事業計画書の書き方(新規起業編)

第三章 小売業の場合
①【創業の動機・事業の経験等】

2013/3/22

経営企画室 株式会社
代表取締役/中小企業診断士

小林 隆

事業計画書の書き方(新規起業編)
第一章 第二章 第三章【1234】 第四章 第五章

ご相談の経緯

業種:子供服小売業

創業予定者は、首都圏郊外に住む39歳の主婦のAさん。短大を卒業後、航空会社の電話予約センターに勤務するも、直接お客様と接する仕事がしたくなり、2年間で大手GMSに転職。婦人服・子供服売場に勤務し、27歳の時に売場主任として子供服売場を任される。

29歳で結婚、32歳で出産、会社は出産を機に退社。子供が小学生となり以前より手がかからなくなってきたことから、自分でも家庭と両立し一生できる仕事を持ちたいと考え、起業を思い立つ。

起業に当たって、かねてより市販の子供服に不満を持っていたAさんは、かつての職業経験と子育て体験を生かし、自分が本当に欲しいと思える子供服を安価で提供したいと思い、子供服小売業の開業を計画している。

とはいうものの、会社を設立する経験、単独で店舗を経営する経験は初めて。不安と期待が入り混じっている。

店舗は、優良な候補物件が見つかったものの、内装の変更や、什器の購入等に資金が必要であり、銀行借入を利用できればと考えている。

とりあえず、運営主体となる会社を、自分が取締役となり1名で設立した。資本金は500万円である。

しかし、生まれてこの方、借金などしたこともないし、ましてや事業資金など借入したことはない。そこでまず、インターネットで情報収集をしようと検索をしていたところ、大手百貨店出身の中小企業診断士が経営するコンサルティング会社を見つけた。

まずは電話で問い合わせをしたところ、「それでは会ってお話をお伺いいたしましょう。」とのことで、面会の運びとなった。

1.創業の動機

創業の経緯

Aさん

「こんにちは。電話でもお話ししたとおり、「子供服のセレクトショップ(子供服店)」を開業することにしました。

商圏の調査や仕入先の開拓等の開業準備を進める中で、地元の首都圏郊外のターミナル駅のそばの商店街に空き店舗があり、テナント募集をしていたので、思わず仮契約してしまいました。

しかし、その物件、居ぬきで駅から3分の好立地なのですが、私の考えているお店のコンセプトを表現するには、内装や外装の手直しや、什器の手配をしなくてはならず、結構の経費がかかりそうなのです。

売場づくりと品ぞろえ、店舗運営には、これまでも経験と実績がありますので、それなりに自信があるのですが、お金の借り方やや経営となると、今まで経験がなく不安がいっぱいです。

そんな私でも、銀行が信用してくれて、お店をオープンさせることができるのでしょうか。

先生

いやいや、早くも店舗の仮契約をしてしまうなんて、積極的ですね。経営者は大胆かつ慎重であるべきなので、その行動力と積極性はすばらしいと思います。今日は、私と一緒に、慎重であるべき部分を考えてみることにしましょう。

創業にあたっては、どんな方でも「創業計画書」という「事業計画書」を作成してから、起業することが望まれます。そうでなくても、金融機関に借入を申し込む際には、原則的には、必ず事業計画書が必要になると、覚えておいてください。

金融機関は、その事業計画書をもとに、その会社の将来性を予測し、きちんと貸したお金を返してもらえそうだと判断したら、お金を貸してくれます。

ですから、どんなに良い事業でも、それが事業計画の中できちんと表現されていないと、銀行からの借入は、できないことになります。

それではAさんの「事業計画書」を、最も簡単な方法で、つくってみましょう。

今回Aさんは、先に店舗を決めてしまっているようですが、本来、「事業計画」の作成には手順がありあます。

もし、親から店舗を引き継いだ場合でも、本当にあるべき姿を描くには、その店舗の事は一端わすれて、自分が本当にやりたいことは何なのかを考える必要があります。

それが、「事業コンセプト」であり1店舗の小売業の場合であれば、「店舗コンセプト」ということになります。

小売業の成功失敗に立地は大きな営業を及ぼしますが、小売業の立地というのは、必ず店舗コンセプトや戦略とバランスがとれていることが必要だからです。

例えば、定食屋の「大戸屋」さんは、女性にも大人気ですが、それまでは女性が定食屋に入るというのには抵抗感がありました。そこで、清潔できれいでジャズが流れる店内を用意し「心を満たすご飯どころ」として、定食屋あたらしいい業態を開発しました。店舗の立地は2階か地下を選択し、道路の通行人から店内で食事をしている店内の人の様子がすぐに見えないように配慮しました。これにより、女性が定食屋で食事をするという、抵抗感を減らしたと言われています。通常では、1階の路面の立地に比べれば劣ると想定される立地が、「大戸屋」さんには、好立地だったわけです。

Aさんのケースは店舗立地の候補が先に上がっていたので、店舗立地を例にとり説明しましたが、小売業を始めるために考えなくてはならない事柄、例えば「品揃え」や「売り方」、「店舗の内外装・施設・立地」といった事は、「誰に」「何を」「どのように」提供したいのかという、「店舗コンセプト」が決まってから、初めて決まるものなのです。

Aさん

よくわかりました。それでは私も、基本に立ち返り、「創業の動機」と「店舗コンセプト」を整理するところから、見直したいと思います。先生よろしくご指導をお願いいたします。

先生

はいわかりました。それでは、まずは創業の動機から整理してみましょう。

創業の動機は、「自分はとにかくこれをやりたい」という内面から湧き出してきたものと、日常生活あるいは社会の仕組みの中で解決した方がよいと考えられる「お困りごと」に起因する、外的なものがあります。

内面から出てきたものは、「なぜ自分はそれをやりたいのか」ということと同時に、「自分がそれを行う能力を有しているかどうか」を明らかにすることが必要です。

一方、外的な理由は、一般的に「マーケト・ニーズ」と言われるものです。つまり、「こんな商品やサービスあったらいいな」や「お店があったから助かった」など、人々や社会のなんらかの「お困りごと」解決し感謝される商品やサービスを見つけ、提供するというものです。例えば、スーパーが夜遅くまで開いていることは、残業の多い「お一人様(単身世帯)」のお客様には、大変に役に立ちます。

わかりやすくいうとお客様から「ありがとう」といってもらえるような仕事をすることで、対価となる売上を頂くという考え方です。

そのような発想を持ち、実際にそのようなコンセプトを貫き、店舗を運営すれば、必ずや繁盛店になるでしょうし、地域で末永く愛される店舗となることと思います。

「自分がやりたい理由」と、「自分がそれをできる能力を持っていること」、そして「どんな価値を社会に提供しようと考えているのか」が揃うと、説得力のある「創業の動機」を書くことができます。

ちなみにすぐれた経営者は、自分たちの事業の「存在価値」・「価値観」や「社会の中で果たすべき役割」を示す「経営理念」を持っています。そこまで創業の動機を考え抜いていくと、おのずと自分がどのような事業を行うべきか明確になり、それを「経営理念」として明記しておくと、事業を描く上で大きな助けになります。「やること」と「やらないこと」、そして「こだわるべきところ」と「あまりこだわらなくてよいところ」が明確になって、一貫性のある「事業計画」を作り上げることができるようになります。

Aさん

なるほど。「これをやれば儲かりそう」とばかり、考えていてもだめなんですね。「お店(小売業)」であっても、単なる「商売」でなく、お客様に役に立つという視点が必要なんですね。

先生

その通りです。

⇒ 金融機関の担当者は、毎日数多くの「事業計画」を見ています。金融機関にとって最大の関心事は、貸したお金が計画通り返済されることです。そうした意味で、金融機関は「数値計画」を重視する傾向があります。

しかし、初めてあった人にお金を貸そうというのですから、まずは経営者が「どのような人物」で、「どのような考えで事業に取り組むのか」、「やる気や事業への情熱があるのか」、と言った点にも関心が及びます。

また、この創業の動機には、事業を行うきっかけとなった着眼点が現れます。したがって、この事業が「事業性」や「発展性」、「地域にとって必要性があるのか」、といった根本内容が現れますので、気を抜かないように記載しましょう。

⇒Aさんの場合

○感じていた不満・解決したい世の中の課題
 日本には、欧米に比べ、おしゃれで安価な子供服が少ない。
 特に子供フォーマルウエアは、押しなべて同様のデザインで面白みがない。

○自分の能力
 旅行では困らない程度の英語力だが、物おじしない性格が功を奏し、アメリカのメーカーとの取引にも抵抗感はない。(正式な契約等には通訳が必要)

○内発的動機
 自分のキャリア(子供服販売、子育て経験)を生かしながら、社会性のある仕事、一生取り組める仕事を持ちたい。とはいうものの、未だ子育て中であり、できるだけ子供のそばにいてやれる仕事をやりたい。

○店舗コンセプト
 これらの、「創業の動機」をまとめ、店舗コンセプトとして、どのようなお店を出店しようとしているのか、記載しましょう。
店舗コンセプトは、「誰に」「何を」「どのよに」販売するのか、その三点から記載します。
 記入欄が狭くて書ききれない場合は、一度書き出したものを内容が伝わる程度に短く書き直すと、わかりやすい「創業の動機」が作りやすくなります。

○Aさんの店舗コンセプト
 地域のお母様、お孫さんを思うお爺様、お婆様に、お子様の晴れの日を彩るセンスのよい輸入フォーマルウエアを安価で提供することで、お子様の成長の喜びとご家族の幸せを演出する思い出の一コマづくりショップ。

その内容を分解してみると、以下のようになります。

●誰に⇒地域のご両親(特に中所得世帯のお母様、有職主婦)、お子様の祖父母様

●何を⇒センスが良く質感のある輸入子供フォーマルウエア(フォーマルドレス、タキシード、フォーマルシューズ、パニエ等国内通販や)、周辺雑貨

●どのように⇒
・営業時間:夜間も長めの営業時間で、有職主婦の方の利便性の向上を図ります。
・試着撮影サービス:遠方の祖父母様のご意見も伺いやすいように、試着写真の撮影サービスを行います。
・テレビドラマ等への衣装協力:TVドラマ・映画等への衣装協力を通じ話題性を演出。
・インターネット販売の活用:店舗小売に加えインターネットを活用した通信販売を行う。

2.経営者プロフィール(事業の経験等)

先生

創業時の事業計画書を記載するにあたって特徴的なのが、経営者となる方の事業経験を記載するということです。すでに事業を行っているかたならば、現在の事業の過去3期分程度の実績を記載することで、経営者としてどの程度の実績と力量があるのか概ねわかります。しかし、これから事業を立ち上げる方は、その情報がなく、未知数です。

そこで、経営者の方が、事業を行うに十分な知識、技量、経験を積んでいるかどうか図るために、創業に至るまでの経歴を記載いします。

複数の幹部でスタートする場合には、その方々のプロフィールを添付することもあります。

Aさん

私の場合、子供服の販売をGMSで8年間経験し、売場主任も5年間勤めましたので、売場づくりや仕入れ、オペレーションなどは、十分こなす自信はあります。しかし、会社の経営となると、なにぶん初めて、ちょっと不安があります。

先生

それが正直なところですよね。創業する方のほとんどは、会社経営は初めてであり、最初はわからないことばかりです。

だからこそ、わからないことをそのままにしないで、気軽に聞ける専門家を用意しておくとよいでしょうね。

経営者は、最終的には自己責任で判断し、物事を決めていかなければなりません。しかし、初めのうちは、「何がわかっていないのか」すらわからないことが、多くあるもののです。

例えば、Aさんの場合は会社をすでに設立されていますが、会社設立後には税務署等に届出をしなければならないことがあったりします。

そうしたことは、知識がなければ分からない事ですから、効率から考えても、うまく外部の専門家を活用して、サッサと片付けてしまい、本業にまい進されることをお勧めします。

Aさん

なるほど、そうかもしれませんね。

先生

事業計画には、「私は経営が初めてなので、不安があります」とは書けませんが、金融機関の担当者は、過去の経歴を見れば経営に不慣れなことくらい、すぐにわかります。ある意味では、初めて創業される方は誰でも、「経営は初めて」が当たり前ですから、それによって不利になることはありません。

それよりも、「事業計画書」がきちんと書かれていれば、わからないことでも必要に応じ着実にこなすことができる力がある経営者だと、判断してくれます。

ところで履歴の話に戻りますが、もし事業に関連する「資格」を保有しているのであれば、それを記載します。

また、事業を進めるうえで有利に働く人脈があれば、それもわかるように記載しておくとよいでしょう。

Aさん

私の場合、資格は販売士の1級をもっています。以前GMSに勤務しているときに、取りました。

また人脈と言えば、TVドラマの制作プロダクションでアルバイトしていた関係で、TV関係者に知人があります。その関係を使って、ドラマの中の衣装に、当社で扱う海外のステキなデザインの子供フォーマルウエアを使ってもらおうと考えています。いわゆる、衣装協力ってやつです。

そうした活動を行うことで、単に店舗での売上だけでなく、インターネットでの売上も伸びると思うんです。

先生

そうですか、それは素晴らしいアイディアですね。そした「資格」や「人脈」などもわかるようにしておくと、経営者の能力や知識、実施しようとしている「施策」の実現可能性などの説得力が増すことになりますね。

⇒経営者プロフィール(事業経験の書き方)
○略歴:最終学歴の記載から始まって職歴を記載します。転職など会社が変わらなくても、社内で大きな職種や持ち場の変更があった場合は、事業に関係があればその事柄を記載します。

Aさんの場合は以下の通りです。


平成7年3月  ○○短期大学 卒業
平成7年4月~ △△航空テレマート株式会社 カスタマーサポート(コールセンター職員)
平成9年4月~ 大手GMS I社 ◇◇店 婦人服売場
平成11年4月~ 同◇◇店 子供服売場 異動
平成14年~ 同◇◇店 子供服売場 主任
平成19年~ 大手GMS I社 退社

○取得されている資格:事業に関係のない資格は、あえて記載しません。

○過去の事業経験
過去に、事業経験がある場合は、その概要(業種、年商、資本金、従業員数、本店所在地、創業年度、いつまで事業を営んでいたか等)を記載します。
ただし創業に関する「制度融資」を活用しようとする場合、過去に事業経験があると創業者を支援する融資制度の対象とみなされない場合がありますので注意してください。

提供元:士業ねっと

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