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ライブドア VS ニッポン放送の買収劇から学ぶ企業買収の基礎用語
第1章 ニッポン放送買収。権謀術数渦巻く企業買収劇

2005年の2月8日、堀江貴文社長率いるライブドアが、フジサンケイグループの中核企業であるニッポン放送株式の35%を取得したことを突然発表したことが今回の買収劇の発端でした。

ニッポン放送の経営陣にとっては寝耳に水の「敵対的企業買収」(注1)の始まりです。「企業買収」(注2)において一般的には「議決権付き株式」(注3)の過半数を制すれば、「株主総会」(注4)で取締役を選ぶ権利を得て、その会社を支配化に置くことができようになります。

<表>取得した株の比率と株主の権利

突然しかけられた敵対的企業買収。それは、ニッポン放送の子会社であるフジテレビが、ニッポン放送とのいわゆる資本関係の「ねじれ現象」(注5)を正すため、ニッポン放送株の「株式公開買い付け」(注6)を始めていた矢先の出来事でした。


第2章 ホリエモンの果敢な城攻めに、お台場城の繰り出す秘密兵器の数々

慌てたのは日枝会長率いるフジテレビです。ニッポン放送は、フジテレビ株式の22.5%を所有する親会社であり、ニッポン放送がライブドアのものになれば、ニッポン放送が持つ株主の権利を通してフジテレビの経営もホリエモン(堀江社長)に口を出されてしまうからです。そこでフジテレビが採った対抗策が、進行中の株式公開買い付けでニッポン放送株式の25%以上を獲得することでした。株をお互いに持ち合っている場合の商法の規定を利用してニッポン放送のフジテレビに対する「議決権」(注7)消滅させ(注8)、ホリエモンの影響力を封ずる作戦です。

こうして、本丸フジテレビを守るとともに、ニッポン放送を守るために、フジテレビ陣営のうった防衛策が、フジテレビを「ホワイトナイト」(注9)とする大量の「新株予約権」(注10)の発行でした。ライブドアの持っている株式比率を低下させ、影響力を減少させようという「第三者割り当て増資」作戦(注11)です。

敵対的企業買収に対する防衛策が発達したアメリカでは、他にも「ポイズンピル」(注11)「ゴールデン・パラシュート」(注12)「パックマン・ディフェンス」(注14)などといったさまざまな対抗策があります。しかし現時点の日本ではポイズンピルを始めとする防衛策の多くは法的問題について整備されていないのが現状です。また役員が多額の退職金を持って逃げ出してしまうゴールデン・パラシュートのような防衛手段も日本の場合は社会的に許されそうにありません。日本における敵対的企業買収に対する防衛策はいまだに模索段階にあるというのが現状です。

ライブドアの奇襲に後手を踏んだフジテレビの採った防衛策は苦肉の策と言えるものだったのです。


第3章 ライブドア圧勝の司法裁定。なぜ裁判官はホリエモンの肩を持ったか

フジテレビ側による「新株予約権」の大量発行に対し、ライブドア側は「不正発行」(注16)を理由に即座に東京地裁に「新株発行差止」(注17)「仮処分」(注18)を求める申請を行い、両者の戦いは司法の場へと移ることとなりました。

一方、司法の判断を待つ間も、ライブドアは「取締役会」(注15)を支配して、ニッポン放送を完全に傘下に収めるために、さらにニッポン放送株を買い進め、かたやフジテレビもニッポン放送株に対する公開買付けに全力を注ぎます。結果、フジテレビは公開買い付け終了日の3月7日までにニッポン放送株式の36.47%の買い付けに成功し、ニッポン放送の議決権を消滅させるに必要な25%はおろか株式数の3分の1超の保有率を獲得するに至りました。この保有率は株主総会での「特別決議」(注19)に対する拒否権を握ることも可能な数字です。日枝社長はTOBの成功を宣言。さらにライブドア、フジ両社の合計保有率が75%を超えたことで、ニッポン放送株の「上場廃止」(注20)の可能性も高まり、形勢は一瞬フジ側に有利に傾くかと思われました。

しかし、3月11日の東京地裁による決定で事態は急変します。ライブドアの申立に応じて、東京地裁はニッポン放送による新株予約権の発行は不公正であるとして、新株発行の差止仮処分命令を下したのです。これを不服としてフジテレビ側は即座に東京高裁への上告を行ったものの、23日には東京高裁でも不正発行との決定が下され、新株予約権を巡る法廷闘争はライブドアの完勝という形で終わることになりました。

ちなみにこのケースではマスコミはどちらが勝つか五分と五分という報道をしていましたが、過去の裁判では、明確な資金調達の理由がない新株の発行は不公正であるという判例が常識となっており、新株ではなく新株予約権という形にしたものの今回の決定でも裁判官は過去の判例に沿った判断をしたと言えます。


第4章 ライブドアはLBOによる本丸フジテレビ買収へ

東京地裁がライブドア有利の司法判断を下した直後、勝ち誇ったライブドアが今度は本丸フジテレビに対して「LBO」(注21)を使った敵対的買収をしかけるのではないかという報道が流れました。これに対し、買収を恐れたフジテレビは、同社株式の1株あたりの配当金を従来の1200円から一気に5000円まで上昇させる「高配当作戦」(注22)を即座に発表。同社の株価は一時ストップ高を示すほどの高騰をみせます。LBOをおこなうにしても大量の資金調達が必要となりとりあえずライブドアによるフジテレビに対する敵対的買収は回避された形となりました。

一方、東京高裁の決定によって新株予約権の発行が差し止されたことで経営権をライブドアに握られることが確実となったニッポン放送は、ライブドアが経営権を握った場合には同社の子会社であるポニーキャニオンなどの「クラウンジュエル」(注23)をフジテレビに売却してしまう、いわゆる「焦土作戦」(注24)をちらつかせていました。


第5章 ソフトバンクは白馬の騎士?それとも?

このように両者の形勢が二転三転するなかで、再び情勢が急転したのは、3月24日。ニッポン放送が同社の持つフジテレビ株式の13.88%を、ソフトバンク系のソフトバンク・インベストメント(SBI)に「株券消費貸借」(注25)により5年間貸し出すという契約を結んだことを発表したのです

ニッポン放送ではすでに同社の持つフジテレビ株式の8.6%を大和證券SMBCに2年契約で貸し出しており、SBIは一気にフジテレビの筆頭株主に踊り出ることとなった。この場合、SBIはフジテレビの議決権株式の過半数を握ったわけではないので、企業買収の世界では「ホワイトナイト」ではなく「ホワイトスクワイヤ」(白馬の従者)(注26)と呼ぶのが適当と言えるのだが、ともあれこの結果ニッポン放送の持つフジテレビ株式はゼロになってしまい、フジテレビへの議決権は消滅。ホリエモンはフジテレビの経営に口を出すことができなくなってしまったのです。


第6章 そして終結へ

SBIへの貸株によって、本丸フジテレビへの攻め手を失ったライブドア。上場廃止水準に達したニッポン放送株の下落は、含み損のプレッシャーをライブドアに与えました。本陣であるライブドア自身の株価も下落を始めました。一方で、フジテレビの側も泥試合が長引けば、企業イメージが大きく傷つくこととなります。

このため双方とも対決姿勢から一転して、和解の道を探り始め、4月18日の共同会見へといたりました。ここに2月より約70日にわたってくりひろげられた企業買収をめぐる攻防は、一応の落着をみたのでした。


最後に今回の買収劇に顔をだしたプレイヤーごとに収支を見てみましょう。