の通りです。
措置内容 | 対象労働者1人あたりの受給額 |
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有期雇用から正規雇用に転換 | 57万円<72万円> (42万7,500円<54万円>) |
有期雇用から無期雇用に転換 | 28万5,000円<36万円> (21万3,750円<27万円>) |
無期雇用から正規雇用に転換 | 28万5,000円<36万円> (21万3,750円<27万円>) |
< >は生産性の向上が認められる場合の額/( )は大企業の場合の額
1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人となっています。なお、母子家庭の母等または父子家庭の父を転換等した場合や、若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合には助成額に加算があります。また、派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者または多様な正社員として直接雇用した場合にも加算があります。
申請の流れは?
申請の流れとポイントをみてみましょう。
1 | キャリアアップ計画の作成・提出 | キャリアアップ管理者を配置し、キャリアアップ計画を作成して、労働局長の認定を受けます |
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2 | 就業規則、労働協約その他これに準ずるものに転換制度を規定 | 改訂後の就業規則は労働基準監督署に届け出る必要があります(労働者が10人未満の事業所は申立書でも可) |
3 | 転換・直接雇用に際し、就業規則等の転換制度に規定した試験等を実施 | 就業規則等に定めた内容に従って実施します |
4 | 正規雇用等への転換・直接雇用の実施 | 転換後に適用される就業規則等に定めた労働条件に合致した雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付してください |
5 | 転換後6か月分の賃金を支給・支給申請 | 転換後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請します。なお、転換前6か月間の賃金と転換後6か月の賃金を比較して5%以上増額している必要があります |
6 | 審査、支給決定 | ― |
1の「キャリアアップ計画」(対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取組等を記載)は、転換・直接雇用を実施する前日までに提出してください。後出しはできません。
2に関しては、面接試験や筆記試験等の手続き、要件(勤続年数、人事評価結果、所属長の推薦等)、転換時期を必ず規定してください。
5の「転換前6か月間の賃金と転換後6か月の賃金を比較して5%以上増額していること」もポイントです。アルバイトやパートから正社員になったとしても、賃金が変わらなければ処遇が改善したとは言えないからです。
賃金の5%増額が必須
4.99%の増額では本助成金は支給されません。申請時に増額が足りなかったとならないように、賃金の5%増額の考え方はしっかりと確認しておきましょう。転換後6か月間の賃金は、転換前6か月間の賃金と比較して、次の①または②を満たすように増額させている必要があります。
- ① 基本給および定額で支給されている諸手当(賞与を除く)を含む賃金の総額を5%以上増額させていること
- ② 基本給、定額で支給されている諸手当および賞与を含む賃金の総額を5%以上増額させていること
実費補填であるものや、毎月の状況により変動することが見込まれるため実態として労働者の処遇が改善しているか判断できないものについては、賃金総額に含めることができません。
【含めることができない手当の例】
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5%要件に含める「定額で支給される諸手当」は、転換後については就業規則等で手当の決定及び計算の方法、支給要件が明記されている必要がありますので、注意してください。
賞与に関しては、就業規則等に支給時期が明記されていること(「○月○日に支払う」「○月に支払う」等)、及び支給対象者が明記されている場合であって、転換後6か月の間に賞与が支給されていれば、賃金の総額に含めることができます。単に支給時期が「夏季及び冬季」とか「年2回」と記載されている場合には、支給時期が明確ではないので含めることができません。
また、賞与を含めた転換後の賃金が5%以上増額していても、転換後において基本給および定額で支給されている諸手当の合計額が転換前と比べて低下している場合は支給対象外です。
本助成金の受給には就業規則等の規定内容、雇用契約書や労働条件通知書の中身、賃金台帳や給与明細書等の記載に整合性がとれていなければなりません。法定帳簿の整備や残業代の支払いなど、労働諸法令を遵守していることも求められます。ぜひ非正規雇用労働者のキャリアアップを真摯に考えた転換制度を整備した上で、適切な運用と適正な労務管理を心掛けてください。
※本内容は、令和2年9月10日現在、厚生労働省より公表されている情報に基づいております。申請にあたっての詳細は、管轄の都道府県労働局等に確認をお願いいたします。