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〈はじめての経理財務〉資金調達の前提と概要

著者: 税理士  髙橋 昌也

〈はじめての経理財務〉資金調達の前提と概要

これから独立開業を検討している人。開業済みで事業の発展を目指す人。そして業況が厳しくなり、資金繰りの改善が急務な人。

事業に関わると、どのような状況でも気になるのが資金調達です。

今回は、資金調達の基礎部分について確認をしていきましょう。


前提条件の確認

資金調達について考える前に、まず確認をしておきたいことがあります。

・業種と規模

挑戦する事業の種類によって、必要な資金量は大きく異なります。製造業であれば、工場や機械装置の確保だけでも相当量の資金が必要です。飲食業も店舗や食材仕入れまで含めると、かなりの資金を用意する必要があります。またこれらの業種では、開業時だけでなく、その事業を維持するためのランニングコストも見越して資金繰りを考えなければいけません。

その一方で、webに関わるサービスなど、自宅で簡単にはじめられるような仕事であれば、起業時にも継続時にも、必要な資金量は限られています。また2020年以降、感染症対策の影響もあり、業態を大きく変化させた分野もあります。例えば「宅配専門の飲食店」であれば、店舗は小さく、内装工事も不要です。またオンライン業務が一般化してきたこともあり、オフィスも不要と考える企業が増えています。

社会的な産業構造の変化もあり、独立開業だけを考えるのであれば、それほど多くの資金を必要としないケースが増えているようです。もちろん、どのような業態であっても一定の規模以上に成長させたいと考えれば、人材の確保や設備投資は必要不可欠です。最終的にどれくらいの規模まで事業を育てたいのかにより、資金調達に対する考え方も大きく変わってきます。

・生活費の混在

もう一点、見過ごされがちですがとても重要なのが生活費です。個人事業主やごく小規模な法人の場合、事業と私生活の境界は曖昧です。また、経営者が自分の生活費から事業に必要な資金を補填することも、一般的に行われています(俗に社長借入などと呼ばれるものです)。

その一方で、自分の生活費がどれくらい必要なのか自覚せず、気がつけば事業用のお金を生活費に使い込んでしまう経営者も少なくありません。小規模な企業の決算書をみると、社長に対する貸付金が計上されていることがあります。これが何を意味しているのかというと「社長が会社のお金を使い込んで自分の生活費に回している」ということです。

社長貸付が一時的に計上されているものの、返済もきちんと進んでいるのであれば、それほど大きな問題にはなりません。しかし、もし恒常的に存在し、返済が進まない、あるいは貸付の残高が増えてくるようなことがある場合には、大きな問題となります。この場合、必要なのは事業における資金繰りの改善ではなく、生活費の見直しです。

***

実際に資金調達を考えて、例えば金融機関に融資(借金)を申し込むとします。そのとき、金融機関は業種、そして生活費をしっかり確認してきます。特に「社長貸付の発生」は、資金管理能力の欠如として評価が著しく下がります。

資金調達というと、どうしても「どうやってお金をひっぱってくるのか?」という点に話題が集中します。しかし、実はその前提条件となるこれらの事項について確認をすることが、円滑な資金調達を実現するためには必要不可欠です。

自分で用意するか、外から調達するか

上記の前提条件が確認できた上で、あらためて資金調達の具体的な方法について考えてみます。方法は大きく2つに分かれます。自分で用意するか、外から調達してくるかのいずれかです。

・自分で用意する

もっとも普遍的で、かつ最初に考えるべきなのはこの方法です。独立開業時であれば、日常的な生活費を節約するなどして少しずつお金を貯めていきます。すでに開業をしているのであれば、日常的な事業の中で利益を獲得し、そこから事業資金を留保していきます。

このように書くと簡単なことに思えますが、実行をするのは困難です。不思議なもので、お金というのは貯めるのはとても大変ですが、使うのは本当に簡単です。今後の事業展開を見越して貯蓄をしていたはずが、なぜだかお金が手元にない。そんなことは日常茶飯事です。その原因は、実は事業ではなく生活費だったりすることも多いです。

もっとも簡単な確認方法は、預金残高の確認です。先月末と今月末を比較して、預金残高はきちんと増えているか?もし減っているとしたら、その原因に明確な心当たりはあるか?そういった点について常に自問自答をし続けることが、自前での資金調達では必要不可欠です。

自分でお金を貯めることができた場合、最大のメリットは「外の人に気兼ねなく事業を展開できること」です。外部からの資金調達には出資や融資といった方法がありますが、どの手段を選んだとしても、外部に対する一定の配慮や返済の義務を背負うことになります。そのストレスは思いの外大きいものです。その点、自分で貯めたお金であれば、ストレスはごく小さくて済みます。当たり前のようですが、これは見逃せない点です。

一方、明確なデメリットとしては「お金が貯まるまでに時間がかかること」があります。事業というのは、勢いとタイミングが必要です。自己調達にこだわりすぎると、タイミングを逃し、成長の機会を逸する可能性があります。

・外部からの調達

自分で貯めきれない資金は、外部から調達してくる必要があります。外部の関係者は様々です。親戚に頼る方もいれば、金融機関に相談をする人もいます。

上でも少し触れていますが、外部からの調達には出資と融資(借金)の2種類があります。その違いの詳細は、また別の機会に説明をしたいと思いますが、簡単にいえば、

  • 出資:出してもらったお金は返済不要だが、自分の立場はかなり弱くなる
  • 融資:借りたお金は返す必要があるが、返済さえしていれば文句は言われない

このように理解しておけば、それほど間違ってはいません。単純な比率で考えると、ごく小規模な事業者の現状では、返済不要な出資ではなく、融資による資金調達をしている事例の方が圧倒的に多いのではないかと思います。

どちらの方法を用いるとしても、外部に対する一定の配慮が必要であることが大きなデメリットです。一方で、条件さえ合えば一気に資金調達を実行することができるのが大きなメリットです。小規模な事業者の持ち味は、大手にはない機動力と足回りです。外部からの調達を上手に活用することで、自社の持ち味をより強化できるか?ここが勝負の分かれ目となります。

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実際の事業では、内外両方からうまく資金調達をすることが必要不可欠です。ただ、どうしても外部にばかり気が向いてしまう人が多いので、まずは「自分できちんとお金が貯められているのか?」について確認することを強く推奨します。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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