前回は、何事にも手を抜かない姿勢でつかんだチャンスについて語っていただきました。今回は、さらに大きなチャンスをどう掴んだのか、そして今後について語っていただきます。
――前回(第3回)、小さなきっかけからそこそこ食べられるようになったあと、もっとすごい転機が訪れたという話でしたが、それはどんなものだったのでしょうか?
あるとき、海外の有名なブランドが、日本で大きなファッションショーを開くことになりました。デザイナーが初来日ということで、日本法人もかなり力を入れていたようです。これもたまたま知り合いがそこのブランドの会社の社員で、その人は以前から友人の誕生日とか同僚の送別会とか、そういうときに私に花を頼んでくれていたんです。
その人から、「このファッションショーの記念パーティーでフラワーデザイナーのアシスタントをやらないか。」という話がありました。ファンションショーだけでなくパーティーも盛大に開くということで、フラワーデザイナーも料理人もフランスから呼ぶことになっていたのですが、そのフランスのフラワーデザイナーに日本人アシスタントが必要だということになったのです。
――フラワーデザインの実力を買われて、お声がかかったわけですか。
いいえ。多分、イギリスにいたから英語ができる、花の仕入れのルートもわかっている、もちろん花にも詳しい、どちらかと言うと雑用係として便利だったからだと思います。「あんまりお金にならないけど、どう?」と言われて、当時は花の仕事は暇でしたから「おもしろそうだから、やるよ!」と軽い気持ちで引き受けてしまいました。
それで、フランスのフラワーデザイナーと、コンセプトから細かいセッティングに至るまで、海外とFAXでの打ち合わせが何度も続きました。ところが、パーティー直前になって、そのブランドの会社とフラワーデザイナーとがケンカして、デザイナーがこの仕事を下りてしまったんです。
パーティーは絶対に失敗できませんから、会社の方も焦ったと思います。もう一からやり直している時間はありません。それで「打ち合わせはだいぶ進んでいたんでしょ。君、やってよ。」ということで、私がフラワーデザインを担当することになってしまったんです。
「え? 俺ですか?」という感じですよ。いまだにこのときのパーティーの規模が経験した中で一番大きくて、花代だけで2日間で1200万円かかりました。よく会社も実績のない私に任せたと思いますね。まあ、他に選択肢がなかったのは事実ですが。
――そのパーティーは成功したんですか?
数日前から緊張で眠れないほど大変でしたが、おかげさまで大成功を収めることができました。この成功によって、業界内で「この花は、誰がやったんだ?」という話になり、ルートもできて、そこからいろいろなブランドのフラワーデザインをやらせていただけるようになりました。
ただ、今思うと、フリーターとしていろいろな仕事を経験していたおかげで、すごく助かったことがあったんです。パーティー会場って壁や柱に傷をつけないように、壁や柱の上にもう一枚、板を貼ったりして新しい壁を作るんです。
そういう新しい壁を作ってしまうともともとどこに柱があったかとかがわかりづらくなるんですが、私は内装屋で働いていた経験があったので、ココとココなら釘が打てるとかわかるんです。そういう、他の人があまり知らないことも、「ああ、それだったらこうすればいいんじゃないですか。」なんて提案できたことがいくつもありました。
―― 一番評価されたのはどういった部分だったのでしょうか。
フラワーデザインが認められたこともあるでしょうが、それ以上にいろいろなセクションとの折衝とか、段取りなんかがうまく運べたことが一番だと思います。そういう、デザイン以外の部分が実は重要なんです。雑務と言えば雑務ですが、その交通整理がうまくいくかどうかが、イベント成功のカギだったりするんです。
あとは私の場合、クライアントの意向を最大限に尊重しつつ、自分の考えをそれに当てはめていくということを重要視しています。デザイナーは、自分を出しすぎる人が多いんですが、そこは自分を出しすぎないように気をつけています。
例えば、全体のコンセプトが「白」と決まっていて、テーブルクロスとか食器とか照明など全部がその「白」というコンセプトで統一されているのに、フラワーデザイナーが花だけを見て「白い花だけじゃ寂しすぎる!」と赤い花を入れてしまったら、すべてがぶち壊しになってしまいます。
――イベント全体を俯瞰して見ることができる目があったんですね。
そういう見方ができないと難しい仕事かもしれません。私のデザインでも、「こんなデザインだったら誰でもできるよ。」と酷評されることがあるんですが、フラワーデザインは芸術ではないので、デザイナーの独断で誰にもできないようなことをされては困るんです。
芸術家は自分の技を極限まで追求して、「これが最高傑作だ。」と見せるのが仕事です。でも、私の仕事にはクライアントがいるので、自分を出すのではなく、クライアントのイメージをいかにして実現させるかが勝負なんです。
――今後はどのような展開を考えているのでしょうか。
もちろん、企業として会社を大きくしたいというのはあります。でも、それは結果としてそうなったらいいなという感じです。まずは、花というものを人々の身近な存在にしていきたいんです。
――何か具体的に取り組んだりしているんですか。
そうですね。例えばですが、母の日に子どもさんがカーネーションを買いに来ますよね。でも、せっかく買いに来たのにお金が足りなかったっていうこともけっこうあるんです。なので、母の日にはお店の店員さんたちに小銭を渡しておいて、おまけしてあげるように言っています。
「じゃあ、お姉さんが払ってあげるね。」と言って、そのお金を出してあげてくださいと。会社が値引きするんじゃなくて、店員のお姉さんが出してくれるっていうところに意味があるんじゃないかと思っています。
花ってもっと身近にあっていいものだと思うんです。長嶋茂雄さん(読売巨人軍終身名誉監督)が本の中ですごくいいことを言っていました。原文は忘れましたが、内容は「花にはパワーがある。どんな極悪人でももらって悪い気はしない。見て嫌な気持ちになることはない。それだけ花には人を幸せにするパワーがあるんだ。」と。
――読者に一言お願いします。
チャンスって必ず誰にも訪れるものです。私はそれを“まず動く”ことで掴んだと思っています。悩んだり、考え込んだりする前にまず動いてみる。イギリス留学のときも、「英語ができないから。」なんて躊躇していたら今の自分はありません。有名ブランドのパーティーのときも、「そんな大役、自分に務まるだろうか。」なんて悩んでいたら、今もアルバイトで暮らしているかもしれません。
動かないと何も起こらないんです。失敗という経験すら得られません。動けば、最低でも経験だけは得られます。今は特に景気が悪いので、「利益につながらないだろう。」なんて思って動かないことが、逆にチャンスを逃しているのではないでしょうか。「失敗」とは動かないことです。ちょっとのこと、微力なことでも、意味がないことはありません。些細なことでも積み重なっていけば、必ず実ります。どんな小さなこともないがしろにしない姿勢こそが大事なんだ、と私は自分に日々言い聞かせています。
