〈はじめての経理財務〉個人事業と法人

2021/08/04

著者:税理士 髙橋 昌也
経理財務
個人事業と法人の違いを解説

前回の記事で「資金調達」について取り上げました。その中で出資と融資(借金)について少し触れていますが、このお話を進めるためには、先に個人事業と法人について理解をする必要があります。そこで、今回は個人事業と法人の違いについて簡単に確認していきます。

先に言葉の確認

ここから先の話で「儲け」という単語を使っています。税務的には所得、会計的には利益と呼ばれるものです。呼び方を統一した方がわかりやすいので、今回は儲けに統一しています。

お手軽なのは個人事業

まず個人事業について。一般的に、まず個人事業で開業する人の方が多いのではないかと思います。理由は以下のとおりです。

・開業するのがお手軽

基本的には、税務署に「個人事業の開業届出書」を提出すれば終わりです。飲食業のように他の役所や保健所等への届け出が必要な場合は、そちらへの対応も必要です。

・経理処理が簡便的でも良い(とされている)

法人に比べると、個人事業主は経理処理についてある程度の手抜きが許されています。なので、自分で経理処理や税務申告をしようと思っている人の中には、個人事業を選択する方も多いようです。ただし、この点については、ちょっと注意が必要な点もあります(これについては、後日別の記事でご紹介するつもりです)。

・儲けが少ないうちは税負担が少ない

個人事業主として開業すると、所得税の分類上は事業所得者に該当し、毎年確定申告をする必要があります。そして所得税には「超過累進税率(ちょうかるいしんぜいりつ)」という性質があります。簡単にいうと、

  • 「儲けが多ければ多いほど税率が高くなっていく」
  • 「儲けが少ないうちは税率が低い」

こんな性質です。開業してすぐに儲けが出せる人は少ないこともあり、とりあえずは個人事業主として独立し、税負担を抑えようとする方が多いようです。

法人は色々と手間がかかる

個人事業と比較すると、法人は少々手間がかかります。

・設立時点で一定の費用が発生

法人を設立するためには、定款(会社の決まりごと)の作成や法務局への登記といった作業が必要で、その際に一定の税負担が発生します。またこれらの作業は専門性が高く、一般的には司法書士や行政書士の力を借りる人が多いようです(当然、専門家に対する手数料も発生します)。

・経理処理はしっかりしている必要がある

個人事業と異なり、法人ではきちんとした経理処理が必須です。具体的には「複式簿記」という方法を使って日々の商取引を記録し、決算書を作成しなければなりません。
加えて、実際に複式簿記で経理処理を進めるためには、税務に対する知識も必要不可欠です。また、決算後(法人の決算期は自由に決められます)には法人税や法人住民税の申告書も作成し、税務署等への提出が必要です。
これらの作業を社長さんご自身でやることはかなり大変なので、中小零細法人の多くは、顧問税理士がついています。従って、税理士への報酬も発生します。

・税負担は最初からある程度高い

儲けが少ない場合、所得税よりも法人税の方が税負担は高くなりがちです。この点については、後で補足します。

・社会保険への加入が必須

法人を設立した場合、社会保険への加入が必須です。社会保険料はかなり重たい負担です。計算基準は人件費で、仮に会社が赤字であっても、その支払いは継続的に発生します。

法人側にもメリットは色々とある

ここまでの話だけだと、法人はあまりメリットがあるように思えません。しかし、実は法人にも色々なメリットがあります。

・信用度が高い

企業の中には「個人事業主とは取引しない」というところが少なくありません。一般的に個人事業主は規模が小さく、信用できないと考えられています。その点「株式会社○○ 代表取締役 △△」という肩書は、それだけでかなりの信用度があります。
特に想定される取引先が、ある程度規模の大きな企業であったり、公的機関であったりする場合には、法人でないと話にならないことも多いようです。

・税負担の平準化と単純化

法人税は所得税と比べると、最初から税率がある程度高いですが、儲けの数字が増えてきても税率はあまり上がりません。ですので、それなりに儲けが多い人にとっては、所得税よりも法人税が課税された方が、税負担が軽くなってきます。
また、これは世間的にはあまり知られていないのですが、実は所得税と法人税では、法人税の方が課税の仕組みは単純です。事業の仕組みが複雑な場合、法人を活用した方がうまくいくことも少なくありません。

消費税の納税義務

そしてもうひとつ、個人事業と法人を比較するときには、消費税がとても重要なポイントになってきます。
もしかしたら「消費税は2年間支払わなくても良い」なんて話を、どこかで聴いたことがある方も多いのではないでしょうか?いろいろと単純化され過ぎなので、こんなに簡単な話ではないのですが・・・確かにこんな感じの制度はあります。
とりあえず基礎として「2年前の年間売上が1,000万円あると消費税の納税義務が発生する」というルールを覚えておいてください(これは基礎だけなので、例外が色々あります)。このルールが理解できると、こんなことができます。

  • まず個人事業主として開業。
  • 事業が成長し、年間売上が1,000万円を達成、2年後の消費税納税義務発生。
  • 2年経過する前に法人設立、個人事業を廃業。この時点で消費税の納税義務がリセット。
  • あらためて法人として事業開始。年間売上が1,000万円を達成、2年後の消費税納税義務発生。

・・・と、こんな感じで4年くらい、消費税の納税義務が免除されます。実際、このルールを活用するため、まず個人事業をはじめ、2年くらいして法人にする方はとても多いです。

ただし、この消費税の取り扱いについては、これから先は以前ほど活用されない可能性が出てきています。まもなく、消費税の大改正が実施されるためです。これについては話がとても大きいので、また別の機会に取り上げます。

法人を設立するには出資が必要

上記のような事項を比較した上で、自分が独立するにはどちらの方法が良いのか検討する必要があります。そして法人を選択した場合、そこではじめて「出資」という行為が出てきます。次回は出資と融資の比較について取り上げていきます。

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  • 著者プロフィール
髙橋 昌也 髙橋 昌也

髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

コミュニティFMでのコメンテータ等を通じ、税務や会計、経営など難解な話題をわかりやすく解説すると高い評価を得る。
税務や会計に関する記事やwebコラムの執筆実績多数。
2020年11月、日本橋出版㈱より『高校生からはじめる投資のはなし』を出版。

2020年1月、(株)ノンバーバル設立、代表取締役就任。
武術や芸術、五感などを通じて、オンライン時代に必要なあたらしいコミュニケーションの形を研究。
優れた技術をもつ専門家と連携を行い、企業研修等を実施。

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