従業員が業務中に交通事故を起こした場合、使用者である会社が刑事責任を問われることはあるのでしょうか?今回は、業務中の従業員が起こした交通事故に対する会社の刑事責任について解説していきます。
1.会社は従業員に対しどのような責務を負っていますか?
「会社が負担する法律上の義務を教えてください?」
「会社と従業員は、民法に根拠をもつ『雇用契約』という法律関係で規律されています」
ここでは、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と規定されていますので、会社は、「賃金を支払えば、それ以外の義務は負わない」と考えることもできそうです。
しかしながら、世の中には、大型トラックの運転業務や高所での建築業務など、従業員の生命や身体に危険を及ぼす可能性がある労働が多々あります。
そこで、会社はこのような危険から従業員の生命や身体を保護すべきである、との考え方が一般的となっています。
実際、平成19年に施行された労働契約法は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、会社の法律上の義務として「従業員の生命と身体の安全を確保すること」を明記しました。
2.過労運転に対する刑事罰とは何ですか?
「従業員の事故に関して会社の社長が『逮捕』されることがあるのですか?」
「刑事責任は、『罪を犯した個人の責任』が大原則です。親が犯罪者であるからといって子や孫が刑事責任を問われるなどということは当然許されません」
しかしながら、道路交通法は「運転をしていたわけではない使用者」を主体として、「過労運転下命」という罰則を設けています(3年以下の懲役または50万円以下の罰金。道路交通法75条1項4号、同法66条)。
これは、過労等の状態(過労や病気などの理由で正常な運転ができないおそれがある状態)で運転することは、すべての人が禁じられているところ(同法66条)、そのような状態の者に対し、会社などの使用者が、業務に関し運転することを命じることを禁じたものです。
「『過労運転』とはどういうものですか?」
「『過労運転』の解釈にあたっては、裁判所は厚生労働省による『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)について』を参照しているようです」
例えば、「トラック運転者」の場合、
- 運転手の拘束時間(運転時間や休憩時間を含む)は、1か月293時間を超えてはならない(労使協定があれば、320時間まで延長可能)。1日単位で、13時間を超えてはならない(拘束時間を延長する場合でも、最大16時間)。
- 勤務終了後、継続して8時間以上の休息期間を与えなければならない。
- 1日の運転時間は、2日(始業時刻から48時間)平均で9時間。
- 連続運転時間は、4時間まで。
という内容を示しており、これを超える運転を「過労運転」と判断しているようです。