[トップインタビュー最終回]

上司とは部下から持ちあげられるものだ!

2013/2/6

ホテルエピナール那須
総料理長 菅井慎三
インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太
菅井慎三

一匹狼の料理人たちをまとめあげるマネジメント力とは?

菅井慎三氏は、楽天トラベルの「朝ごはんフェスティバル2012」の頂上決戦で審査員特別賞を受賞したホテルエピナール那須の総料理長として、約100人の料理人をまとめている。若くして料理人の世界に飛び込み、昔ながらの縦社会の中でもまれた経験は、料理人たちをチームとして組織するのにとても役立っていると語る。料理人という職人気質の人たちを組織する方法論には、あらゆる組織の長にとって参考となるマネジメント手法が隠されていた。また、「顧客満足度」を最大化することが何よりも優先されるホテルという業態を知ることで、本当の意味での顧客満足とは何かが見えてくるはずだ。

専門家をヒーローにする

――前回、人材育成のために、「若い人にテーマを与えていろいろなことをやらせている」というお話がありました。ただ、それでもなかなかうまくできない若手もいるのではないかと思うのですが、そのような人にはどのように育てているのですか。

基本は「得意分野で輝かすこと」です。料理人のなかにも、味付けはイマイチだが飾りづくりがものすごくセンスがある人もいます。料理以外でも、数字に強いという人もいます。一見、数字に強いことは、料理には関係ないと思うかもしれませんが、お店も一般の会社と同じで経営しなければなりませんので、売上の予測とかコスト削減とかのセンスも必要なのです。

――適材適所ですね。

そうです。人には何かしら必ず得意分野があります。

――何をやらせてもうまくできないという人はどうすればいいですか。

それは、まだ上司のやらせ方が足りないのだと思います。3つか4つぐらいで得意分野が見つからないからといって諦めていては、上司失格です。輝くものが見つかるまで、根気よく、いろいろやらせてみる。そして見つかったら、とにかく専門家としてヒーローにしてあげることが大切です。

――専門家としてヒーローにするというのは、どういうことですか。

料理を作る菅井慎三

例えば、何かについて私に教えを請うてきたとき、「それだったら、Aさんに聞くといいよ。Aさんはそれの専門家だから」と言って、教えさせることです。実際、魚をさばかせたら超一流という人がいるのですが、若い人が魚のさばき方について聞いていきたら、「あの人が詳しいから聞いてごらん」と言って、あえてその人に教えさせます。

どんなに忙しくても、人に頼られることはうれしいですし、人に教えることは自分の勉強にもなります。自分で自分を誇らしいと思えるようになりますから、その分野でさらにうまくなろうとします。いい循環になります。

――総料理長自身が、「自分よりも彼のほうがうまいよ」と認めてあげるのですね。

料理長とか総料理長だからといって、あらゆることが他の人より優れていることはありません。足りないところは部下であっても教えを請うようにします。

料理長とか総料理長は、別に料理がうまい人がなれるというものではありません。出世したいと思う人がなれるわけでもありません。要は、下の人たちに支えてもらえるかどうかです。部下から持ちあげてもらうのが上司だと思っています。

4番バッターばかりではチームワークが乱れる

――前回、採用のお話も出ましたが、採用は即戦力を求める場合と経験の少ない人を育てていく場合があるかと思います。菅井さんはどちらがよいとお考えですか。

そこはバランスだとは思います。あまりに即戦力を求めすぎると、チームワークがうまく行かないことが多いと感じています。野球で4番バッターばかり集めても、うまくチームとして機能しないのと同じです。やはり強いチームを作ろうと思ったら、いろいろなプレーヤーを育てていかなければなりません。

毎年新人を採用して育てていくと、残った子はぶれません。そうやって若い子を育てていくと、組織の土台がしっかりしてきます。安定的なピラミッド型ができます。

――土台がしっかりしていないと、即戦力を採用しても崩れてしまうのです。

そのとおりです。1年目、2年目の若い人は本当に真っ白ですから、いかようにも育てることができます。繰り返しになりますが、1年生をトップ自らが教えることが大切です。人任せにしなことです。

――育ててもすぐに辞めてしまうというケース場合もよくあるのですが、料理人の世界では離職率は高くないのですか。

いえ、すぐに辞めてしまう子もいます。飲食業は他に比べて高いと思います。それはある程度は仕方がないです。人によって、その職場が合う、合わないがありますから。でも、真剣に育てていけば、残った子たちは本当に強く育ってくれます。

――最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いします。

料理を提供する菅井慎三

部下をもつ上司という立場で自分の経験をもとにお話しさせていただきますと、身の丈以上のことはやらないのがいいかと思います。むしろ、弱いところを見せるくらいがちょうどいいです。すべてを完璧にこなすことはできませんし、あえて弱いところを見せれば、部下のほうが下から持ちあげてくれます。完璧にしないと周りが埋めてくれるものです。

――そのような体験があったのですか。

しょっちゅうです(笑)。例えば、東日本大震災のあと、建物が被災してしばらく営業できない状態になったとき、私がホテルに出勤したら、60歳すぎのパートの女性が何人もいました。「しばらく営業できないんですよ」と言ったのですが、「いや、菅井さんのお手伝いをしにきただけだから」などと言うのです。「お給料出ませんよ」と言っても、「お手伝いにきただけだから、いりません」と言い返されました。私がかなり頼りなかったのでしょうね。

無理をすると疲れますし、ボロが出たりしますので、上司といえども、やはり地のままの自分で仕事をしていくのがいいと思います。その分、部下を徹底的に見てあげることができれば、必ずよい組織ができあがっていくと思います。

――ありがとうございました。

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

投稿日:2013年2月6日
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