桜井淑敏

世界一の集団をまとめ上げ、文化資本主義という理想にチャレンジ

本田技研工業で世界初の無公害エンジンCVCCの開発に成功し、その後、ホンダF1総監督として2年連続世界チャンピオンを獲得するなど、常に世界への挑戦を続けてきた桜井淑敏。また、当時ロータスチームにいたアイルトン・セナがホンダのエンジンを熱望したとき、その熱い思いを語り合ったことから、セナが心を許した数少ない友人の一人となった。現在は「文化資本主義」の創出という目標を掲げ。ベンチャー支援などを行っている同氏が、新たな時代の組織論、経営論を語る。

仕事が仕事を超えて、自分のもの人生そのものになる

――桜井さんはホンダF1チームの監督というお立場でチームをまとめ、また本社との折衝などにも当たられました。まさに人を動かすプロフェッショナルですが、人を動かす上で大切なこととは何だと考えますか?

これには上司あるいは部外者、さらには世の中といった外側の人たちと、部下やチームのスタッフなどの内部の人たちとでちょっと違ってくると思います。外側の人たちは結果しか見ていません。結果がよければプロセスはどうでもいいというのが彼らですから、とにかく結果を出さなければ思うようには動いてくれません。動かす場合は「こういう結果を出すからこうしてくれ」と言うわけです。内部の場合は、プロセスが最も重要です。プロセスをしっかり説明して、共有化し、その結果、こうした成功が得られるはずだと言うわけです。

――外部、内部で共通のものもありますか?
もちろん、あります。それは情熱です。情熱を共有すると、仕事が仕事を超えて自分のもの、人生そのものになるんです。人の情熱に接して「この人に賭けてみたら、自分の生きた証しになるかもしれない」と思ったら、人はついてきます。私は、アイルトン・セナにも本田宗一郎にも「この人に賭けてみたい」という気持ちがありました。セナには「この男なら、自分の作ったものを最大限に 活かしてくれるだろう」と、本田宗一郎には「この人なら、私の力を最大限に引き出してくれるだろう」と。それは彼らの情熱に接したからです。
つまり、人を動かそうと思ったら、情熱とか夢を共有すればいい。私がセナや本田宗一郎に感じたことを、周りの人に感じてもらえるようにすればいいわけです。

――その際に、桜井さんは常に「有言実行」を実践したと聞いてます。

有言実行というのは、先ほどの「結果」とか「プロセス」を先に宣言してしまうということですね。できないかもしれない結果をやる前に言ってしまう。上司には結果を言う。部下にはプロセスを言う。あとはそれに向かって突き進むだけです。

お祭りのお神輿をみんなでやりたかった

――情熱とか夢を共有するという話がありましたが、社内の情報の共有化という点にも配慮したのですね。

情報を遮断されると、人は強い疎外感を感じます。技術だけでなく、お金とか人事の情報なんかも共有化しないと必ず感情のずれが生じてしまいます。地方に異動になった社員のところに本社から人が行くと、決まってまず真っ先に「いま本社はどうだい」なんて話になります。情報がないと不安で仕方がない。まあ、その流れで自分はいつ戻れるんだっていう情報がほしいのかもしれませんが(笑)。
情報が遮断されていると感じて、チーム内に感情のずれが生じてしまったら、もう前向きのアイデアを出すどころの騒ぎじゃない。チームはめちゃくちゃになってしまいます。F1チームって、爆発の周期が短いんですよ。自分が阻害されているとか、情報が遮断されているって感じたら、だいたい3日から1週間くらいで怒りが爆発する。そうなるとチームとしてはめちゃくちゃになりますから、そうなる前に、小さな芽のうちに摘んでおかないといけない。
常に「不満の芽がどこかに出ていないか」と目を光らせておく。それがマネージャーというか、上に立つものの仕事です。

組織というのは、生命体によく似ているんですよ。人間の細胞も、独立して動いているようで、実はお互いに情報を共有しあって、生命が維持されているんです。情報が遮断された細胞がガン細胞です。細胞がガン化する前に手を打たないといけない。ガンが大きくなると、情報が共有されずに、組織は死んでしまいます。

――情報の共有化というのはホンダという会社がこだわっていたものなのでしょうか?

特にホンダがこだわっていたということはなかったと思いますが、本田宗一郎自身はたいへんこだわっていたと思います。彼は自分の考えを若手社員とか、工場で旋盤を回している技術者たちにも伝えたいと思っていました。実際、しょっちゅう工場に足を運んで、自分の考えを語ったり、社員の要望を聞いたりしていました。まあ、社長と平社員なので、ある程度、一方通行だったのかもしれませんが、できる限りの共有化をしようと努力していましたね。本田宗一郎は、お祭りのお神輿をみんなでやりたかったんですよ。担いでいる人も見ている人も、みんなが楽しくなるような、そんな仕事をしたかったんです。

「世の中のため」と考えることが、「自分のため」にもなる

――さらに、桜井さんは仕事をする上で「why=なんのために」の重要性を説いてますね。

ええ。「why=なんのために」だけでなく、「what=何を」と「how=どうやって」の2W1Hは、何かにチャレンジする際に常に考えています。一般的にはwhatは会社から与えられるものじゃないかと思う人も多いかもしれません。でも、私はそうは思っていなくて、同じような状況に置かれたとしても、そのなかから未来につながるものは何か、あるいは自分自身の成長にとってどんな意味 があるか、何を進歩させるのか、社会にどんな価値をもたらすのか、そういうことがwhatであり、whyだと思うんです。

私は仕事というのは「事に仕える」という意味だと解釈しています。人に仕えるのではないのです。人に仕えるのでは自分の人生に意味がなくなるというか、惨めになってしまう。whyというのは、その「事」に意味をもたせる上でとても重要だと思っています。
人間が何か行動を起こすとき、「自分のために」という部分はもちろんあるんですが、同時に「何かの役に立ちたい」という気持ちも必ずあるんですね。
一生懸命頑張る以上、何らかの形で世の中の役に立ちたい、誰かのためになりたい。そんなふうに、ミクロな視点とマクロな視点の両方があるわけです。

F1で言えば「なぜF1をやるのか」ということになります。それは「勝ちたい」とか「世界一になりたい」ということももちろんあるんですが、もう一つ、それとは別の理由が必要なんです。例えば「世界の人に感動を与えるため」とか、「20世紀が生んだ文化を発展させるため」とか、そういったwhyが大事になってきます。自分はこの仕事を何のためにやっているのか。

「お金のため」「一番になるため」だけではどこかで必ず頭打ちになります。「世の中のため」という考え方があるのとないのとでは、あるところから結果に大きな違いが生じるのです。

――体的にはどんなことがあるでしょうか?

例えば、戦後の日本とドイツの経済発展を見てください。どちらも敗戦国でありながら、ある時期までは同じように驚異的な経済復興を遂げました。そんななか、1990年、ドイツはベルリンの壁崩壊により、東西ドイツが統合されました。このとき、仕事の量はたいして増えずに、人口だけが一気に増え、経済的な危機を迎えることになります。ここでドイツ国民は、「20%の人員削減をする」のか、「全員の給与を20%ダウンさせる」のかという選択を迫られたのです。

彼らは話し合いの結果、「全員の給与を20%ダウンさせる」という道を選んだのです。東ドイツの人々を受け入れるためです。一方の日本は、この頃、バブル経済の崩壊にも気づかず、その余韻に浸っていました。みんな、自分のお金儲けに奔走していたのです。その結果が現在です。日本は数字の上ではGDP世界第2位ですが、存在感はすっかり薄くなっています。ドイツはEUを牽引する立場となり、存在感を増し、さらに伸びています。「自分のため」だけでなく、「世の中のため」と考えることで結果に差が出るし、「世の中のため」と考えることがひいては「自分のため」にもなるんです。

「世界基準」という視点で論ずることができる数少ない日本人である桜井氏。次回は、本田宗一郎から受け継いだホンダイズムとは何か?2W1Hの実践とは?世界を制した桜井式組織論について、その詳細を語っていただきます。組織を動かす経営者やリーダーは必見です!
投稿日:2008年12月10日
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