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第4回 免責事項の事例 その3:自動車事故

著者:新宿西口総合事務所 代表司法書士  藤井 和彦

この連載では3回にわたって書式の例をご紹介し、その書式に記載されている免責事項について解説を行なっています。

最終回となる今回取り上げるのは、自動車事故における「損害賠償に関する承諾書(免責証書)」です。

これまでの同意書とは異なり、サービスの受発注に先だって取り交わすものではなく、トラブルが発生した後で書く書面になります。

免責にかかる記載が非常に短いうえに、何を免責するのかが明記されておらず、どういった場合にどういった理由でこれが使用されるのか、一見分かりにくい内容になっていますが、この免責証書の持つ意味も含めて一つひとつ見ていくことにいたしましょう。


自動車事故に遭ったら書く!?免責証書

実際に免責証書を見てみる前に、そもそもこの免責証書はどのような書類なのでしょうか。免責証書は自動車事故の解決に関する内容を記載した書類で、いわゆる示談書の一種にあたります。示談書と異なるのは、事故の加害者・被害者両当事者ではなく、被害者側のみ署名・捺印するという点です。そのため、書類の取交しを簡易かつ速やかに行なうことができるというメリットがあります。免責証書の効力は示談書とほとんど変わらず、特に過失割合が100:0の物損事故や人身事故の示談で使用されます。通常、加害者の加入している保険会社の担当者が用意して被害者に渡しますので、当事者ご自身が用意する必要はありません。

手続きをスムーズにするために免責証書を交わす

自動車任意保険の約款には「損害賠償請求権者の直接請求権」が規定されています。対人賠償ですと「対人事故によって被保険者(加害者)の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者(被害者)は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して損害賠償額の支払を請求することができる。」「当会社は、次のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して損害賠償額を支払う。(中略)・損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合。」。つまり、保険会社が損害賠償額を支払うためには被害者の承諾が必要であり、ここでの免責とは、被害者が保険会社からの支払いを受けるために、加害者の損害賠償額の支払を免責するという意味になります。

免責証書で損害賠償請求権の放棄を確認

それでは、免責証書を見ていきましょう。まず、前提として当事者の確認です。甲が加害者、乙が被害者になります。下に乙の署名・捺印欄があることからもお分かりいただけると思います。そして免責にかかる一文の空欄を埋めていきましょう。「私(乙)は、上記事故によって生じた損害につき、当事者甲(保険会社が用意したものですと「当事者甲及び◎◎保険会社」となっていることもあります)の既払額(これまでに甲が乙に支払った金額が入ります)のほか、(最後に甲が乙に支払う金額が入ります) を受領したあとには、甲に対する損害賠償請求権を放棄するとともに、今後裁判上、裁判外を問わず何ら異議申立て、請求をいたしません。」となります。なお、下の「その他」には、たとえば分割払いなどの支払方法が記載されます。

免責対象外の損害については別途請求できる

しかし、この免責証書には「甲に対する損害賠償請求権を放棄する。」という記述がありますが、その記述のある免責証書に署名してあればたとえ何があっても被害者は加害者に損害賠償請求をすることができず加害者は免責されるのでしょうか――。人身事故の場合、被害者に後遺障害が後日認定されたならば,その前に免責証書を差し入れたとしても、その免責対象とは別の損害であると考えられています。今回の書式にはありませんが、「後遺障害が認定された場合には別途協議する」旨の文言が入った免責証書もあります。もしなくても後遺障害に関する損害(慰謝料や失ってしまった将来の利益など)については請求できますが、心配であれば無用な争いを避ける意味からも「後遺障害が認定された場合には別途協議する」旨の文言をその他の欄に入れた方が安心でしょう。 この免責証書は、できれば記入する場面には遭遇したくないもの。万が一の場合は、短い記載の中でも内容を確認し、トラブル回避や安心につながる方向になるよう、対応したいものです。

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著者プロフィール

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藤井 和彦

新宿西口総合事務所 代表司法書士

会社登記・企業法務に特化し、全ての案件に自らが先頭に立って関わることをモットーとする。開業後8年で1人起業の会社から株式上場を目指すベンチャー企業、東証一部上場企業まで約400社の業務を手がけている。

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